21-1 Total Lunar Eclipse ― 蝕 ― ①
次の日、仲西と那珂島は学校に来なかった。
一方で二人を締め上げた連中はいい気分である。
「下手にかっこつけて自分が不登校になってどうすんだw」リーダー格の土屋が二人をバカにすると、取り巻きの連中は大笑いしていた。
それから数日後の昼休み、突如として二人の反撃が起きた。
その日の朝、仲西と那珂島はここ数日と同じように親に欠席の連絡をしてもらっていた。
当然二人とも学校にはいないはずであったが、何の前触れも無く二人は学校に現れたのだ。
そして絶妙な連携を組みながら、土屋やその一党を一人ずつ殴り倒していった。その騒ぎを聞きつけた教員が駆けつけるころには、数クラスの教室に渡って二人を袋叩きにしたメンバーの半数以上が床に転がっていた。
これだけの問題行動を起きてしまったら、学校側も隠ぺいの仕様がなく事の発端を調べざるを得ない状況になった。そして調べを進めていく中で、この問題の最初のきっかけは那珂島の妹に対するいじめであることがわかると、一気に地域全体に知られるニュースになった。
その後いじめを行ったとされる人物の聞き取りから、それを目撃していた生徒の状況確認が時間をかけて行われた。
いじめた側は当然のように否定し、学校側はまるでそちらを擁護するかのような姿勢を見せた。一向に話が平行線のまま時間だけが過ぎ、那珂島たちはそれまでの記録や証拠をもとに裁判に踏み切った。
そこに至る中でわかったことであるが、最初に那珂島の妹をいじめのターゲットにし始めた生徒は仲西たちの学年の女子であり、名前は岡田香織といった。
那珂島は通っていた空手道場はやめさせられた。
仲西はつきあっていた友達がほとんどいなくなった。それまで仲がいいと思っていた人間は全員よそよそしくなり親交も途絶えた。
ただ仲西が思うのは、この程度で離れていく人間はもともと友達ではないのだろうということだけだ。そして、それとは引き換えに最高の人間と出会えたと思っていた。今まで我流でやってきた格闘技に合わせ、那珂島から技を教えてもらいながら一緒に練習をし始めるようになった。
仲西は恐ろしい速さでで実力を伸ばし、小学校を卒業する頃には二人ともほぼ同じぐらいの強さになっていた。その仲西の成長を一番喜んでいたのは、他でもない那珂島であった。
次第に二人は周囲からいろいろな意味で恐れられる存在となっており、教員からは陰でN2地雷と呼ばれれるようになっていた。その後、中学に進学すると空手部に入部し、更にその強さに磨きをかけていったのだ。
那珂島の妹の美月は、トイレで襲われた後から全く学校に行けなくなっていた。
女の子らしい服装をすることも一切しなくなり、髪も自分で短くぼさぼさに切ってしまう。そして自分は女をやめたいと言うようになり、那珂島に自分を妹と言うのをやめるようにお願いした。
学校に行けないまま小学校を卒業し、書類上は中学生になったが、美月の状態は一向に変わることはなかった。延々と不登校が続く中、唯一興味を示したのがランクバトルであった。兄である那珂島からは空手部の厳しく楽しい日々のことは聞いていた。そして那珂島がランバトに参加し始めたころから、美月もそれについて詳しく調べ始めたのだ。
しばらくすると、美月自身もランバトのチームに入りたいと那珂島にお願いしてきた。
那珂島は美月をメンバーにするのを最初は嫌がったが、本人がどうしても入れてくれと懇願したため、他のメンバーと相談し加入させた。きっかけが何であれ、美月が自分から何かをしたいという気持ちを大切にしたい、と言う那珂島の思いもあった。
ただし美月には格闘の能力はないため、バトルには絶対に参加しないという約束をさせた。かといって美月の存在が無駄ということではなかった。チームの頭数という意味では貴重なメンバーであるし、何より相手チームのデータを分析してくれる有難い存在であった。
ランバトは、毎月のバトルの結果や対戦したチーム名、バトルしたメンバーの名前は、カタカナ表記であるがわかるようになっていた。他チームの全員のメンバーの数や名前はわからないが、毎月のバトルに出場しているメンバーを分析していくと結構なチーム事情が分かる場合があるのだ。
美月は自分が所属しているアンダー以上のチームの分析も積極的に行っていた。
自分が好きなことはかなり深いところまで突き詰めるのは昔からの性格である。那珂島は美月が何か夢中になれることができてとてもうれしかった。
そんなある日、美月が珍しく興奮した口調で那珂島に話しかけてきた。
「お兄ちゃんこの人すごいよ。一年以上連続してバトルに出てるのに全然負けてない」
その登録名称は、〈イブキレン〉。
ランクマのデータは前年度のものまでは確認できた。ある程度出場回数が多い選手は確かにいるが、上位リーグに行けばメンバーも充実しており、同じ人間が連続して出ることはあまりないのが通常であった。全勝している者もいないわけではなかったがトータルのバトル数は少なかった。
イブキレンのデータを見ると、確認できるすべての試合でチームのバトルメンバーからはずれていない。他のチームでも同じ選手が出場していることを確認できるが、ここまで連続して出場しているのはとにかく異常であった。引き分けが一回だけあるものの、他はすべてKO勝ちを収めていた。
そのデータから読み取れるのは、イブキレンの異常な強さだけでなく、そのチームがゴールドリーグからプラチナリーグへ昇格できた立役者であるという事実であった。
それから美月はイブキレンについて調べ始めたが、全くその手掛かりを掴めずにいた。
ランバトについての情報は絶対にSNSに載ることは無い。バトルの撮影は運営から厳しく禁止され、動画や画像をネットに上げることは固く禁止されている。もしその約束を破った場合は、リーグからの除名だけには留まらず多くのペナルティが課されるからだ。
口頭での会話までは厳しく禁止されているわけではないが、プラチナリーグやゴールドリーグの知り合いはその時点では誰もおらず、カタカナの名前だけでは何もわからない。
イブキレンの情報は皆無であった。




