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波乱の幕開け? パーティ開始!

……ついに、例のパーティが始まる。


パーティのため王都のガートネット公爵邸へ来た私は、メイドのリリーにドレスを着させて貰いながら、その憂鬱さからため息が出た。


以前参加した際は煌びやかな赤のドレスを仕立てたが、今回のドレスは紺色だ。前に比べれば地味、とも言えるけども、参加するのは王家のパーティだ。下手なものを選ぶわけには行かず、見る人が見れば仕立ての良さが分かる精錬された一品だ。


むしろ前回よりも上品さが増して、魅力的かもしれない。上等なドレスに仄かにテンションが上がるが、どこに行くかが頭を掠めると、そんな気持ちもしなしなと萎んでいく。


「あれ? パーティに行くことが決まった時はあんなに喜んでいたのにどうしたのですか?」


リリーがきょとんとした顔を浮かべる。確かに彼女からすれば不思議なことこの上ないだろう。けれど前世の記憶を取り戻し、婚約破棄と処刑されたことを思い出した今となっては破滅への道のりの第一歩であるこのパーティは頭痛の種でしか無い。


本当なら絶対に行きたくなかったのに、ヨナスの口車に乗せられたことが悔やまれる。


ドレスに着替え終わり、ヨナスと合流する。同じく紺色をした礼服に身を包んだ彼は、ちらりとこちらを一瞥すると、小馬鹿にした様子で口を開いた。


「馬子にも衣装じゃないか。でも、装飾品が多いな。光るものは外すように言っていたはずだが?」

「あのね……。これ以上外したら、会場で悪目立ちするからね!」

「知るかよ。くれぐれも俺の足を引っ張るなよ」


呆れた様子でヨナスは視線を外す。やれやれとでも言いたげな態度が鼻にかかるが、口答えしたところで言い負かされるのは目に見えている。


私とヨナスが示し合わせて、同じ色にしている理由は一つ。今夜パーティを抜け出すアーノルド王子を尾行する予定だからだ。


闇夜に潜む上で派手な服では支障がある。装飾は極力減らす事、派手な色は避ける事、ただし祝い事である以上、黒は禁止。


それでたどり着いたのが、紺色のドレス。フリルとレースはたっぷりと付いているが、紺一色のドレスは闇の中で浮くことはないだろう。……パーティでは浮くだろうけど。


苦肉の策としての装飾具なのに、ヨナスは非常に不機嫌そうにジロジロとネックレスや髪飾りを眺めている。おめかししている女の子になんて視線向けてやがるんだコイツは。


ギスギスとした空気のまま、馬車に乗る。王宮は公爵邸のすぐそばだが、そもそも王宮が広く歩いていくには無理がある。

御者の揺れを気遣う声もそこそこに聞き流し、外の景色を眺める。門をくぐってすぐに簡単な声が漏れた。


「……うわぁ!」


二度目だというのに、豪奢な飾り付けと人々の群れへの感動は薄れなかった。馬車のタラップを踏んで、大きく開かれたパーティ会場のエントランスへと入る。


綺麗に着飾った美しい人々に、煌々と光るパーティ会場。ここにある全てが一級品であることは、無知な子供でも感覚で分かる。はしたなくキョロキョロと視線を動かしていると、横からヨナスが小突いてきた。みっともない真似をするなと言いたいらしい。


私も腐っても公爵令嬢だ。現代日本の庶民暮らしを思い出し、甘やかされ尽くした令嬢生活に居心地の悪さを感じていたとしても、取り繕わなければいけない。


気を取り直して毅然と前を向く。歩幅を揃える気のないヨナスが、さっさと先へ進むのでそのまま後ろをついていく。


同じくパーティへ招待されて来ただろう貴族の令息令嬢たちが、ヨナスの顔を見て急いで道を開けていく。


王家と強い血縁関係があり、現宰相が当主を務める公爵家は強い権力を持っている。貴族でも下手に関われば、タダでは済まない。


前回はその権力を傘にきてやりたい放題やっていた私も、こうして冷静になって目の当たりにすると、その暴力性に圧倒される。


私たちが黒といえば白いものさえ黒くなる。


……そして、そんな力を持ちながら私が処刑までされたのは、かなりの罪をもりもりに盛られていたのが分かる。正直全部は把握しきれていない。ゲームをしていた当時は悪のバーゲンセールとネタにしていたものだ。懐かしい。


