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ピピー!フラグ建設工事中です!

「む、無理があるでしょ。大体、そんな事しても私に得なんてないし……」


当然口からこぼれ出た異論に不愉快そうにヨナスが顔を顰める。自分勝手な言い分を口にしているというのに、なんでこんな顔が出来るのか。


そもそも私がアーノルドの婚約者になったきっかけは、王家主催のパーティに出席したからだ。殆ど両家の間で決まりかけていた事だけど、この10歳のパーティで私を見かけた王后様が、私の器量を気に入って推薦してくれたことが決め手になった。


絶対にパーティには出たくない。アーノルドと関わるのもゴメンだ。


「……お前、俺の姉が死んでも良いってことか? 血縁だぞ。俺が公爵位を継ぐため伯父上の養子になるって事は、お前自身の姉と言っても過言じゃないだろ」


「どの口が言うの!? 自分でもちょっと強引だと思ってるよね!」


前世で私を見捨た癖に! 恨みを込めて睨みつけると、しれっと視線を逸らしやがる。


「はぁ。やはり嫉妬なんかに囚われて罪を犯すような奴はダメだな。感情的で」


聞こえる音量の小声でボヤく。この野郎……。


確かにヨナスには同情できる余地があるけれど、だからといって手を貸そうとは思わなかった。前世で裏切られたのもあるし、態度だって人に物を頼む態度ではない。


こういう人間は一度痛い目を見たほうが良い。…って、もう痛い目はあってるのか。


とにかく、私は我が身が可愛い。せっかく前前世の記憶があるのだから、わざわざ危険を冒したくないのが本音だった。


しかし、次にヨナスが口にしたのは、私にとっても無視できない事情だった。


「言っておくが、『前の記憶があるから安全だ』なんて甘えた考えは捨てたほうが身のためだぞ」

「えっ?」

「ほら。覚えてるやつがいるだろう? いったい他に何人いるんだろうな?」


ヨナスはにやりと笑って自分自身を指差した。さぁっと自分の血の気が失せていくのが分かる。


確かにそうだ。ヨナスに記憶があったという事は、私だけに記憶がある訳ではないという事。前回処刑されたあのルートの記憶を持った人間が他にもいるかも知れない。


いや、それだけじゃない。私と同じく転生して、4クロの内容を知っている人間が居ないとは限らないじゃないか。


はっと顔を上げる。疑っていなかったけれど、ヨナス自体はどうなのだろう。彼の口から出てきたのは、私が処刑された前回の人生のことだけだが、彼も転生者である可能性は捨て切れない。


ダラダラと汗を流して焦り出した私に対して、余裕そうにふんぞり返っているこの偉そうな男は、一体どこまで知っているのだろうか。


どうにかして見極める方法は無いかと頭をフル回転させて出てきたのは、しょうもない手法だけだった。


「……攻めの対義語って何?」

「は?」

「あっ、いや、コレはジャンル違いだ……。日本とか、スチルとか、コミケとか、転生者じゃないと分かんないやつ……」

「何をぶつぶつと意味のわからないことを……」


ヨナスは私の言葉に何一つピンと来ている様子がなかった。


「……例えば、だけど、この世界が乙女ゲームの中の世界で、私は前前世でそれをプレイ済みだから、攻略対象たちの境遇とか、選択肢によって分岐するルートの内容が分かるって、言ったら……?」


賭けに出て恐る恐る質問する。ヨナスは私の言葉に、顔を険しくした。


「……譫妄?」

「なにそれ?」


言葉の意味は分からないが、ヨナスはやけに戸惑った様子で咳払いをし、珍しく言葉を選んで口を開いた。


「つまり何が言いたいんだ?」

「えっと、言葉通りだけど……」

「……もっと、俺にわかるように言ってくれ。オトメゲームだとか、攻略対象だとか、√だとか。俺は知らん」


ヨナスは転生者じゃない。反応をみて確信する。


ヨナスがワザとグラスを落として私の様子を見た時、私が必要以上に警戒して態度から見透かされたように、もし彼が転生者だったのなら警戒する様子がなさ過ぎる。ただしらばっくれているだけにしては、話題に引っかかっている。もし触れられたくない話題なら、彼はすぐに話を逸らすはずだ。


ホッと息を吐く。


「なんでもない。適当な単語を並べただけ」

「はぁ?」


適当に誤魔化すと、彼は納得いかない表情だったけど、言及しようとはしなかった。


「まあ、いい。とにかく俺が言いたいのは、輝かしい未来のためには協力者がいた方が都合がいいだろうということだ」


「だ、だとしても、私はアーノルドの婚約者にはなりたくないの!」


それだけは何としても避けたい。ゲーム内と同じ設定は、死亡フラグに他ならない。必死に訴えかける私に対して、予想外にもすんなりとヨナスは引いた。


「ふーん。分かった。じゃあ、婚約者にはならなくていい。パーティに出て、アーノルドがマリアと出会う手助けをしてくれ」


「えっ。それだけでいいの?」


「ああ。別にお前がアーノルドの婚約者になるのは絶対条件じゃないからな。俺はマリアと接触さえ出来ればいい」


傲慢で強情な彼が意外にも簡単に妥協案を提示するので、肩透かしを喰らう。力が抜けて、そのまま首を縦に振ってしまった。


「まぁ、それぐらいなら」

「決まりだな」


ヨナスは組んでいた足を解いて、椅子から立ち上がった。用事は済んだとばかりの態度に引っ掛かりを覚える。


……そういえば、ヨナスの要求を突っぱねるつもりだったのに、飲んでしまっている。最初の要求よりかは無茶では無くなったけど、そもそも承諾するつもりは無かったのに。


はっと、我に返る。やられた、と後悔しても遅い。


最初に無茶な要求をして、後で無理のない範囲の要求を出すことで、相手に自分の要望を飲ませる。人間の心理を利用した、詐欺師の使うような悪徳手法じゃないか!


「それじゃあ、パーティの時は頼んだぞ」


ヨナスはそれだけ言い残すと、軽やかな足取りで私の部屋を後にした。

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