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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第九話 理不尽なレオニダス

特色課になってからもうすぐ五ヶ月が過ぎようとしている。

レオニダスは座学の時間が余りにも短い為、前期のテストでは大幅に成績を下げてしまい、ずっと一番であり続けたのに真ん中あたりまで落ちてしまった。

俺はまだいい方で座学の成績のビリからビリ四までは特色課で占めている。


 教師たちの間でこの事は問題にあがってもいいはずなのだが、一切その声は俺には聞こえてこない。

さりげなく昨年の担任であったモルテン先生に助けを求めたが、いとも簡単に断られてしまった。

それは祖父の権力のせいなのか、それともレオニダスの権力なのかは分からないが。


 レオニダスの授業は当日にならないと分からず、常に予習を心掛けていた俺にとっては嫌な月日だったと思う。

何故、自分の気持ちなのに断定できないかと言うと、考え込んでいるうちにその感情が消えて行ってしまうからだ。

「苦痛変換」のスキルは悩む事さえ無効にしてしまう様だ。

この日のレオニダスは時間通りに教室に入って来たのだが、そこで予想外の事を言ってきた。


「お早う、君達のテストの結果を見たが、随分と酷いじゃないか、あれではどんなに他が優秀でも騎士にはなれないぞ、よって罰として今からサボン島に合宿に行くから直ぐに支度して正門に集合したまえ」


「先生、教科書は何を持って行けばいいのかな」


 ユナが立ち上がり質問をした。

ユナはレオニダスに対しても友達の様に話してしまうのが気になってしまうが、レオニダスは何とも思っていないようだ。


「そんなのは好きにしなさい。サボン島に行くのだから訓練をするに決まっているだろう」


 座学じゃないのかと誰もが心の中で思ったが、そんな表情は一切見せずに合宿の準備の為に宿舎に戻って行く。


 レオニダスは一見物腰が柔らかい為に、当初は俺以外の間で舐めていたような雰囲気が流れたが、直ぐに隠された本性とその実力を知って、誰もがどんな理不尽な要求でも一切反抗しないどころか、作り笑い迄出来るようになっている。


 正門に集合すると既にレオニダスは馬車の操縦席で待っていたのだが、少し嫌な予感がする。

どう見てもワゴンの大きさが小さいからだ。これだと全員が乗るにはかなり厳しそうだ。


「じゃあ出発していいかな、それとアルは馬車に乗っては駄目だからね、君はずっと走り続けるんだ。それに後の人も馬車に乗るのは二人だからね、君達は交代で走りなさい。明日の朝までには船に乗りたいから急ぐよ」


 とてもではないが普通なら明日の朝までに到着する事など不可能だ。

どこかで馬を変えてでも走り続ける気なのだろう。


「アルはいいよね、疲れ知らずで」


 隣を走っているユナは俺を羨ましそうに言ってきた。


「確かにいい事が大きいけど、いきなり死ぬことがあるかも知れないんだぞ、それでもいいのか」


「あぁあの事は思い出したくもないね、あの時の首から血を吹き出しながら笑顔で走って来る姿は忘れられないよ」


 ユナの記憶に張り付いた事とは、先日の戦闘訓練で夕暮れまでレオニダスから逃げ切れれば勝ちだという単純なものだったが、俺には斬撃が効かない為にレオニダスは遠慮なしに撃って来た。

全てをかわしたつもりだったのでそのまま隠れていたのだが、夕暮れになって俺がみんなの元に帰って行くと悲鳴が巻き起こった。


 斬られた時には痛みが走ったが、直ぐに何も感じなくなったので気にしていなかったが、首の後ろには尋常ではない傷を負っていたようで、血を噴水ように流しながらみんなの元に向かって行った。

ただ辿り着く前に俺の意識は深い闇に包まれてしまったが。


 ユナとその事を振り返っていると、ジュンソも会話に入って来る。


「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、あんな事があったのにアルは自分のスキルが怖くないのかい」


「あぁ、本来ならば怖いと思うんだろうけど、それでも俺は恐怖を感じないんだ」


「それも苦痛だからなのか」


 俺は黙って頷いた。すると突然ユナがレオニダスに向かって大声を出した。


「先生止まって、この先にある林に隠れている集団がいるよ、気配からして普通とは違うかな」


 レオニダスは馬車を直ぐに止め、とても楽しそうに振り向いて来た。


「君達は何て運が良いんだろうね、盗賊なら手加減何てしなくていいのだからね、じゃあ今回は男の三人でやってみようか」


「えっ…………」


 ジョンソが驚きの余り余計な事を言いそうだったので慌てて口を塞いだ。

余計な事を言いだしてレオニダスの機嫌を損ねたら、武器の使用禁止なんてことも考えられるからだ。


 ジュンソには諦めて貰い、三人で作戦を立てて行動を開始する。

俺はそのまま街道を一人で歩いて行き、テオは草むらの中を並走する。俺達の更に後ろにジュンソが歩いてきて遠距離からサポートをする事になった。


 暫くこの配置で進んで行くとグレタから「想いを届ける者」のスキルで話し掛けてくる。


「その先の百m先にある林の中に十人が隠れているそうだよ、殺気も放つようになったので盗賊と見て間違いないそうです。

思い切ってやって下さい」


 俺は思った以上の人数を聞いて一瞬だけ鼓動が早くなったが、歩いている内にいつものように鼓動が治まって来た。


 盗賊相手という事は殺す事になるのだというのに、何でこんなに普通でいられるのだろうか、これもスキルの影響だとしたら何だかやるせない。

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