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性格の悪い男そのいち

何でよりにもよってこんな早々にヨナスに会うことになっちゃうんだ…。歯噛みしながら私は、ヨナスとその両親、そして私の父母が待つ中庭へと連行されていた。


今日は天気がいいから、家族そろって庭の花を見ながらお茶会をしようということらしい。


ヨナス・ファン・ガートネット。私の従兄にして、公爵の甥。ただし、私の父には男児がいないから、ゆくゆくは養子になって公爵位を継ぐ予定だ。


白銀の髪に冷ややかな蒼い目を持ち、整った容姿をしているのに黄色い歓声よりも吹雪の方が良く似合う鋭利な印象をしている。


性格は冷徹非情。これに尽きる。目的のためには手段を選ばない男だ。例えば、従妹を策謀の駒としてさっくり使い捨てるなんて非道もお手の物だ。


ゲームでは攻略対象の一人ではあるが、ヒロインと敵対している一人でもある。次期公爵という地位に、聡明な頭脳、魔法能力の高さ、その優秀さを気に入られ、アーノルドと対立していた第二王子イヴァンの学友という立場を得ていた。


綺麗に並べられた特設とは思えない椅子と机の上には、お菓子がずらりと並べられ、紅茶の入ったポットからはい~い匂いが漂ってきていた。中には私が欲しがっていた異国のお菓子もあった。おそらくヨナスの父からの手土産だろう。


両親たちは既に椅子につき、談笑を始めていた。ヨナスの父であり、叔父であるトーマスさんは人当たりの良いニコニコとした顔で、父と話をしていた。ヨナスは横で二人の会話をすまし顔で聞いている。


「いやぁ元気そうで何よりだ。王都での暮らしは大変だろう」

「まぁねぇ……今回の外交もいきなりだったからなぁ。あっちこっちに行かされて、王都に暮らしてるのか馬車で暮らしてるのか分からなくなりそうだよ」

「ははははは! 忙しいのは重宝されてるいい印だ。ヨナスも色々見に行けて楽しいだろう!」

「ええ。勉強になります」

「期待してるぞ〜!」


でっぷりと肥えた父は分厚い手のひらで、ヨナスの白銀の髪をわしゃわしゃとかき回す。ヨナスはムッとした顔をしているが、公爵に歯向かうわけにもいかず甘んじて頭をぐちゃぐちゃにされている。


自慢の甥に会えて父が浮足立っているのがよく分かる。隣にいるのが娘の死亡フラグの一つだというのに暢気なものだ。


心の中で悪態を吐きながら、静かに席に着く。ヨナスの隣しか空いてなかったのでそこに座る。両親たちが気を使って空けていたのだろうけれど、今となってはその気遣いが恨めしい。


「あれ、いつもはヨナスが来るとうるさいのに今日は静かだなぁ?」

「ふふ、久しぶりで緊張してるのかしら」


静かな私を両親が揶揄う。人の気持ちも知らないで……。

前世の記憶がなかった頃は、私はヨナスにべったりだった。優秀な従兄は私の自慢で、実の兄のように慕っていた。両親が不思議がるのも当然だろう。


しかしもう以前のようには接することは出来ない。油断できる相手では無いし、一度実際に裏切られて処刑された記憶は色濃く残っていて隣にいると胃がキリキリ痛む。


「外交はどうだった? 他国の王子たちには会ったのか?」

「もう。あなたったら質問攻めはよして」


次々にヨナスに話しかける父に母のカミラが静止をかける。そしてにっこりとヨナスたち家族に笑いかけた。


「長旅で疲れてるでしょう? 今日はゆっくりと羽を伸ばしてね」

「お心遣い感謝します、お義姉さん。でも気にしないでください」

「あら、そう? それなら私も遠慮なく聞いちゃおうかしら〜。実は私も異国でのお話を聞きたかったの!」


トーマスさん夫妻が軽やかに笑い声をあげる。ヨナスはピクリとも笑っていないけれど。こんな人の良さそうな人たちから生まれたのにめちゃくちゃ愛想がないなコイツ。


「あっ」


ぼけっと考え込みながら、果実水を飲んでいると隣のヨナスから小さく声がこぼれた。彼がこういった不意をつかれた声を出すのは珍しい。首を傾げて周囲を見ると、自分の手元にもう一つグラスが置いてあった。


しまった! 間違えてヨナスのグラスを飲んでしまった。

さぁっと血の気が引く。


「ご、ごめんなさい!」

「ははは。アリサはうっかりだな」

「気にしないでいいよ、アリサちゃん!」

「……」


青い顔をして謝る私に、ヨナスは無表情でグラスを受け取る。嫌味の一つ、嫌な顔の一つはあるだろうと思ったのに呆気に取られた。


「そういえば良い茶葉が手に入ったんだ。ぜひ飲んでもらいたいと取り寄せたんだよ」


父がぱっと笑顔を浮かべる。別の話題に移ったことにほっと息をつきながら自分の失態に腹が冷える。手にはじっとりと汗をかいていた。


ふと視線を感じて顔を上げる。ヨナスが底冷えするような蒼い瞳でこちらをじっと見つめていた。


目線が合い、なんとなく気まずさを感じていると、両親たちの視線が他所に移ったのを確認した瞬間、ヨナスはこれ見よがしにぱっと持っていたグラスから手を離した。地面に叩きつけられたグラスは音を立てて砕け散る。


……は?


青い瞳が細まり、音に反応してこちらを振り向いた両親たちへ白々しく弁解する。


「手が滑りました」

「おいおいヨナスまで。怪我はないか?」

「ガラスで怪我したら大変! 触っちゃダメよ」


心配そうにあたふたと皆が彼を気遣う。メイドに言い付けて、ガラスを急いで片付けさせた。当のヨナスは澄まし顔で新しく淹れられた紅茶を飲んでいた。


「……今、わざと落とした?」


両親たちに聞こえないように小声で話しかけると、彼は横目でこちらを見ただけで表情ひとつ変えずに無視を決め込んだ。

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