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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第八十六話 誤解

「ねぇ起きて、もうみんな来てるよ」


 身体を揺すられたので目を覚ますと、そこにはディアナがいて、バジヤマレ山ではよくこのようなことがあったが、随分と前の様だったように思える。


「ねぇ何じっと見てるの、寝ぼけてないで早くしてよ」


「皆って、どういう事だ」


 まだ半分寝ぼけているようで頭がはっきりしないが、下に降りるとグレタやテオとユナ夫婦とその息子が集まっていた。

 イーゴリが子供を抱えたまま近づいてくる。


「随分とご活躍のようだな、シーサーペントの討伐なんて王宮でも噂になっているぞ」


「運が良いだけだよ、それに俺だけの力じゃない」


「そうかも知れんが、この先ここで暮らす時が来たらそう言った謙遜は言わない方がいいぞ」


 テオも同意見らしく頷いて、城の中での俺の評判は遊撃隊など俺の事を知っている人間には評判はいいそうだが、名前だけしか知らない様な連中には全てが嘘のように聞こえているらしい。


 やはり勇者のスキルを貰えなかった事が劣等生の烙印を押しているようで、しかも遊撃隊入りが確実となった今では、嫌な噂すら出回っている様だ。


「まぁお前の実力を見れば直ぐに目の色が変わると思うぞ、仕方の無い事だな」


「ちょっと、そんな話は止めなよ、つまらないでしょ、あなたが訂正すればいいでしょうが」


 ユナがイーゴリの頭を叩き、子供も真似をしてイーゴリの頭を叩く。

 プライドの塊のようなイーゴリだったがユナや子供には頭が上がらない様で苦笑いをしたままでいる。


 テオはそんあユナ達を見ても何とも思っていない様で、やはり時間が解決してくれたようだ。

 それにテオ自体もフィンレイ王子の紹介で同じ子爵家の令嬢と縁談の話が持ち上がっているそうだ。


 グレタはあれから幾度と結婚の話があったようだが、未だ一人に決まれずにいるそうだ。

 原因は警備隊の仕事が思いのほか合っていたようで家庭に入るよりもこのまま今の仕事を続けていたいらしい。


 その日の夜は久し振りに楽しくて気が休まる夜だったが、ディアナは飲み慣れていない酒を飲み過ぎてしまったせいか酔いつぶれたので、俺の所に新婚初夜と言う物は今日も訪れなかった。


 次の日からはディアナも休みを取ってくれ、ようやく新婚らしい生活を味わう事が出来たのだが、あっという間に時間が過ぎ去って行った。

 

 帰る日まで残り数日になった頃、ラウレンス侯爵が我が家に尋ねて来た。


「お父様宜しいのですか、こんな所にいらしても」


「少しぐらいは抜け出しても構わない。そんな事よりどうしても気になる事を耳にしたのでな」


 何故かラウレンス侯爵は俺の事を睨みつけてくるので、国王様の仲介でも俺の事をまだ許してくれないのだろうか。


「アル君、君は随分と向こうでは楽しくやっているそうだが、君もルトロと一緒なのかね、遊撃隊に入る人間はだらしない者の集まりなのか」


「えっルトロさんは遊撃隊に居るのですか」


「ちょっと、あんたは興奮しないで」


 ディアナは俺を睨みつけてくると、何だかこの部屋の空気が重くなったように感じて、徐々に居心地が悪くなってきた。


「お父様、どういう事ですか」


「私が信頼している部下がハルティ砦にいてな、そこで彼に頼んでアル君の行動を報告するようにして貰ったのだが、君は随分とカロリーン小隊長と仲が良いようだね、人目があるにもかかわらず抱き合っていたそうだが、どうなんだ」


 隣のディアナからもの凄い殺気が立ち上がっているようで、シーサーペントではさほど恐怖を感じなかったのに、今は身体全体に恐怖が走って来る。

 ここは決して言葉を間違う訳にはいかない。


「それは事実…………」


 まだ話始めたばかりだと言うのに強烈な張り手を俺にしてきて、直ぐにディアナは出て行ってしまった。


「君はもう浮気をしたのかね、これだから武人は信用できないんだ」


「違います。事実ではないと言いたかったんですよ。あの人は私の事がからかいたいだけなので抱きつい来るんです。同じ立場とはいえ年齢も経験も上ですので邪険に引きはがす訳にはいかないじゃないですか」


「それは本当なのか」


 俺が向こうでどういう事になっているかを時間をかけて話したうえで、もし信じられないならイリーナ中隊長に連絡してくれても構わないとまで言ったら、ようやく信じてくれたようだ。


「誰だか知らないですけど、その人の調査能力が低すぎますよ、それでは此方で俺の悪評を流している奴らと変わらないじゃないですか、もう追いかけてもいいでしょうか」


 どうせユナの所だと思っていたが、その読みは外れてしまい、更に思い当たるところを探したがことごとく外れてしまったので、俺の捜索は僅かな時間で暗礁に乗り上げてしまった。


 テオの家の玄関で項垂れていると、後頭部にかなりの衝撃が走った。

 ユナが普通では考えられない程の石を持って殴って来たからだ。


「あんたねぇ、ディアナより先にその女を抱いたんだってね、いい加減にしなよ、あんたなんか二度と帰って来るな」


「違うんだって、頼むから話を聞いてくれないか」


 ユナに初めから話すと、最初は疑っていたが、帰ろうとしたラウレンス侯爵も話に参加してくれ、ようやくユナも理解してくれた。

 先程までディアナはユナの家に隠れていたらしいのだが、何処かに姿を消してしまったらしい。


 ラウレンス侯爵は必ず誤解を解くと言ってくれたが、今更遅すぎる。


 結局、俺が戻る日になってもどこにもディアナは姿を見せず、後はユナやラウレンス侯爵に任せるしか無かった。


「アル、ちゃんと説明しておくから心配しないで行ってきなね、ディアナはいつも最後まで話を聞かないからこうなるんだよね」


 お前もだよと言いたかったが、俺はユナに笑顔を見せて走ってハルティ砦に戻る。

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