第六十八話 入院生活
ディアナは普通に接していてくれたが、俺はディアナの変化に動揺してしまう。
何せ目が覚めたら五年以上も経過してしまったので、あの当時よりも磨きがかかったディアナをまともに見る事が出来なかった。
ディアナが部屋から出て行くときに水色の幕を取り払ってくれ、これで普通の病室と変わらない状態になっている。
あの水色の幕は、眠っていた俺には重要だったらしく、あれがないと生きていく事は出来なかったそうだ。
一人になり、痛みに耐えながら上半身を起こしてみる。
どうしても身体がどのように変化してしまったのかこの目で見たかったのだが、結果は想像以上に酷く見てしまった事を後悔した。
俺の身体は老人のようになっているので、このままでは卒業どころかまともに暮らすことも出来ないように思える。
元に戻すにはスキルが作用してくれないとどうしようもないと思い、失意のまま短い眠りにつく事にした。
「おーい、起きれるかな」
何度も俺を呼ぶ声が聞こえて来たので、俺は意識を覚醒させて目を開けた。
「あぁ起きれるよ、仕事はいいのか」
「今日はもう終わりだよ、これからユナ達に知らせに行こうと思っているんだ。みんな心配しているからね」
「ありがとう、ただ見舞いには来なくていいと言っておいてくれないか、けどみんなの状況はしりたいな」
俺はこの身体の俺を見せたくは無い。
せめてもう少し回復してから会いたいと思う。
テオは卒業した後、やはり第一王子の近衛兵になる事が出来たようだ。
グレタはスキルを活かした仕事を選んだらしく、王都の警備隊に入って王都の治安を守っているそうだ。
ユナは幹部騎士として王宮に勤める事が出来たそうだが、その推薦を断ってグレタと同じ警備隊に入り、三年後にはイーゴリと結婚して家庭に入ったそうだ。
そのイーゴリは王宮の近衛兵として働いている。
そして、ジョンソだがてっきり田舎に帰っているものと思っていたが、実は行方不明になっていて未だに見つからないそうだ。
「そうか、色々あるんだな、早く身体を直して会いたいよ」
「あんたは、焦らずに治す事だけ考えればいいんだよ、皆にはもう少し待ってくれるようにお願いしておくよ」
それから六ヶ月は何も体調に変化はなく、祖父や母が見舞いに来たがこれからの事は今は全く気にしなくていいとしか言われなかった。
結局俺は今年の卒業は見送られ、俺達が助けた子供は俺よりも先に卒業してしまう事が決定した閉まった。
留年が決まった事よりもこの事がいかに歳月を無駄にしてしまった事が悔しくなり、このやせ細った身体を思いきり殴ったが、そこで何も感じない事に気が付いた。
ディアナにその事を告げると、少ししてから祖父が病室に入ってきていきなり俺の顔を殴って来た。
「どうじゃ、痛くはないか」
「あの、おじいさまが本気で殴ると流石に痛いのですけど」
顔から血を流し、痛みに震えているが徐々に痛みは引いて行く。
祖父の代わりにディアナが俺を叩くと、その痛みは全く感じず、それを見た祖父は俺に笑顔を向けて来た。
「ようやくスキルが戻ってきたようだな、貴様はどうするんだ、このままゆっくりと身体を治すか、それともスキルの力を利用して無理やり元に戻すかだ」
「もう寝ているの何て我慢は出来ません、直ぐにでも鍛え直したいです」
「それこそ我が孫だな、貴様に良い訓練を考えるから少し待っていろ、準備が出来次第迎えに来るからな」
祖父はそのまま出て行き、俺はスキルが戻った事に浮かれてディアナの顔が曇っている事に全く気が付いていなかった。
「じゃあ私は仕事に戻るね」
その日から数日、ディアナは病室に来てくれず、院内で会ってもまるで俺の事が目に入らないかのように無視している。
綺麗になった分、ディアナの冷たい態度は俺の心を痛くさせるには十分だった。
それから先生に頼み込んでようやくディアナが俺の病室に入って来てくれた。
「あのさ、勝手に決めてしまった事は本当に悪かったと思っている」
「そのスキルが帰ってきたからまた無茶するんでしょ、いい加減にしてよ」
「すまない、ただ二度とこんな事が無いように気を付けるつもりだ」
「分かりもしない事を簡単に口にしないでよ、ねぇなんで焦る必要があるの、そんなに戦いたいの」
ディアナは泣きながら出て行ってしまった後、ディアナは今度は治療院に出勤してこなくなってしまった。
全ての原因は俺にあると先生にばらされてしまった俺は、治療院中の人達から冷たい目を向けられている。
「お前な、何を考えているんだ、六年ぶり何にそれかよ」
「内の子供よりも馬鹿だね」
「久しぶりなのに、説教をしないといけないなんて思わなかったわよ」
いきなり病室に入って来たのは、テオとユナとグレタだった。
面会を断っていたのだが、ディアナの状況を知ってそんな事は無視してやって来た。
三人とも見た目はすっかり大人になってしまっているので少し寂しくなってしまったが、そんな俺の気持ちは無視され一日中説教をしてきた。
説教は辟易するが、俺は変な見栄など張らずに一日でも早く会えばよかったと後悔した。