第十一話 冒険者ギルド
次に訪れたのは、冒険者ギルドだ。
主な目的は冒険者の登録、それと防具などを買い直すための店を紹介をお願いしようと考えている。
相変わらずデカい建物の中に入る。
昨日と同じように、職員の笑顔が飛んできた。
「いらっしゃいませ〜」
「すみません、冒険者登録の窓口ってどこですか?」
「登録窓口は、あちらにある一般カウンターです」
「ありがとうございます」
職員の指す方向へ向かう。
お昼時で冒険者が少ないのか、いくつかあるカウンターはスカスカだった。
近くのカウンターで受付をしてもらう。
受付嬢がにこやかな表情を見せた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をお願いします」
「はい、かしこまりました。まず登録料として一〇〇〇ペル頂戴致します。……、はい丁度いただきます。では、登録手続きに入らせていただきます。まずはお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、ルディール=メイジックでお願いします」
ルーンは偽名を使った。
当然だ、本名を名乗ってきっと信じてもらえないだろう。
それに今後この世界で活動していく中では、神格化された存在を名乗るよりも無名の方が動きやすい。
アリシアには本名を晒してしまったのが気掛かりではあるが、これほど広い都市でそうそう再開することもないだろう。
「ルディナール・メイジック様、ですね。御年齢は?」
「十五歳です」
この年齢は適当だ。
最初に見た時に感じた年齢を採用しただけで、実年齢はハッキリしていない。
「使う武器はなどは決められていますか?」
「魔法で戦おうかと」
「魔法ですね。それと……」
受付嬢とのやり取りを数回繰り返す。
全て聞き終えた受け付け嬢は、カウンター奥へ消えた。
「お待たせしました。メイジック様、こちらが冒険者プレートになります」
渡されたのは、ネックレス用のチェーンが付けられた金属板。
銅で作られた金属板のネックレスを受け取る。
「では、冒険者の説明に入らせていただきます。まず、この冒険者プレートですが、これは冒険者の証です。再発行はお金が掛かってしまいますので無くさないようご注意ください」
「このプレートって人によって金属が違う気がするんですけど、何か理由があるんですか」
「はい、それはこれから説明させていただくランク制度に関係します。冒険者ギルドでは、冒険者の中での階級付けをさせていただいております。下から、”カッパー”、”シルバー”、”ゴールド”、”プラチナ”、”ダイヤ”、”ミスリル”、”オリハルコン”と鉱石の呼び名で呼ばせていただいています」
後に知ることになるが、階級が鉱石になったのはイニティウム地下迷宮が鉱山での鉱石採掘をしているみたいだからなのだそうだ。
「メイジック様は今は一番下のカッパーから始めていただきます」
「階級を上げるのって何か利点があったりするんですか?」
「色々ございます。まずはギルド内での利用施設が増えます。カッパーでしたら、まだ換金などの必要最低限のみの利用しかできませんが、上まで行くとリラクゼーションルームの利用や、換金などが混み合っている時は別室で換金、秘蔵書の閲覧などが可能になります。ゴールドあたりまで行っていただければ、多くの方が利用されている施設が使えますね」
なるほど、上に行けばギルドが優遇してくれるというのは良い作りだ。
冒険者はその恩恵を受けようと頑張る。
ダイヤ・ミスリル・オリハルコンは、冒険者プレートを提示するだけで様々な国を行き来できるのだとか。
「階級を上げる方法は至ってシンプル。偉業を成し遂げてください」
「偉業、ですか?」
「はい、カッパーの方ですと小さい魔石を三十個ほど提出して頂ければ昇格します。ですので、結構早い段階でシルバーにいかれる方も少なくないんですよ」
迷宮上層の魔物は弱い。
冒険者になりたてでも、二人から三人のパーティーを組みさえすれば半年も経たないうちにシルバーにまで上り詰めれる。
早ければ、一週間で達成してしまう人もいるのだとか。
「ゴールドの基準は中層突破ですね。中層には大型の魔物が生息していますので、それらの魔石を持ってくることで証明とさせていただきます。もちろんパーティーなどを組まれますと、一人一魔石ですので人数分必要になってきます」
中層といえば、アリシアと出会ったのも中層だったはずだ。
あの時、確かにアリシアは拳大の魔石を持っていた。
「大体はこのゴールド止まりです。それ以降は指折りの実力者といって差し支えないでしょう。この都市にはプラチナが数名とダイヤが三人いますね」
「ミスリルとオリハルコンはいないんですか?」
「残念ながら。彼らは世界でも数人しかいません。オリハルコンは、かの邪竜を討ち倒した英雄たちに匹敵する者に与えられる称号です」
「--!? オリハルコンの人がいるんですか?」
「え、ええ。オリハルコンは歴史上六人に与えられています。邪竜討伐を成功された勇者ハルト・ケンザキ様を始めとした英雄の方々。それと英雄の一人獣王の子孫であるガルラドール・レネオス様です。英雄方はこの二〇〇年で妖精女王アグラレス・エル・フェアリー様お一人になられたので、現状では二人がオリハルコンの地位にいます」
妖精姫、いやもう妖精王女が生きている。
恐らく唯一の生きている知り合い。
そのことに心を弾ませた。
是非とも会いたい。
だが妖精の国までには、獣王国を横断し、更に国境の大きな山脈を越えなければならない。
ここから妖精の国へ行くのはだいぶん骨が折れるだろう。
資金面は手持ちがなくとも何とかなるかもしれない。
だが、資金を持ってからの旅の方が安心感も安定感も違ってくる。
それに冒険者登録も済ませたばかりだ。
迷宮で稼いで、ゴールドプレートまでは行きたいところだ。
もう一つ、獣王の子孫というのも気になった。
勇者パーティー以外のオリハルコン。
現状、ルーンや勇者たちに匹敵するような力を持ったただ唯一の存在だ。
気にならないわけがない。
資金が溜まり次第、獣王国、そして妖精国へ赴いて妖精女王に会いに行こうと決めた。
その後も受付嬢の説明が続いた。
冒険者ギルドは各地に設置されている。
それは都市だけでなく、小さな町、中にはド田舎にもギルド支部があるのだという。
なぜ、ギルドが点々と存在するするのか。
ダンジョンが各地に建設されたが、魔力溜まりの発生がゼロになったわけではない。
たまに発生した魔力溜まりを対処するべく、町村お抱えの冒険者が動いたり、居なければギルドが派遣する形を取らなければならない。
そういった理由から各地に支部を配置することで、迅速な対応が取れる。
あとは、魔石換金などをわざわざ都市へ赴かなくてもできるようにという、冒険者の負担を減らす理由も存在している。
「ってことは、田舎暮らしをしている冒険者もいるんですね」
「そうですね。ですが冒険者としての稼ぎは非常に少ないので、本当にごく僅かです。自分の故郷に帰るというパターンが多いですね」
冒険者は魔物の魔石を換金することで、生計を建てている。
魔力溜まりの発生が少なくなった地上では冒険者の出番は少ない。
常に魔物がいるダンジョンとは違い、必然と収入は激減する。
それでは生活が成り行かないため、田舎暮らしの冒険者は用心棒として村で雇われていたりしているらしい。
「説明は以上となります。他にご質問はありませんか」
「防具などを買い揃えたいんですが、どこで買えばいいんですか?」
「それなら、北側にある商業区がおすすめですね。工房区でも職人と直接取引が可能ですが、基本的にはオーダーメイドになるので値が張ると思います」
「分かりました。ありがとうございます」
踵を返して、冒険者ギルドを後にする。
ルーは、その足で受付嬢の言っていた商業区へ向かった。
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