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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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21-2 Total Lunar Eclipse ― 蝕 ― ②


 一方的とはいえ、美月がイブキレンに出会えたのはただの偶然であった。

 それは流れの中でたまたま起こった、と言ってしまえば至極単純なことである。

 しかし実際そこに至るためには、当事者を始め大げさに言ってしまえば世界のそれまでの時間経過の中で起こった様々なうねりの複雑な要素がからみあっているのだ。

 考え方によってはまさに奇跡であった。



 その日はランクバトルのシーズン三戦目であった。

 ランバトの試合は一日を通して、各リーグ順不同で行われる。ただしプラチナリーグの試合は必ず一番最後という決まりがあり、その日は、シルバー、ゴールド、ブロンズ、アンダー、そして最後がプラチナという順番であった。


 ランバトの参加チームは基本的に自分たちの試合以外は見ることはできない。

 試合を消化し、チームのメンバーが会場を出た後に、次のチームが会場入りできるシステムだ。会場への入場と退場の状況はIDチップで管理されており、隠れて会場に残ることもできない。もし不正でもすれば登録抹消である。


 美月たちのチームはアンダーリーグの最終試合であった。

 相手は、ブラックマジック。前シーズンはブロンズリーグに所属していたが、リーグ昇降戦で敗退し今季はアンダーリーグに落ちてきたチームだ。

 降格に伴い主力メンバーの離脱が相次ぎ戦力激減。今シーズンはリーグに残留し巻き返しを狙っていた。そしてこのチーム、下位リーグの中ではかなり荒っぽい連中がいることで有名であった。


 その日のバトルは二位と三位の決定戦だったため、お互いにかなり気合が入っていた。二位であればブロンズリーグへの昇格戦、三位であればアンダーリーグ残留をかけた権利確定戦であったのだ。


 美月のチームは第一試合に仲西が出場した。

 相手選手は仲西よりも体が一回り大きかったが、持ち前のスピードと見た目以上のパワーで相手をジリジリと後退させていった。そのまま順当に勝ちをとれるかに見えたが、試合中盤、仲西が前に出た瞬間、相手がダッキングするように前かがみになり頭が仲西の顎を直撃した。

 頭突きは反則である。ジャッジは相手に注意し、しばらくの中断の後、試合は続行された。しかしその後の仲西は明らかに動きが鈍くなり、不用意に前に出たところに再度バッティング(頭突き)をされてしまう。これはさすがにジャッジから注意され減点の警告がでた。少しの中断の後試合は再開されたが、仲西のダメージは予想以上に大きく、その後の展開は相手に逆に押し込まれ、2-3という僅差の判定(主審と副審合わせた五人の判定、二人は仲西、他三人は相手)で負けてしまった。


 第二試合は真野。

 その真野も試合開始直後、相手に思い切り頭突きをかまされた。ジャッジはその行為を故意的と判断し、一回目であるが相手を減点した。

 真野はその一撃でフラフラの状態になりつるも亀のようなディフェンスでなんとか凌ぐ。そしてそのままずるずると試合終了。相手の減点もあり、0-0の判定で引き分けとなった。

 そして、チームバトルの勝敗は第三試合までもつれこんだ。


 第三試合の那珂島と相手は、相手のチームのポイントゲッターであった。

 身長は那珂島よりも少し低いが、パンチもキックもそつなくこなす技術がある選手だ。

 那珂島は怯むことなく真っ向から打ち合いにいった。序盤は互角の打ち合いを見せていたが、中盤過ぎから那珂島が攻め込む場面が多くなる。

 しかしそこで再度、アクシデントが起こる。

 那珂島のパンチを捌こうと相手がパリング(パンチを手で払うディフェンスの技)した手を伸ばし、那珂島にサミング(目つぶし)を入れたのだ。

 当然サミングも反則である。那珂島は顔を背け、ジャッジが試合を中断する。これもジャッジは悪質と判断し、相手に減点を与えた。そしてドクターチェックの後に試合は再開した。


 その後は那珂島の一方的な展開となった。

 それまで冷静に攻防を行っていたスタイルから一転、攻撃に全振りした鬼のような那珂島がいた。相手は懲りずにサミングやバッティングを狙うが、ひたすら前に出てくる那珂島にタイミングを合わせられず押し込めれてしまう。

