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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第七十九話 初めて見る海で

 港にある隊舎はあまり大きく無い建物だったが、別にこの中で寝泊まりをする訳では無いのでこの規模で十分なのだろう。

 その向こうには堤防があって海は姿を見せないが、その先に船があり、海が広がっていると思うと直ぐにでも見に行きたいが、遊びに来たわけでは無いので逸る気持ちを押さえつける。


 隊舎にはクリストバルと雑用をしている三人しか残って居なく、既に他の兵士は港の管理に行っているようだ。


「小隊長、いつ此方に来れるのか分かりませんでしたので私の方で配置をしておきました」


「助かるよ、では私も港に行ってくるな」


「海を見たい気持ちは理解出来ますが、小隊長には別の仕事が待っていますので隊長室に行きましょう」


 隊長室の中には山のような書類とまでは言わないが、それなりの量の書類が積み上げてあった。


「あれを私がやるのかな」


「そうです。ただ検閲などの書類はイリーナ中隊長のいる本部に渡すだけですのでさほど手間はかからないかと思います」


 クリストバルは簡単に言ってくれるが、やり方を教えて貰いながら整理していると、どうしても時間が掛かってしまう。

 毎日のように書類に目を通し、ようやく時間の余裕が作れるまで一週間を費やしてしまった。


「今日は交易船が入港していますので、部下たちの仕事の様子を見に行きませんか」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 堤防を越えて行くと港の中には漁船が数隻と大型の船が二隻停泊しているが、それよりも見渡す限りの水の世界に感動してしまう。


「これが海なんだな、こんな景色がだとは、想像を遥かに超えているよ、ずっと見ていても飽きないだろうな」


「私も初めて見た時はそのように思いますが、一ヶ月もしない内に慣れてしまいますよ」


 俺には見慣れるとはとても思えないが、この景色をディアナにも見せてあげたい。

 俺達は新婚のはずなのだが、本当に結婚したのだろうか。


「もうですか……。小隊長、やはり人は直ぐには変わらないようですね」


「んっどうしたんだ」


 クリストバルが指を刺した方向には人影が薄っすらと見えるが、彼等が何をしているのか間では分からない。

 副官のスキルである「千里眼」にははっきりと見えているのだろう。


「俺の目には彼らが何をしているのか分からないから、近くに行ってみよう」


 港で働いている民間人を横目に見ながら堤防の先を目指して歩いて行く。

 俺達の行動に気が付いた兵士は他の兵士にも伝えた様でそこそこの人数の兵士達が俺達の行動をきにしている様だ。


 俺はあえて気が付いていない振りをしているが、俺達が向こうに着くころにはかなりの兵士が行方を見守っている事だろう。


「小隊長、見られているのに気が付いていますよね」


「あぁ、俺が何をするのか気になっているのだろうな」


「この対応は今後の部隊の方向を決める分岐点になります。慎重にお願いします」


 堤防の先では参院の兵士が楽しそうに釣りをしているのが見える。

 別に非番や休憩中ならいくらでも好きにしてくれて構わないが、今日は夜勤以外の人間は入港してきた船の検閲をしなければならない。

 そして彼等は夜勤の人間ではない。


「君達はそこで何をしているんだ」


 釣りをしている彼等の背後から静かな声で話し掛けると、兵士達は驚いたように振り返って来たが、俺だと分かるといかにも面倒くさいと思っているのが伺える。


「脅かさないで下さいよ、此処の食事は肉ばかりなので折角海があるので魚を釣っているのですよ、平和ですからね」


「あのなぁ、貴方達はそれが仕事じゃないだろ、今日は船が入港しているんだ。そんな事をしている暇はないはずだが」


 三人は顔を見合わせた後で不貞腐れたように釣り竿を地面に叩きつけ、釣り上げた魚が入っている箱を蹴り上げた。


「はいはい、そんなに小隊長は偉いのですかね、なんで上が変わるとこうもやり難くなるんだよ」


 三人は俺達を通り抜けようとするが、俺は進路を塞ぐようにして立ちはだかる。


「もういいです。そんなに不満があるなら家に帰っていいですよ、これ以上貴方達と話しても時間の無駄になってしまうので、ではお疲れさまでした」


「ちょっといきなりそれは無いんじゃないか」


「小隊長程度にそんな権限があるのかよ」


 慌てた様子で言ってくるので、俺は満面の笑みを最後に見せてあげた。


「権限があるから言っているんですよ、それともう隊舎の中には入らないで下さいね、もう部外者なので入ったら捕まえますよ」


 茫然としている三人をその場に残しクリストバルと船に向かって行く、この三人のまとめ役である分隊長に注意をしなければいけない。


「小隊長、少しよろしいですか、対応は問題ないのですが、奴らに対して敬語になっていましたよ」


「そうだったね、辞めさせようと思った途端に敬語になってしまいました。部隊から離れれば向こうが年上ですから」


「私も辞めさせるつもりなのですか、私にも敬語になっていますよ」


「何だか面倒くさいよ、慣れるまで話し方なんてどうでもいいじゃないですか」


「駄目です。規律が乱れます」


 彼等の分隊長には厳重注意だけして、特に分隊長を交代させるなどはしなかった。

 俺に首にされたあいつらは中隊長に直訴しようとしたがあって貰えず、他の小隊長に助けを求めたが相手にされ無かった。




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