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性格の悪い男そのに

王家主催のパーティ前夜。


アーノルドは王宮の廊下を歩いていた。彼はついに明日に控えた自分の誕生祝いのパーティに緊張を募らせていた。外はもう真っ暗だが、どうにも落ち着かず従者の一人も連れずに歩いていた。

そうはいっても、ここは王宮内。国内随一の警備の敷かれたここに危険があろうはずもない。


特に警戒することなくぼんやりと一人で歩き続けていたところに、すぐ傍に人影があったことに気付き、心臓が大きく跳ねた。


嵌め殺しの窓際に、腰まである燃え盛るような赤毛を三つ編みにした少年座っていた。外を眺めているたようだが、その視線の先にあるのは暗闇だけで何も見えなかった。


後姿を見てほっと息を吐く。

しかし何故こんなところに居るのか不審に思い、声をかける。そばかすの散った幼い顔が緩慢と振り返った。まるで最初から話しかけられるのが分かっていたかのような仕草だった。


「やぁ、イヴァン。何を見てたんだ?」

「……いや。ただ考え事をしていただけさ。君の婚約者が誰になるだろうってね」


貼り付けたような笑顔で、アーノルドの腹違いの弟イヴァンは答えた。弟といっても生まれた日は3ヶ月ほどしか違わない。


彼の言葉に、アーノルドは渋い顔をした。

明日のパーティは、表向きこそアーノルドの誕生パーティだが、本当は彼の婚約者を決めるため王后が取り仕切っている日だった。どうにも落ちつかないのも将来の伴侶が決まるのかと思うと不安で緊張してしまう所為だった。


「さぁ…。誰になるんだろうな?」

「当ててあげようか? ガートネット家のアリサだよ」


アーノルドが言葉を濁すと、イヴァンはなんとも無いことのようにさらりととある人物の名前を口にした。驚いて目を見開くと、イヴァンは笑い声を上げた。


「ふ、はははは! なに神妙な顔してるわけ? こんなの考えればすぐ分かることさ。まるで嫌な未来を予知されたみたいな反応するなよ」


笑われて顔が熱くなる。確かに家格的にも年齢的にも適任なのは分かりきった事だった。


ガートネット家。王族とも濃い血縁関係にある一族で、王国の中でも強い影響力を持つ。王家の家紋の由来にも関わる由緒正しい家柄の人々だ。


現当主にはアーノルドと同い年の一人娘がいて、その名前がアリサだったはず。何度か会ったこともあるけれど、あまり深くは関わった事がない。使用人に我儘を言って困らせている姿が印象に残っていて、あまり仲良くなりたいという気が起きなかったからだ。


しかし、イヴァンが彼女の名前をあげたのは別の理由もあったらしい。目をすがめて、アーノルドの髪へと視線をやった。まるで本物の金を伸ばした作ったようだと褒められる色の濃い金色の髪。同じ色の瞳をイヴァンは黒い瞳で眺めると、小さく鼻で笑った。


「母君様のブロンド好きは筋金入りだから、きっと彼女の容姿を気にいるよ。もともとガートネット家の人々は彼女のお気に入りだしね。ほら、あの家の人々は色の薄い髪ばかりだから」


皮肉めいた口調につい口出しをする。


「母君様って……君の実の母親だろう? 変な言い方はよせよ。義母様はそんな外見だけで人を見るような人じゃない」


「へえ、素敵な嫌味だ。それとも本気で言ってるのかい? 僕より君の方を愛するような人が?」


イヴァンは笑顔を崩さない。でもそれが本当の表情だとはとてもアーノルドには思えなかった。


現王后はイヴァンの母だ。正妃だったアーノルドの母は流行病で数年前に亡くなってしまった。それで側室だった彼女が王后になった。彼女は何故かイヴァンを毛嫌いしており、アーノルドを贔屓していた。その露骨な態度は王宮内に周知されており、イヴァンへ侮った態度を取る使用人すらいる。いや、態度に出す人物こそ少ないが、多くの王宮の人びとが王后のご機嫌取りに彼を冷遇しているのは明らかだった。


返す言葉に詰まり黙り込むと、イヴァンは眠たそうに欠伸をした。そしてまた窓の外を眺め出した。暗い外を見ても、見えるのは暗闇と、ガラスに反射する自分の顔だけだというのに。


「ふふ……、赤毛にそばかす。あの人の嫌いなものばかりだな」


愉快げに嗤う弟の真意はアーノルドには分からなかった。だが、実の母親に嫌われる弟を嫌いにはなれなかった。


憐れみの瞳を向けられていた事に気付いたイヴァンは不快そうに振り返った。


「折角人が気分よく浸っていたのに、水を差すのが上手だね」

「……父様は君にも期待してる。いつかイヴァンの才覚に義母様が気付く時が来るさ」


気分を害した様子に、アーノルドは罪悪感を募らせた。せめてもの慰めにと、励ましを口にすると、ますますイヴァンの表情は険しくなるばかりだった。


「ふーん。”も”ね。いやぁ、……恵まれた奴ってのは本当に鼻に付くな」


がらりと声音が変わり、低くつぶやかれた言葉にアーノルドは後ずさりした。しかし威圧されたのも一瞬、イヴァンはぱっとすぐに元通り本気か嘘かも分からない軽薄な態度へと戻った。


「なんてね。ホント、兄様は素直でからかいがいがある。まさか僕が本気でそんなこと思うわけないじゃないか」

「や、やめろよな。悪趣味な冗談は!」


ほっと安堵の息を吐く。強張っていた体から力が抜けていくのがアーノルドは分かった。その様子を見たイヴァンはピョンと跳ねるように窓枠から降りて立ち上がった。

埃をはたき落としながら、陽気に笑顔を見せる。


「尊敬する兄に婚約者ができる前日に僕も浮足立ってるのさ。それに明日はいろんな人に会えるしね」

「そうだな。……俺も楽しみだ」

「なんだか含みがあるな。会いたくない奴でもいるのかな」


図星を指され、アーノルドは顔をひきつらせた。脳裏に呆れたように眇められる青い瞳が思い浮かぶ。アリサを避けていたもう一つの理由、ガートネット次期公爵。

公爵家であり姉の治療のために王都に暮らす彼とは頻繁に顔を合わせるが、どうにも馬が合わなかった。敵意を感じる事は無いが、呆れや失望、侮りと言った感情は常日頃から浴びせられている。


表だって詰られたことは無いが、一挙手一投足値踏みされるようなあの視線はどうにも苦手だった。

苦い顔で黙り込んだアーノルドに対して、イヴァンは愉快そうに口角を上げると、肩にかかっていた三つ編みを払って背中へと落とした。


「じゃあ、僕はこれで。パーティが待ち遠しいね。ふ、ふふ……」


アーノルドの痛いところを突けたのが面白かったのが、どことなく機嫌が良くなっている様子だった。付き合い方の難しい弟に、アーノルドは軽く手を振ったが、イヴァンはそのまま背中を向けて歩き出してしまった。


代わりとばかりに、尻尾のように揺れる三つ編みを眺めながら、アーノルドはため息を吐いた。明日の事を思うと気が重くて逃げ出したくなる。

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