 結果判定5-0で那珂島の勝利となった。

 各チーム一勝一敗一分けであるが、判定勝ちのポイントで那珂島が上回り、チームとしてはリーグ二位の戦績を残した。


 そして事件は試合が終わり会場を撤収するときに起こった。

 ブラックマジックのメンバーが帰り際に那珂島たちに絡んできたのだ。


 このブラックマジック、先ほどの試合の後、三試合連続で意図的な反則行為を行ったと判断され、運営から参加資格不相応としてランクバトル参加権を取り消されたばかりであった。

 リーグ除外に合わせ、次に行われる予定であった権利確定戦も出場できなくなってしまったのだ。


 すでに相手チームのメンバー全員がヤケクソ状態である。

 まともなチームであれば、その結果を受け入れそのまま撤収するのであろうがブラックマジックは無駄にメンバーのガラが悪かったのもその暴走の大きな要因であった。



 会場の出入り口、ブラックマジックのメンバーは美月たちを待ち伏せていたかのように大声を上げながら喰ってかかってきた。

 他のメンバーは即座に対応できたが、美月には残念ながら格闘の技術はゼロである。その日も男物のダボダボの洋服を着ていたので、当然相手も美月を男だと思ったのだろう。髪もぼさぼさで体も小さく、向こうからしたら格好の標的であった。

 キレて突進してくる相手に何もできず一方的に美月は殴られてしまう。那珂島が慌ててかばいに行くが間に合わない。タチの悪い相手が吹っ飛んで倒れた美月をこれみよがしに追撃していた。

 すぐに運営のスタッフが駆けつけ間に入ってくれたが、美月は気を失ってしまっていた。




 不意に美月は意識を取り戻した。

 起きた瞬間左の頬と右のわき腹がじんじん痛んだ。周りを見ると、知らない部屋で横になっていた。おそらく救護室だろう。

 隣に那珂島がいた。心配そうに顔をのぞき込むと、美月が目を覚ましたことを、近くにいた初めて見る女性に伝えた。どうやら看護師のようだ。付き添いには那珂島だけが残り、他のメンバーは会場近くで待っていてくれているようであった。


 美月はすぐに帰りたかったが、念のため状況経過を観察したいのですぐには帰らず、しばらくそこにいるように言われた。二人が無言で医務室で休んでいると時々歓声のようなものが聞こえてきた。どうやら会場ではプラチナリーグの試合が始まっているようであった。


 美月は思い切って、休んでいる間ランバトを見ることはできないか、とその女性看護師に聞いてみた。看護師は少し躊躇した後、ちょっとスタッフに聞いてくる、といって部屋を出ていった。

 程なくして戻ってきた看護師は、見るだけならいいけど撮影は絶対ダメ、と言って会場に案内してくれた。美月が連れていってもらった場所は救護席であった。


 救護席は通常、試合で何かあったらすぐに駆け付けられるように試合場のすぐ近くに用意されている。見る側からすればそこは特等席、スペシャルリングサイドであった。これは運営の気づかいなのかなと美月は感じながらも、こんなケガもしてみるもんだなと思った。



 プラチナリーグの試合は、アンダーリーグとは別格であった。

 技術、スピード、パワー、インサイドワークなど、見ていても理解できない技の攻防が展開されていた。一緒に来ることを許可された那珂島も食い入るように見ていた。美月も痛みを感じながらもひたすらバトルに魅入ってしまう。

 次のバトルメンバーがコールされた。

「サンクチュアリ、イブキレン」美月の全身に鳥肌が立った。

〈イブキレンだ〉

 どんないかつい選手が出るのかと、目を見開いて食い入るように注視する。

 しかし試合会場に進み出たのは、美月と年もさほど変わらない少女であった。

 身体の痛みも忘れ、美月は動けなくなっていた。





 那珂島と蓮、凜の三人はファミレスを後にすると、無言で駅に向かった。

 そして駅に着くと改札のところで、じゃあね、と言ってそれぞれの帰路についた。


 帰りの電車に揺られながら蓮は、那珂島の鉄仮面のような態度は世の中の理不尽なものに対する怒りなのではないか、とふと思った。

 那珂島が話していたことが本当であれば、まぎれもなく彼らはただの被害者だ。

 美月は長い間出口のないトンネルを彷徨い、未だにそこから抜け出せないでいる。

 ただそんな中でも、自分という存在を美月が少しでも拠り所にしてくれていたという事実が、蓮には妙にうれしかった。

 そしていつの日か、美月の本当の笑顔を見ることができる日が来ることを、強く、願った。








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