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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第七十五話 力試し

 イリーナは副官のアクセリに耳打ちをすると、アクセリは訓練をしている連中の中に入って行き、十人程の兵士を引き連れて戻って来た。

 それ以外の者達も訓練を止めてイリーナの前に整列を始めた。


 イリーナはアクセリが引き連れて来た者達を見て何か納得したように笑みを浮かべている。


 その中にいる一人の小柄な男が、まるで俺を品定めをするように俺の事を真剣な顔で見ていて、敵対心は感じられないが余り感じのいい物では無い。


「お前らはこれからここに居る新しい小隊長と戦うんだ。こいつはお前らの訓練を見て、どうやら物足りないようだから全力で教えてやれ」


 選ばれた者達の殆どは俺の事を睨みつけてくるが、そもそも木剣での訓練何てものは学生時代に毎日のように行われていたのだから別に感心しなくても仕方がないように思う。


「中隊長、そこの小隊長も全力でくるのでしょうか」


「そんなのは当たり前だろうシリノ小隊長、私はリンチをしろと言っているのでなく、訓練をしろと言っているんだ」


 俺を品定めをしていたのは小隊長だった様で、彼は険しい表情になっている。


「それならば私は辞退しますよ、訓練なんぞで怪我はしたくありませんので」


「あんたは何かシリノにしたのか」


 イリーナは俺を睨みつけてくるが、俺には全く身に覚えがある訳が無い。


「知りませんよ、別に私は誰とでも戦いますし、それに全力で良いのであればまとめて来て貰っても大丈夫ですよ」


 ここに居るいる者は、祖父が連れて来てくれた者達にに比べて遥かに格下で、いかに遊撃隊の隊員と一般兵士では力が違うのかが分かる。

 身体も違うがスキルの性能も差がありすぎるから、彼等が俺を睨んだところで寒気は襲ってこない。


「本気なのかい、だったらシリノ以外と全員と戦うがいい」


「分かりました。じゃあ皆さんまとめてやりましょうか」


 俺は剣は苦手だが近くの兵士から木剣を借り、彼等の方へ合図を送るが誰も剣を構える事はしないばかりか動いてもくれない。


「申し訳ありませんが小隊長がじたいするのであれば、私も辞退します」


 シリノの隣にいた男が言い出すと、次々と辞退者が現れる。

 彼に人望があるのか、それとも彼のスキルが関係しているのかも知れない。


「いい加減にしな、こいつのスキルは苦痛何とかと言って、たかが痛みから逃げるスキルなんだよ、最初は聞かないかも知れないが、何時までもその状態が続く訳はないだろう」


 イリーナの説教は続き、無理やりにでも戦わせようとするが誰もがシリノの方を見て首を横に振るばかりだ。


「なぁあんた、このままだとあいつらが可哀そうだからさ、中隊長が納得する奴を見せてあげてよ」


 シリノ小隊長が俺に近づいて言ってくるが、俺にとっては何か面倒な事になって来ているのではっきり言ってしまえばいい加減にして欲しい。


「中隊長、小隊長が力を見せてくれるそうですよ、それを見てから判断したらどうですか」


「ふんっ意気地のない連中だな、こいつが大したことなかったらお前達の訓練はもっと厳しくしてやるからな」


 若い兵士達が人の形をかたどった木の人形を地面に突き刺し始めたので、俺も新人らしく手伝おうと思って動き出したら直ぐに副官のクリストバルに腕を掴まれた。


「何をしようとするのですか、貴方は小隊長なのですからじっとしていて下さい」


「この中で俺が一番の新米なのにいいのですか」


「そんな心配より、十体も木人形を準備していますよ、あれをどうやって壊すか考えて下さい。ここで失敗しますと小隊長の威厳は無いものと思って下さい」


 副官は怖い事を言ってくるが、俺は等間隔で並べてある木人形を見て既にやる事は決まっている。


「準備が出来たようだな、じゃあ、あんたはあれを攻撃して壊しまくるんだよ、強い奴だと一撃で一体を倒せるが、十体もあるんだ、どれだけの速さであれを壊せるのかねぇ」


 この訓練施設にいる全て者の視線が俺に集まっているが、その緊張感のおかげで俺は何も感じなくなっている。


「今からやるので、木人形の後ろや近くには絶対に立たないで下さい。怪我をしても知りませんよ」


「随分と威勢をはるね、それよりあんたは自分の武器に持ち替えてもいいんだよ、木剣なんかであれが壊せる訳はないんだから」


「これぐらいで良いんですよ」


 何か言いたげなイリーナをよそに、俺は部屋の中に入って行くと、黒い影が浮遊しているのだが俺に話し掛けてくることはないし、意識があるようにも見えない。

 それを見てしまうと悲しい気持ちになってしまうが、俺はレバーを二つ上げて現実に戻って行く。


 3856.


 頭に浮かぶ数字はかつてない程の多さになっているので、一年間の訓練のおかげだだろう。

 俺は木剣に光を纏わせ光の剣として徐々に伸ばしていく。


「今からやりますけど、いいですか」


「あんた本当にそれでやるんだな、木剣が壊れてもいい訳にならないよ」


 木剣が最初の時より五倍程の長さを持つ光の剣に変わった事を確認してから、ただそっと横薙ぎに払った後で部屋にレバーを戻しに行った。

 それだけなのに数字は五十程減ってしまったが、仕方の無い事だろう。


「ずばーーーーーーん」


 木剣だったので木人形は切れる事は無く、衝撃波として向かって行ったので粉々になってしまったのだが、予想外だったのはその先にある壁まで粉砕してしまった。

 今では外の草原が見えて、爽やかな風が吹きこんできている。


 もしかして、やり過ぎてしまったのかもしれない。


「何だいあんたはやるじゃないか、あんなことが出来るのになんでスキル名があんなに変なんだい。やはりバルテルが欲しがる訳だねぇ、私はあんたが気に入ったよ、どうだい親交をかねて街に飲みに行こうじゃないか」


 イリーナはこれまでとまるで人が違った様に優しい笑顔を見せて肩を叩いて来た。


 兵士達はそのまま片付けをやらされ、副中隊長と三人の小隊長も引き連れて街の飲み屋に入って行く。

 俺は酒で酔う事は出来ないのでただ周りが潰れて眠ってしまうところを見ていたが、暫くすると憲兵に俺と中隊長は確保され連行されてしまう。

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