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RR ー Double R ー  作者: 文月理世
RR ー Double R ー EN
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19 New Moon ― 天岩戸 ―


 蓮は那珂島の弟に会うことにした。

 その返事に普段の那珂島にしては珍しくひどく喜んでいた。仲西も一緒に行ってくれると思っていたら、俺は女との予定があるから行けない、とへらへらしながら断られてしまう。

 そんな仲西を見て、こいつふざけてんのか、と蓮は思った。


 那珂島はそんな仲西の態度に一瞬複雑そうな顔をするが、特に責めることもなくすぐにいつもの表情に戻った。蓮は那珂島のその表情の変化をとらえたが、それも気にしすぎかな、と思いあえて何も聞くことはしなかった。

 凜も誘ったところ面白そうだからついていくと言ってくれた。

 そして予定を次の日曜日に決めると那珂島の家を訪問する運びとなった。



 那珂島の家は田園調布という駅が最寄り駅であった。

 日曜日の昼過ぎ、蓮と凜は約束の時間よりも少し早めに駅の改札に集合し、いつもの制服姿で待っていた。二人が待っていると、間もなくやけにさわやかな男が近づいてきた。それは白いポロシャツに茶系のチノパンという私服姿の那珂島であった。


 那珂島の身長は百八十センチぐらい、顔も結構いい部類に入る。普段は制服を着崩して、わざとだらしなくしているように見せているが、その姿でも十分いい部類に入るぐらいだ。

 グリルガーデンで那珂島が席を外しているときに仲西が言っていたのであるが、実は那珂島は結構女子からもてるらしい。中学の時にもそれなりの数の女子からお誘いがあったり、告白されたりしたらしいが、ほとんど相手にしなかったそうだ。だからと言って女が嫌いなわけではないそうで、

「あいつはアマノジャクなんだよ」とバカするでもなく仲西は真顔で言っていた。


 駅の西口を出ると、三人はそこからしばらく歩いた。

 蓮が住んでいる場所に比べると目立って高い建物も無く完全な住宅街であった。通りは曲がり角が多くちょっとした迷路を進んでいる感じがした。歩いていると少し勾配がある道になり、さらに数分進んだところに那珂島の家があった。

 家の周りは塀に囲まれており、中の様子は見えないが、ちょっとした庭があるようだ。那珂島は開閉式のガレージの横にある、防犯性能が抜群に高そうな鉄のドアをカードキーで開けるとそそくさと中に入っていった。


 扉を抜け進んでいくと、よく手入れされた中庭が見えた。奥に見える家屋は今風の二階建ての戸建てであるが、結構な大きさである。蓮は自分の部屋何個分だろうと凜に独り言のように話しかける。凜はしばらく考えた後、「わかんない」と言って、えへへと笑った。


 二人は無言の那珂島についていき無言のまま玄関を上がると、左手にある広い応接間に通された。那珂島は、何か飲みたいものあるか聞いてきた。なんでもいいと二人が言うと、飲み物とってくるから、ちょっと座って待っててと、言ってどこかへ消えていった。


 二人が高そうなソファセットに座って待っていると、那珂島がしばらくして、高そうなグラスを高そうなトレーに乗せ持ってくると、二人の前に高そうなコースターを敷いて飲み物を置いた。普段は表に出そうとはしないが、かなりしっかりした育ち方をしているのだろう。


 三人はソファに座り、無言で飲み物を飲んだ。しばらく奇妙な沈黙が続いたが、もうそろそろ、呼んできてもいいかなと、那珂島が遠慮がちに尋ねる。蓮が、いつでも大丈夫だよと答えると、那珂島は部屋を出ていき階段を上る音が聞こえた。しかし、それから五分経っても、十分経っても、一向に那珂島が戻らない。


 凜は応接間を立ち歩いて、珍しそうに壁に掛けられた能面の飾り物を見ていた。蓮も凜の隣に行って、それをよく見てみる。般若やひょっとこ、おかめなど五つの仮面が横並びに飾られており、それぞれ本当に顔につけることができる大きさをしていた。真ん中の般若が、空洞になった瞳で虚空の一点を凝視していた。



 その時、不意に扉が開く、那珂島よりも二回り小さい人間が、那珂島の後ろに隠れるように蓮たちを見ていた。大き目のダンガリーシャツに、細身のジーンズという服装であったが、洋服越しでも線の細さがわかるぐらい痩せ細っていた。

 顔に不釣り合いな大きなメガネをかるその奥に見える顔は頬がこけている。髪型はどこかのヲタクのお手本のようにおかっぱにしており細く黒い髪が揺れていた。目鼻立ちの素材はかなりいいものを持っているのにそれが全く活かされていなかった。


 那珂島に連れてこられた人間は自分がどうしたらいいのかわからず、顔を兄に向けて助けを求めていた。その横で、那珂島がせかすでもなく繊細なガラス陶器を扱うような視線で見守っている。

