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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第四章 クローネン王国
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第七十話 再び訓練塔

「さぁ着いたぞ、お前は暫く此処で過ごすんだ」


 祖父に連れて来られたのは、昔、初めて魔人と会ったサボン島の訓練施設で、今は学校の持ち物ではなくなって王国の管理となっているせいか、兵士の姿が見える。


「兵士と一緒に訓練をすればいいのですか」


「馬鹿か、彼等と同じ事をやってどうするんだ。奴らが一年かけてやることをお前は一ヶ月でやるんだ」


 無茶な事を言う祖父と施設の中に入って行くと、祖父が足を踏み入れた途端に誰もがその動きを止めて敬礼をし、その彼らの間を避けながらこの施設の責任者であろう老人が駆け寄って来た。


「お待ちして要りましたランベルト様、私はこの訓練所の責任者をしておりますバイガルと申します。お孫様の事はお任せください。此方で訓練のサポートをする者を用意しておりますので只今連れてまいります」


「誰がそんな事をしろと言った。こいつには食事と寝るところだけ与えてくれれば十分だ」


「そうは申されましても、此処は改良しておりますので御一人での攻略は難しくなっています。それにお孫様はその身体なのに一人で行動させるのはかなり危険なのでは無いでしょうか」


 祖父が顎で指示を出してきたので、指定された部屋に荷物を投げ込み早速登ってみる事にする。

 今の俺の身体にはふさわしくないハルバートを背中に背負って二階の入口で順番を待っていると、目の前で並んでいる四人組の中に居た一人の中年の男性達に声を掛けられた。


「君は一人で登らせられるのか、何処の馬鹿の指示なんだ、言ってみなさい私が抗議してあげるから」


「そうだな、申し訳ないが君の身体つきでは此処の塔を一人で登るのは無理だぞ、せめて一緒に行こうでは無いか」


 俺のこの身体を見ても馬鹿にするわけではなく、ただ本当に心配してくれているようなので有難いが、その意見に従う事は出来ない。


「すみません、祖父であるランベルトの指示なのです」


「君がランベルト様の……」


「そうか、ずっと病に倒れていたと聞いたが……、それなら私達より先に入るがいい、後ろからなら多少手助けをしても問題は無いだろう」


 お礼を言ってから先に入らせてもらい、二階から五階を駆け上がる事しかしていないがそれだけで足がもつれてしまう。

 大量に汗を流して倒れ込んで動けなくなってしまった俺を、あの四人組によって降ろされた。


 俺は簡単に屋上まで行けるものだと信じていたが、俺の身体はそれを許してくれない様だ。

 一階では既に祖父の姿はなく、その代わりにバイガルが走って来た。


「大丈夫ですか、やはりこの施設ではその身体では無理ですよ、せめて手助けをする者と一緒にゆっくりやればいかかですか」


「有難いのですが、それでは意味がありません。それよりも水と食料が持てるだけ欲しいのですが、どこにありますか」


 俺には腹が減ったとか水分が欲しいとかの感情は直ぐに消えてしまうので、時間で定期的に栄養を取る事にした。

 腰には水袋を括り付け、食料は袋に入れて背負って行く事にし、準備が終わり次第再び二階へと向かって行く。


「何だあいつの恰好は」


「遊びなら他でやれよな」


 俺の異様な姿を見た者からの陰口が聞こえてくるが、そんな事に構っていられない。

 戦闘が始まってしまう六階以上は今の俺には無理だと判断して、ひたすら二階から五階までを登ったり降りたりを繰り返した。

 全ての食糧を食べつくすと、少しだけ仮眠をとってまた繰り返す。


 そんな事を一ヶ月も繰り返していると、俺の身体に筋肉が戻って来てくれたように思える。

 今では最初馬鹿にした目で見ていた兵士達も俺に対しての陰口は鳴りを潜め、俺が彼等に追いつくと道を開けてくれるようになった。

 次は六階以上に行こうとしている時、久し振りにバイガルが話し掛けてくる。


「かなりいい体つきになってきましたね、もう周りを見渡しても遜色はありませんよ。ただ今日の顔色が良くありません。今日は休息日にした方が良いと思いますが」


 そんな時間は俺には無いので断ろうとしたが、何故かバイガルの言葉が正しいように思えてしまう。


「分かりました。バイガルさんの助言に従います」


 久しぶりにゆっくりと身体を清め、ベッドに潜り込むと直ぐに意識を失い、暫くして目を覚ましたら二日も過ぎてしまった。

 身体を思った以上酷使してしまったのでこのぐらいは仕方の無い事だろう。

 

 再び行動を開始し、久々の戦闘に身体が付いて行けるのか不安もあったが、体力が戻ってくれたおかげで六階以上は何の問題もなく屋上に登る事が出来た。


 始めは屋上から走って降りていたが、二ヶ月を越えると屋上から降りる方法として飛び降りる事を選んでいる。

 ゴーレム程度の攻撃を食らうより、速くてより苦痛が貯められると考えたからだ。


 この日も気分良く落ちたが、バイガルは苦々しい顔をして近寄って来る。


「どうかしましたか」


「どうしたじゃありませんよ、その行動はどうにかなりませんか、新たに利用する兵士が貴方のその行動を見ると自分もやらなくてはいけないのかと不安がっているんですよ」


「すみませんが、気に入っているんですよ」


「あぁそうですか、やはり止める気は無いのですね」


 肩を落としてバイガルは去っていくが、此処は兵士の訓練施設なのだからこれぐらいで不安になる様では駄目だと思う。


 重りを身体に巻いたり、片手を縛ったりしても物足りなくなって来てしまった頃、再び祖父が俺の前に姿を現した。


「此処での訓練は終わりだ。それでは次の場所に向かうとするか」


 有無を言わせずグリフォンに乗せられ、俺は見知らぬ場所に置き去りにされた。



 


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