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不測の事態×3

「マリっ…!?」


曲がり角から出てきた黒髪の少女に私はつい、名前を呼びかけて慌てて口を閉じた。夜空に溶けるような美しい黒髪に、薔薇色の頬、愛嬌のある可愛らしい顔立ちが驚いた表情でこちらを見ていた。


「お貴族様…? こんなところに?」


この乙女ゲームの主人公。マリア・ルス。他でも無い彼女だと直感が告げていた。

アーノルドが振り返り、彼女を見つける。そこに少女が現れたことに同じく驚いているようだった。


少女は驚きから我に返り、服装から私たちが貴族だと気づいた様子で、急いで逃げようとしていた。着古されたスカートの裾が翻るのを見て、私は咄嗟に声をかけた。


「待って!」


私の声に、マリアが足を止めて恐る恐る振り返る。平民である彼女にとって、貴族である私の言葉は嫌でも無視ができないだろう。こんな夜中に、貴族の子供がここにいることはひどく不審で、可能なら関わりたくないという気持ちは痛いほど分かった。


けれど、私にもマリアを無視できない理由がある。

ヨナスにはまだ腹を立てている。でも、彼女を見捨てることもできない。


これは、ヨナスのためじゃない。ヨナスの姉、エリオラの為だ。

これで金輪際、あいつとは関わらない。


カツン、と石畳の上を革靴が叩く音がする。わざとらしく鳴らされた音に振り返ると、建物の影から、小さな影が姿を現す。本来、この場にいるはずのない人物は、影の中から青い瞳をこちらに向けていた。


アーノルドがその姿を見て、顔を顰めるのが分かった。


月明かりと同じ色の髪をした少年が、こちらには一瞥もくれずにマリアを見ていた。


「マリア・ルス……」

「えっ、私の名前…?なんで」


ヨナスはこれらへ近づこうとしたが、マリアが後ずさったのを見て一瞬歩みを止めた。が、すぐに警戒する彼女へと距離を詰め始めた。


「……さぁな。とにかく、お前には俺に着いてきてもらう」

「いた……っ」


乱暴に手を捻りあげられ、マリアが痛みで顔を顰めた。


「なっ、ヨナス!何をしている!!」

「お前には関係のないことだ。……マリア・ルス、大人しく従っていれば悪いようにはしない。だから」


彼がそこまで口にしたところ、砂利が擦れる音がした。

ぬっと、暗闇から煙草のにおいが立ち込める。ガラの悪い男たちが嫌な笑みを浮かべながら、月明かりの下へと姿を現した。

私たちを取り囲むように現れた男たちに、アーノルドがはっとヨナスを睨みつけた。


「お前っ!最初からこのつもりで!!僕たちをどうするつもりだ!」


声を荒げたアーノルドに、ヨナスは少しも反応していなかった。いや、出来なかったという方が正しい。


「…………誰だ。お前たちは」

「さぁーーー。誰なんでしょうねぇ?」


予想に反して、ヨナスは目を見開き驚いた顔をして、にやけた笑みを浮かべた男はへらへらとヨナスへと詰め寄っていった。警戒心を露わにしたヨナスの後ろにもう一人、他に男が忍び寄っていく。

抵抗しても無駄だと悟ったのか、ヨナスはマリアの腕を放して両手を上げた。


無抵抗の意思を示した彼に、男は満足そうにうなづくと――。

そのまま腕を振りかぶって、ヨナスを殴りつけた。


「がっ……!」

「ひっ」


傍で見ていたマリアが短く悲鳴をあげて体を縮こまらせる。私たちは突然にして、差し迫った脅威に凍り付き動けないでいた。

手下らしき男の方が気を失ったヨナスを担ぎあげる。そして、未だ笑みを崩さないその男は、そばに居た私たちに気づき、大声を上げた。


「はあ? なんでガキが4人もいるだ!? 二人だって話だったよな!」

「さー? 全員連れていきゃあ問題ないんじゃないすか?」

「まあ、そうか。女の方は生け取りだが、男は殺して良いってお達しだ。身代金絞れるだけ絞って、用済みなら道に捨ててく簡単なお仕事だぜ。さぁ働けや、野郎ども」

「イエッサー! くくく……なんてね。どうです? このギャグ」


ゲラゲラと品のない笑い声をあげながらも、彼らの視線は冷たくこちらを見下ろしていた。


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