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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第八十九話 選抜訓練開始

 明日の選抜訓練に参加する者はハルティ砦の中にある訓練施設で調整を行っているので、俺もそこに向かおうとしていたのだが、その途中で意外な人物に声を掛けられた。


「いよぉアル君、久し振りじゃないか今回はまた面白い事になっているね」


「ルトロさんじゃないですか、お久しぶりです。こんな所でどうしたのですか」


「おいおいお義兄さんと言ってくれよ、アル君はディアナと結婚したんだろ」


 久しぶりにディアナの二番目の兄であるルトロと再会する事が出来た。

 ルトロはエイマーズ家の中で唯一の武人であり、浮気性の一面もあるがそれでも俺と話が合う人物で、俺が眠っている間に遊撃隊に入り、今では副官の立場になっているそうだ。


「今回は我々の調査員が仕向けた事でもあるし、こんな感じで隊員を増やすのも良いのかも知れないと思ってね、だから立会人として来たんだよ」


「ルトロさんの下でならもっと楽しく働けそうですよ」


「嬉しい事を言ってくれるな、ただな、義弟だからと言って贔屓はしないからな、いいか、決して僅差では勝つなよ、圧倒的な力を見せつけなければ君は入れないと思ってくれ」


 遊撃隊にはかなりの権限が与えられる為、全ての隊員には特別な何かが求められる。

 俺に対しては武力らしく、だから他の兵士と大して変わらない様では意味が無いそうだ。


 今回は木剣での試合になるが、魔法も自由に使用可能なのでハルティ砦の北西の草原で行われる。

 参加する兵士は第四中隊からは誰も出ず、バルテルさんの第一中隊から一人と第二中隊から十八人、そして第三中隊から二十二人となっている。


 バルテルさんからは言う事を聞かない奴が一人だけ出てしまったと言われたが、それでも残りの二つの中隊に比べると圧倒的に数が少ないので、ちゃんと俺の事を部下に伝えているのがよく分かる。


 当日となり参加者と見学者が会場に集められ、ルトロさんは遊撃隊の代表として全員の前に立った。


「いいか、ここでアル小隊長を倒した者には代わりに遊撃隊に入れる権利を与える。それと言うのは身辺を調査するからだ。それさえクリアすれば私と同じ遊撃隊員だ。何か質問は」


「はい。この人数だと最後の方に当たる人が有利だと思うのですが、どのようにして順番を決めるのですか」


 一人の兵士が進み出て意見を言ってきたが、その事をルトロは何も考えていなかったようで、情けない顔を俺に見せてくる。


「えっと、この中に魔法で戦おうとしている人はどれ位いるかな、ちょっと前に出て来てくれ」


 すると八人の男女が進み出てくる。

 女性を攻撃を仕掛けるのは気が引けてしまうが、自分から言い出した事なのでそれは仕方のない事だろう。


「じゃあ最初にその八人全員とまとめてやりますので準備して下さい」


 会場にどよめきが走ったが、ルトロやイリーナ達は苦笑いをしている。

 しかし、オイゲン司令官はそれは無謀だと思った様だ。


「アル小隊長、いくらなんでも馬鹿にし過ぎだぞ、そうだ、名簿通りで良いのでないかね」


「良いでは無いですか、そうだな、遊撃隊副隊長として命令する。その八人は全員で力を合わせて戦うように。勝てば権利を与えるからな」


 その言葉に八人の目の色が変わったので、やる気になってくれたようだ。

 俺は副官に指示を出して木剣を八本用意させ、その木剣を片手で抱え込んだ。


「準備はいいか、では始め」


 俺がいきなり向かって行くのだと考えているのか、一斉に距離をとって様子を伺っている。


「そんなに離れなくてもいいよ、準備が出来るまで待っていてあげるからさ」


 彼等は馬鹿にされていると感じたのか、殺気を放ちながら詠唱を唱え始めた。


 俺は直ぐに詠唱を唱えなかった彼等に呆れながらも部屋の中に入って行くと、何故かスキルは全身が青色の子供のような姿になって部屋の中を走り回っていた。


「何をしているんだ」


「久しぶりだね、ようやく身体が自由になったから嬉しいんだよ、それより戻った方が良いんじゃないの」


 言われてしまったのでレバーを一つだけ上げる。

 まぁ一段階と言ったところだろうか、そのまま現実に戻って行くと、八人の周りには目でも分かる位に魔力の渦が出来上がっているので、やはり立候補してくるだけあって発動までの時間が短い。


12578.


 頭に浮かぶ数字はかつてない程になっているので、一段階ならば使い放題という感じだろう。


「いいかい、いっせいに撃つよ」


「何時でもどうぞ、リスケ小隊長」


 合図と共に氷の矢やら黒い弾などが俺を目掛けて飛んでくる。

 躱す事など考えてもいないので、全身で全ての魔法を受け止めた。


 魔法がぶつかり合ってしまった事もあり、俺に直撃する魔法もあればそれてしまった魔法もあって俺の周りはとんでもない事になり砂煙が壁のように立ち上がる。


 かすり傷すら負っていない俺は彼等に向かって走り出し、一人一人に木剣を振り降ろしていくと、一人に当たる度に折れてしまうので八本用意した俺の考えは正しいと思う。


「アル君、もう止めるんだ」


 彼らは魔法が効かなければ何も出来ないらしく、稚拙な剣での防御を試みるがそんなものは俺には通用せず、一人一人を倒していくがまだ四人も残って居るのにルトロによって止められてしまった。


 俺の目の前には頭を抱えた女兵士が膝から崩れ落ちるところだ。

 女性に対して頭を叩く訳は無く鎖骨を狙っていたのだが、その女兵士は泣き出してしまった。


「お前はそんなだから死神って呼ばれるんだよ、全くなっていないねぇ」


 駆け付けたイリーナに言われてしまったが、魔法を全身に浴びたのだからこれぐらいは良いんじゃないか。

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