 お面の飾りの前に立っていた蓮が、

「那珂島の弟だよね」と言い、ソファに座るよう勧めた。

 それでもその人物は動かないので蓮と凜は先にソファに座りじっと待つ、その時、凜が立ち上がり壁に飾られていたお面を二つもってきた。蓮は、なんてことするんだ、と思いながら固まっていると、

「これで顔隠せば、少しは話しやすいんじゃないの」と言いながら、凜はひょっとこのお面をかぶった。蓮は般若のおめんを渡される。


「なんで私が般若なのよ」蓮はどうでもいいことを聞いてしまう。

「だって、蓮と初めて会ったとき般若みたいな顔だったじゃない」と凜がひょっとこのお面を被った顔で言った。そう言われて蓮は、

「まあ確かに、」と妙に納得してしまう。

 その時、くすっと静かに笑う声が聞こえた。那珂島の弟であった。横にいた那珂島の顔が一瞬歪んだ。



 那珂島の弟は遠慮がちにソファに座るとぺこりと頭を下げ蓮と凜に礼をした。

 さすがに凜もお面を取って、初めまして、と挨拶をする。那珂島が、ごめんこうゆうの、こいつほんとに久しぶりだからと、言い訳するように代わりに謝った。


 もじもじして何も話せないでいるので那珂島が紹介をした。年は一つ下、名前はみづき、今回の件でどれぐらい頑張ってくれたのかを那珂島は下手な説明であったが一生懸命した。

 その間もみづきとよばれる人物はずっとうつむいたままであった。その那珂島の話もあまり長続きしない。それから蓮がみずきはパソコンに詳しいのかとか、いつも何をしているのかを聞いても、本人はもじもじして一切答えられず、那珂島が代わりに説明する通訳のような状態になってしまう。


 凜はお面をひっくり返したりしてその造りを熱心に見ていた。蓮は会話のキャッチボールができず、何を話したらいいかわかなくなってしまった。それからしばらく四人が沈黙の海を彷徨っていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

 那珂島がちょっとまってて、と言って応接室からでていく。すぐに戻ってくると、両手に大きな寿司桶を二段持ってきた。

「ごはん食べるかなと思って、注文したんだけど」とそれをテーブルの上に置いた。中にはウニやイクラだけでなく、明らかに大トロや中トロと思えるものが敷き詰められていた。


「お寿司なんてもう何年も食べてない」と思わず蓮は言う。

「えー私も」と凜も言うが海外にいたら寿司を食べることはないだろうと、蓮は心の中で軽く突っ込みを入れた。

「今日は、俺が無理言ってきてもらってるから、いっぱい食べて」と那珂島が言った。


 蓮はお言葉に甘えてたくさん食べた。

 凜は小食なせいか、すぐにおなか一杯になってしまう。たまごがやけに気に入ったらしく、そのほとんどを凜が食べた。蓮は凜の倍以上食べたが、那珂島とみづきはほとんど食べなかったので結構残ってしまった。残りは那珂島がパックに入れ、持ち帰って食べてといって、保冷剤と一緒におみやげに持たせてくれた。


 じゃあ今日はもうそろそろと那珂島が言い、みづきに何かを聞く。みづきがうなずくと、那珂島が二人と一緒に写真を撮ってもいいか、と聞いてきた。蓮も凜もいいよーと言い、みづきを真ん中にして写真を撮った。

 みづきは、二人よりも背が低かった。

 蓮は隣のみつきの小さい横顔を見ると最初から感じていた違和感の正体を確信した。その後、凜の勧めで蓮とみづきで二人だけの写真を撮った。


 帰り際、家の玄関までみづきは見送りに来た、蓮と凜がじゃあねと言い帰ろうとするのをみづきは何も言わず、もじもじと無言でうつむいたままであった。

 その時、蓮がみづきに右手を差し出す。みづきははっと驚いたようだったが、おそるおそる自分の右手を差し出した。蓮はやさしく両手でその手を握り、

「いろいろありがとう」とお礼を言った。

 みづきは、少し口を開き何か言いかけたが、それが声になることはなかった。



 那珂島が、駅まで二人を送ってくれるらしい。

 駅まで少し距離がありへんに道沿いに進むと遠回りになってしまったり、行き止まりになっている場所があるようだ。

 三人でとぼとぼと歩く中、蓮は唐突に那珂島に言った。

「勝手に弟って思い込んでたけど、あの子女の子でしょ」

 那珂島はうつむいたまま黙っている。

 凜は歩きながら、お土産にもらったかっぱ巻きをぽりぽり食べていた。



 それからしばらくして、駅から少し離れた静かなレストランに三人はいた。

 那珂島が、二人に話したいことがあるといって誘ったのだ。まだ夕方前で帰るには少し余裕があるので、蓮と凜は話を聞くことにした。


 お店はファミレスのチェーン店で、客の入りはその時間にしては少なかった。

 那珂島が店員に静かな場所をお願いしますと言ったら、奥にあるソファの席に案内してくれた。三人はドリンクバーを注文し、飲み物を適当に用意すると、おもむろに那珂島が話し始めた。








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