ぴたり、と前を歩いていたヨナスが足を止めた。突然のことだったのでそのまま背中に衝突する。嫌味の一つでも帰ってくるかと思いきや、彼は無言を貫いたまま、踵を返した。


いきなり向き合った顔は、いつもの涼しい表情とは違ってどこか焦りが見える。


「え、あれ? どうしたの?」

「……声を抑えろ」


強い口調に咄嗟に口を閉じるが、気になって肩越しにヨナスが見たはずのものへと視線をやった。


そこは長い赤毛を三つ編みにした少年が立っていた。祝いの席には相応しく無い黒い服をきっちりと着こなして、会場の端で人混みに紛れるように立っていた。


礼儀知らずな格好であるにも関わらず、周囲の人間はまるで彼が見えていないかのように気にした様子がない。


……いや、違う。気にしていないフリをせざるを得ないのだ。誰にも話しかけられる事なく、むしろ避けられているにも関わらず、そばかすの散った端正な顔は微笑みを浮かべている。


イヴァン王子がそこに立っていた。


「あれぇ。これはガートネット家の方々。愚兄の誕生祝いにようこそ」


にこやかに話しかけられ、イヴァンに背中を向けたまま小声でヨナスが悪態をつく。


「くそっ」

「そりゃあ気づくよ。ヨナス、目立つもん」

「やかましい! そんな事は知っている!」


形のいい眉をこれでもかと顰める。周りに頓着していないから周囲の様子には気づいていないのかと思いきや、存分に自覚があったようだ。


「……行け」

「え?」

「お前がイヴァンの相手をしろ。俺は一回アイツに殺されてるんだぞ。 ……早くしろ!」


肩を掴まれて、そのまま私はイヴァンへと向き合わされた。強引に立ち位置を変えたヨナスは素知らぬ顔をしながら、彼から距離をとっていく。


私だって処刑されてるんだけど!あなたとコイツのせいで!


怒りで震える拳を必死に抑えながら、私は努めて平静にイヴァンへ挨拶をすることにした。ヨナスへの文句は絶対後で存分に言うとして、イヴァンに対しては慎重に相手をする必要がある。


彼もヨナスのように前の人生の記憶だけがあるのか、私のように転生者なのか、冷静に見極める必要がある。それに、ゲームのシナリオ通りなら、彼には国を揺るがす企みがある。記憶が無くても慎重に相手取らなければいけない。


「……お招きいただき光栄です。イヴァン殿下もご健勝のようで何よりです。その、アーノルド殿下は? 僭越ながらお祝いを申し上げたいのですが……」


おずおずと口を開く。大っぴらにはされていないがこのパーティが彼の婚約者を決めるためのものである事は、令嬢たちにとっては暗黙の了解だ。私たちの目的が何にせよ、居場所を尋ねるのはなんら不自然なところはない。


実際にアーノルドの所在を聞いても彼は驚いた様子は見せなかった。しかし、イヴァンの答えは私の想像とは大きく異なっていた。


「アーノルドに会いたいのかい? なら、彼とは別行動した方が良いかもね」


にこり、と人好きのする笑顔を浮かべる。その表情は彼の中に必ずあるはずの腹黒さも陰険さも感じさせない。


『彼』とは、ヨナス以外にいないだろう。だけど、どうして?


困惑した表情から読み取ったのか、イヴァンはそのまま話を続けた。


「あいつは彼のことが苦手だからね。避けてるのさ。君たちが来る前は僕の隣にいたけど、ヨナスの姿が見えた途端逃げ出した。このまま一緒にいればずっと会えないよ」

「な……」


なんですって。と言いかけて言葉を飲み込む。場合によってはアーノルドと接触して協力を仰がなければいけないのに、よりによって避けられてる…!?


何が「俺の足を引っ張るな」よ! 引っ張ってるのはヨナスの方じゃん……! ヨナスへ言いたい文句が積み重なっていく。作戦決行に暗雲が立ち込める中、さらに事態を混乱へと巻き込むひと言がイヴァンから発せられた。


「良かったら僕と行動するかい?」

「えっ!?」


浮かべられた微笑みは柔らかく、気安くも思える。しかし、その言動には何処か有無を言わさない迫力があった。


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