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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第九十四話 王都に向けて

仮眠を取って休んでいる兵士達を起こし隊舎の前に集合させ、全員が揃った事を確認したイリーナ中隊長は一段高い所に登って慎重に話始めた。


「現在わかっているのはクローネン王国に魔族が侵攻を始めた。既に城壁を突破し数多の村や街を滅ぼしながら真っすぐ王都に迫っているそうだ。私達はこれからあの山の麓にある王都で他の部隊と合流してドワーフ族と一緒に防衛を行う。いいかこれは訓練ではないからな」


 此処に居る兵士の一部には魔族の侵攻の仕方に違和感を感じている。

 普通なら拠点を確保しながら徐々に征服する範囲を広げると思うのだが、真っすぐ向かっているとなると戦線が間延びする形になっている。

 退路や横からの攻撃の事など考えていないのだろうか。


 兵士達が城壁から降りて行くのを見ながら俺はそっとイリーナ中隊長のところにシリノ小隊長と一緒に近づいた。


「どれぐらいの軍勢なのですか」


「それが向こうも混乱しているようでな、正確にはまだ分かっていないんだが、概算で不死族が二万だそうだ。それだけならドワーフ族だけで対処が出来そうなのだが何故か連敗しているってよ」


 二万の魔族に対応できない程、ドワーフ族は弱いのかそれとも何か他の理由があるのか分からないが、何か不気味なものを感じる。


 城壁を降りて王都を目指すのだが、歩兵が中心の我が部隊はどうしても時間が掛かり到着するまではどんなに急いでも四日は掛かってしまうだろう。

 焦る気持ちを押さえながら進んで行くとドワーフの街が見えてきて、そこから一人の兵士が馬で駆け寄ってきた。


 イリーナ中隊長と何やら話すと、中隊長は先を急がなければいけないはずなのに何故か進路を街の方に向けて行く。


 一体あの街に何があると言うのだろうか。


 街に入るとドワーフの兵士達が俺達を待ち構えていたようで、焦ったような口調で話始める。


「お待ちしておりました。歩兵の方は私の後に付いて来て下さい。馬を用意してありますのでぜんいんが騎乗しましたら私達が先導して王都にお連れします」


 歩兵達と離れ俺達士官は補給物資の確認をしていると、こんな状況なのに酒瓶を片手に持ったドワーフの老人が近づいて来た。


「お前さん達が援軍なのかい。それにしては随分と人数が少ないじゃないか、どうせこの国がどうなろうといいって事なのか」


「ワルド爺さんよ、この方達に言いがかりを付けるのは止めてくれないか、この街を通過するのが彼等だけであって、これが全てじゃ無いんだよ。なんでわざわざ来てくれたのに嫌味を言うんだ」


「そうかね、どうせ援軍を頼むならマテウス王国じゃなくてブルキナ共和国に頼めば良かったんじゃないか、魔国から真っすぐ進んできているのだったらそのまま通り過ぎたら次はブルキナじゃないか、だったら奴らの方がもっと真剣になるんじゃないかね、こんな馬すら用意できない援軍何か当てになるのかね」


「それ以上…………」


 ドワーフの兵士は顔を赤く染めながらその老人に手を挙げようとしたので、俺はその手を掴んだ。


「気にしていないので大丈夫ですよ、確かにこの人数で歩兵ばかりだとそう思われても仕方がありません」


「いや……それでも」


 まだ何か言いたそうだったが、腕に力が抜けて来たのでそっと手を放してその老人に俺は軽く頭を下げた。


「私達は城壁の警備をしている部隊ですのでどうしても人数は少ないです。けど本国からはちゃんと兵士を送って来るので心配しないで下さい。貴方の言う通り奴らがブルキナを目指すようでしたら、私達も港までの道を塞がれてしまいますので、これは私達にとっても死活問題なんですよ」


 その老人は俺の言葉を理解してくれたのかは不明だが、俺の胸に酒瓶を押し付けて街の中に行ってしまった。


「本当に不愉快な思いをさせて申し訳ありませんでした。その酒は決して高い物ではありませんがお詫びのつもりだと思います。要らなければ此方で処分致しますが」


 渡された酒瓶は中身がどうなのか知らないが、瓶は透明な素材で作られているて、それをイリーナ中隊長は手に取って眺めている。


「この国では高い物では無いのかも知れんが、この瓶は我が国にとっては貴重だぞ大事に貰っておきなよ」


「はい、そうします」


 こんな事が起こっている間に歩兵達の準備が終了し、再び王都に向けて進み始めた。

 全員が騎乗した事によってかなりの時間短縮が見込めるだろう。


 王都迄の道のりは順調で、時折情報がイリーナの元に入って来るのだが、いい知らせもあれば悪い知らせも飛び込んできた。


 いい知らせか飛竜部隊が五千の援軍を連れて王都に向かっているそうで、その中には遊撃隊も入っている。


 悪い知らせは魔族は飛竜対策をしてあるそうで、飛竜の数を減らしたくない我が国は飛竜を前面で戦わせることはしないと決定したそうだ。


 入って来るのは我が国の情報ばかりだが、そんな情報を得ながら進み、ようやくドワーフ族の王都が姿を見せ始めた。

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