第七十七話 飛竜輸送部隊
城壁の出発地点で俺達の第十六小隊と第十三小隊が早朝にエスペラからやって来る他の隊と勤務を交代する為に待っている。
これからこの二部隊が一気に飛竜によって運ばれるので俺は初めての事なので楽しみで密かに興奮している。
「お早うさん、お前は早速きつく部下に言ったらしいな」
「お早うございますシリノ小隊長、もう知っているのですか」
「砦の中に居たんだぞ、それ位は耳にするさ」
一般兵士は前で整列していて俺達は少し離れた場所にいるので誰かに聞かれる心配はない。
「当たり前の事しか言っていないですけど、間違ってますか」
「いや、俺もお前に賛成だし、俺ならもっと強く言うだろうな、ただな……」
少し言いにくいのか言葉が詰まってしまっている。
「遠慮何てしなくていいですよ」
「分かったよ、お前は入隊したばかりだろ、武力は誰もが認めたと思うがそれだけじゃぁなぁ、大体あの学校の卒業生は分隊長か一部の優秀な奴でも小隊長の副官から始まるんだよ、いくら時間を取り戻す為だとはいえ、この人事は上も無茶な事を要求するな」
やはりそうだったのか、いきなり部下が三十人なんておかしいと思ってはいたし、それなら中隊長が嫌がった理由も理解出来る。
「あの、どうしたらいいと思いますか」
「副官のクリストバルの意見をよく聞くんだな、あいつは平民だがちゃんと貴族に対しても意見を言う真面目な奴だぞ、ただそのせいで良く思ってもいない奴もいるが、そこはお前がしっかりとしないとな、まぁあまり心配はしすぎるな」
「有難うご……」
城壁の上を六匹の飛竜が一つの平屋の家を吊り下げて飛んできているみて思わず言葉を失ってしまった。
「どうだ凄いだろ、あれでエスペラまで行くんだぞ、さぁ行こうじゃないか」
静かに家が地上に降りると、その中から第三中隊の二つの小隊が降りてくる。
彼等とは逆の扉から乗り込んで行くと、その中の部屋は天井から吊るされたロープが数多くあるだけで、他には何もない様に見える只の広い空間だ。
窓の外ではドラゴンライダー達が飛竜に食料や水を与えていて、ほんお僅かな休憩で再び飛竜はエスペラに戻る事になる。
俺はそれを眺めながら他の兵士と同じようにロープを腰に縛って座る事にした。
「小隊長、何をなさっているのですか、士官は此処では無くて奥の部屋です」
クリストバルが俺からロープを外して奥の部屋に案内してくれると、その中には既に副中隊長のアクセリとシリノ達が座り心地のよさそうな椅子に座っていた。
「君は初めてだったな、飛竜といえどエスぺり迄は時間が掛かるからのんびりとしていなさい」
アクセリが部屋の奥を指さすとそこには木箱が置いてあり、中には食料と飲料が入っているのでこれは自由にしていいのだろう。
ただこの待遇は内装も含め士官と一般兵士ではあまりにも違い過ぎる。
仕方の無い事かも知れないが、階級とは残酷なものだ。
直ぐに浮遊感が来たので空を飛んでいるのだが、窓から見ると高く舞い上がるのでは無くて、城壁の上を滑るようにして飛んでいる。
高さは下に旗を掲げた馬車が通過出来る程の高さしかなく、万が一ロープが切れたとしても死ぬことが無いようにしてあるのだろう。
速さもこれだと馬の全速力に負けてしまうだろう。
「飛竜が運んでいるにしては遅すぎませんか」
俺の嘆きにシリノが優しく答えてくれる。
「そりゃそうさ、昔は頻繁にロープが切れて数多くの死人を出したんだ。このスピードなら怪我はするが死ぬことは無いだろうからな」
これ以上速さも高さも上がらないとするならば、俺がやる事は決まったも同然だ。
クリストバルに長めのロープを探させ、俺はアクセリの元へ行く。
「副隊長殿、此処では本当に自由にしてよろしいのですか」
「この中で騒ぐような兵士はいないのだから、小隊長は彼等を気にしなくても構わんし、節度ある行動をしてくれれば何をしようと構わんよ」
「分かりました。有難うございます。では少しだけ身体を動かしてこようと思います」
俺が何を言っているのか分からないのか、副中隊長達は誰もが黙ったまま俺を見ていると、丁度クリストバルが俺の理想通りのロープを引きずって来たので、一方を柱にもう一方を俺の身体にしっかりと結んだあとで俺は奥の扉を開けて飛び降りた。
「何を考えているんだ」
「おいっ怪我はしていないか」
頭上からアクセリ副隊長とシリノ小隊長の声が聞こえるが、今は全くそれどころでは無かった。
俺の考えだと飛び出して城壁の上に着地したらそのまま走り出せると思っていたが、残念ながら着地した途端に何故か俺の身体は止まらないで引きずられてしまっている。
「大丈夫ですので気にしないで下さい」
大声を張り上げて上に無事を知らせるが、実際は全然大丈夫では無い。
痛みこそ感じないが俺の服は地面によって削られ、どうにか体勢を整えて走り出す事に成功した時にはエスペラの街が見えてきた頃だった。
俺にとっては予想していなかった訓練方法になってしまったが、これでも苦痛を貯める事には成功したと思っている。