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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第九十三話 異変

 ハルティ砦とエスペラの街を繋いでいる城壁を俺達の第十六小隊とシリノ小隊長がいる第十三小隊が担当している。

 残りの二つの小隊はブルキナ共和国との国境付近に補佐してくれている部隊と共にいる。


 あの密告があってから俺の担当エリアの近くにはカロリーン小隊長もマレイセ小隊長も配置に付かなくなった。


 別に近くにいたからと言って何かがある訳ではないのだが、騎士のお手本とならなければいけない遊撃隊に入る身としては噂であっても良い顔はされないようなので中隊長は気を使ってくれている。


 昔、ルトロは本来ならば遊撃隊の発足と同時に入隊するはずだったが、過去の女遊びのせいで入隊するまで時間が掛かってしまった。

 それでも遅れをあっという間に取り戻し副隊長に直ぐになったそうだ。


 俺達は城壁の中心に立っている隊舎を境にして、南側が俺達の持ち場となっているので今は副官と共に部下の様子を見て回っていた。


「アル小隊長、とうとうここが最後の勤務地になりますね」


「そうだね、ただ最後にしては物足りないな、両隣が他国だから警備をしない訳にはいかないだろうけど、城壁の下にはあまり降りる訳にはいかないからな、この前だってゴブリンの群れがいたのに威嚇して追い払うだけだったろ、何かむなしくなるよ」


「仕方がないですよ、ゴブリンがもう少し近づいてくれればいいのですが、あそこは他国の領地ですからね、討伐をしてあげたとしても向こうはそうは思わないでしょうから」


 部下たちもただ両隣にある森を見ているだけなのでもの凄く退屈しているようだが、俺がサボる事を許していないので座っている者など一人もいない。

 ゆっくりと馬で進んで行くとその先にいる兵士が集まって何やら揉めている様だ。


「どうしたんだ。何かあったのか」


「あっ小隊長お疲れ様です。あそこを見て下さい様子が変なんです」


 兵士が指を刺したクローネン王国の方を見ると、山の上と中腹に煙が二本立ちあがっているのが見える。

 暫くすると今度は麓でも煙が登り、その色は緑色をしている。


「小隊長、クローネン王国の緊急の狼煙です。急いで中隊長に報告をしましょう」


 部下達は引き続きその場で監視をさせ、俺と副官は隊舎まで全力で馬を走らせ、すぐさま魔道具で連絡をとった。


「大変です。クローネン王国から緊急の狼煙が上がっています。……はい、勿論緑の煙です。……はい、分かりました」


「何て言っていた」


「最少人数で城壁の警護をさせ、残りはこの隊舎に集めろとの事です。直ぐに伝令を送りますので小隊長は隊舎に居て下さい」


「頼んだ、俺は屋上で様子を見てくる」


 屋上に上がって行くと狼煙は更に此方に近づいてきて、我が国に一番近い街からも緑の狼煙が上がっている。

 するとハルティ砦から三匹の飛竜がクローネン王国に向けて飛んで行く姿が見えるが、もう陽が落ち始める時間になってしまったので一体何が起こっているのか分かるのはかなりの時間を費やしてしまうだろう。


 部下達は続々と集まって来るが、中には入ろうとはせずに城壁の上からクローネン王国の方を見ている。


 陽が完全に落ちてしまった頃、ようやく司令官からの指示を携えイリーナ中隊長がやって来て、城壁の上から未だその方角を見ている兵士達に声を掛けた。


「いいか貴様らそこで見ていても始まらん。まだ正確な情報は入って来ないが、いつでも対処出来るように準備をするんだ。それが終わり次第休息をとれ」


 イリーナ中隊長に促され、第四中隊の小隊長以上の六人が会議室の中に集まった。


「まだ各部隊がどのように行動するのか決まっていない。ただあの国で余程の事が起こっているのだろうな、まったくドワーフ共は魔道具を使おうとしないからこうなるんだ」


 イリーナ中隊長がイラついているのは分かるが、魔力を持っていないドワーフにはそもそも魔道具は使えない。

 だから通信手段はどうしても狼煙になってしまう。


「魔族が関係あるのでしょうか」


 マレイセ小隊長は誰しもが考えていたがあえて口にしなかった事を口走った。


「もしそうだとしたら、まだ時間はあるだろうな、あそこの城壁は此処とは比べ物にならない程大きいし頑丈だ。それにエルフによって結界が張ってある。魔族と言えどそう簡単には侵入する事は出来ないだろう。それに私が魔王ならクローネン王国では無く、我が国かズーランド国に侵攻するな」


 確かにその方が手っ取り早いが、その二つの国にはあまりない物がクローネン王国には存在する。

 それはオリハルコンだ。


 城壁を破れる手段があるとすればクローネン王国に進行しても不思議ではない。

 ただもう一つ懸念があり、魔族はオリハルコンを加工できるほどの技術力があったとは思えない。


 未だにオイゲン司令官からの連絡はなく、ただ仮に救援部隊を送ることになった場合の人数調整話し合うだけで会議話終わり、俺達は椅子に腰を掛けたまま眠りについた。


 陽が登るよりもまえに魔道具が光輝き、イリーナ中隊長がそれを耳に当てる。


「はい……。それでどのようにすれば……はい」


 通信が終わった後、イリーナ中隊長はゆっくりと深い溜息を吐いた。

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