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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第八十四話 束の間の平和

 その日の夜に簡単な慰労会が隊舎の中で行われたが、民間に死傷者が出てしまっているので大袈裟には出来ないがせめて少しだけもやろうと中隊長が英断してくれたおかげだ。


 シーサーペントと言う珍しくて巨大な魔獣を倒したせいか部下たちはかなり嬉しそうだ。


「出発前は多少の不安もあったが、よくやってくれたじゃないか、それよりあんたは一人でも倒せたんじゃないか」


「地上でしたら可能かも知れませんけどあそこでは無理ですよ、速さが違いますからね」


「ふーん、そうかね、まぁ討伐のおかげでまとまりが良くなったように見えるからよしとするか」


 全員で困難な状況に立ち向かった事で、派閥のようなものが出来てしまった彼等の中が少しは良くなったように思える。

 このまま休暇に入れたのなら良かったのだが、一人の分隊長によって空気が悪くなってしまった。


「お疲れ様です小隊長、いやぁ小隊長のスキルは良いスキルじゃないですか、俺も小隊長みたいに運が良くてそんなスキルを貰えたら出世が出来たのに残念ですよ」


「何……」


 中隊長の目つきが厳しくなり立ち上がろうとしたので、周りに見えないように片手で阻止したが、予想外にクリストバルが立ち上がって、その分隊長を殴り飛ばした。


「貴様は馬鹿か、運だけであんなスキルが貰える訳無いだろうが、貴様がのほほんと過ごしていた子供時代とは全然違うからあのようなスキルが授かったんだろう。貴様はその事ぐらい分からんのか」


 副官の言う事は最もなのだが、この国では普通の学校ですら通えるものは半数にしかいなく、将来の為にスキルの訓練をする者などは数少ない。

 それなのに家業を継げない次男以下が兵士になったとしてもスキルが確定してしまってからはどうしようもなくなってしまう。


「副官、そんな事ぐらいで殴る何て貴方らしくないではないですか、別に俺は気にしてません」


「小隊長の問題だけでは無いんです。何かというと直ぐにスキルのせいにする奴らが私には我慢出来ません。どんあスキルだろうと可能性を高めればいいんですよ」


 副官のスキルの「千里眼」などは本来は見張り程度しか無いと思うが、副官はスキルを成長させ全方位を見る事が出来るし、隠れているの者も発見できるようになったのだから言いたい事は分かる。


「そうだな、ちょっとコイノスは何処にいる、前に来い」


 俺を釣り上げたコイノスを前に呼びだすと、コイノスは顔色を青くしながら前に出てくる。


「普通に答えてくれていいんだけど、君は魚釣りしかスキルを使っていない様だが何故なんだ」


「それはそうですよ、なにせ釣り上げる者なんですから」


「俺を助けてくれたじゃないか、だったら魚以外でも出来るじゃないか、それに地上ではどうだ、もしくは釣り糸以外ではどうだ、拘束は出来るのか……」


 矢継ぎ早にコイノスに聞いたが、コイノスは全く答えられなかった。

 どうせ試してもいないだろうと思ったが、案の定思った通りだ。


 俺のように騎士になる為の学校ならばスキルの可能性を探るが、やはり一般の人間は凝り固まった知識だけで終わりにしてしまう様だ。


「皆にも言えるが、もう一度自分のスキルの可能性を探ったらどうだ。全てのスキルが兵士として役に立つとは言えないが、現状を変える事が出来るかも知れないぞ」


 誰もが黙り込んでしまったが、決して文句をいいたいわけでは無くて、各々が自分のスキルの事を考え出したようだ。

 

「ほらっもういいだろう、お前らは明日から休暇なのだからまずはそれを楽しんで来い。今はまだ酒でも飲んで楽しみな」


 中隊長の一言で会場の空気がまた変わり、副官に殴られた分隊長は俺達に謝罪し、副官も謝罪を交わした。


「申し訳ありませんでした。私はさんざん新兵の頃はスキルのことで嫌な目にあったので、つい頭に血が登ってしまいました」


「あんたにしては珍しいねぇ、まぁ私もスキルでは苦労したから気持ちは分かるよ」


 中隊長のスキルは「走る者」で、空をも走れると分かる迄随分と苦労したそうだ。

 空を走れるようになったのは小隊長になった後だと言うので、軍はスキルが全てでは無い事を物語っている。


 元のような楽しいだけの状況には戻らなかったが、これはこれで良い様に思える。

 少しでも自分のスキルを磨いてくれたら良くなる事は会っても悪くなる事など無いのだから。


 スキルについて理解しているようで理解していないのがこの国の現状で、他の国がスキルの研究に力を入れたらこの国はかなり出遅れてしまうだろう。



 翌朝になり、殆どの者は自分の故郷に帰るようで、中隊長が手配してくれた飛竜に輸送されて行ってしまった。


「副官は帰らないのか」


「もう少し片付けたら帰りますよ、小隊長に任せっきりでは申し訳ありませんから」


 イリーナ中隊長はシーサーペントに関わる書類を全て俺に押し付けて戻ってしまったので、副官の存在は非常に有難かった。


 数日後、書類がひと段落すると副官も休暇に入ってしまったので、のんびりと海を眺めながら歩いていると、目の前にルーサーが舞い降りて来た。

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