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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第六十二話 交渉の続き

 数少ない味方の一人であったルトロが部屋から出て行ってしまったので、この部屋は再び何とも言えない空気が流れている。

 そして不思議な事にディアナは俺の事を睨んでいる。


「何が不満なんだ。俺はそんな真似はしないと言っただろ」


 俺のその言葉に反応するかのようにパトリスは溜息交じりに橋掛けてくる。


「君はもう少し頭がいいと思っていたが、馬鹿なのか、もう少し言葉を選んで話したらどうなのかね、君は責任とやらだけで妹と結婚をするつもりなのか」


「アル、ちょっと来てくれるかな、お父様たちは先にお兄様の方の話を進めて下さい」


 ディアナがもの凄い力で俺の腕を掴んで部屋を出て行くと、俺の胸はキリキリと痛みだした。

 何故だか分からないが、ディアナが絡むと俺のスキルは正常に働いてくれず、痛みに耐えながら二階のディアナの部屋に入らさせられる。


「ねぇあんたは私の事どう思っているの、責任としか考えていないんだったら、もうどうだっていいんだけど」


「いや、あれは責任と行った方が言葉に重みがあると思っただけなんだ」


 そういえば、少尉にもう言ってはいけないと言われていたが、すっかり忘れていた。

 どうもこの手の話になってしまうと思い通りにいかないが、それでも長い時間をかけてようやく俺の気持ちを正確に伝える事が出来たと思う。


「まぁいいわ、ただこの先にもう一度責任をとる為に結婚するなんて言ったら許さないからね」


「あぁ……はい」


 確か出だしは責任をとるから結婚を申し込んだのだが、何時この事が禁句になってしまったのか分からないが、この事を聞いてしまうのは不味いような気がする。


「ねぇ本当に理解してるの」


「勿論だよ、好きでもない相手にはこんな事言わないさ」


 少しだけ機嫌を取り戻してくれたディアナと部屋の中に戻って行くが、これ以上面倒な事にならないで簡単に終わってくれることを願いたい。


 部屋の中では何故かルトロが正座をさせられていて、俺に助けを求めて来るような目を向けてくるが、俺に出来る事は一つもない。


「もういいのか、息子もそうだがスキルが武力に特化する者は感情に赴くまま行動するから苦手なんだよ」


「そこは分かりませんが、私は決して浮気はしないと誓えます」


 ルトロは俺の事をまるで裏切り者を見るような目で見てきたが、そこだけは一緒にされたくない。


「あの時はこいつの事が頭をよぎってしまったから思わず口にしてしまったが、結婚に反対する理由はそれだけではないんだ。君にはその理由が分かるかね」


 この質問は想定内の事で、実は結婚の障害についてはソヒョン姉に聞かされていた。


「今の祖父は宰相と言う立場ですが、それでも派閥の違いと、私が一人だけの跡継ぎなのに危険な部隊に入りたい事だと思います」


「そうだな、但し派閥の違いはそれほど障害にはなっていない。その事はランベルト様もご存じのはずだが」


「そうなんですか」


 どうせ祖父の事だ何があったか知らないがそんな事を一々俺に言ってくるわけはない。


「私が一番心配しているのは、君が若くして死んでしまったら確実にマイヤー家の領地は他の者が治める事になるだろう。いいかね成人した跡継ぎがいなければマイヤー家は侯爵の地位を失ってしまうのだぞ」


「たとえ私がそうなったとしても財産はディアナに渡りますので安心して暮らしていけると思います。それにマイヤー家なんて祖父の代から生まれたものですから、そんな大層な家柄ではありませんので家柄など私にはどうでもいい事です」


 代々続くエイマーズ家の人にはこの考えが理解出来ないのか、呆気にとられた顔で俺の事を見ている。

 この事をディアナには話していなかったが、ディアナも別に何とも思っていなかったようだ。


「お父様、そんなどうなるか分からない未来の話をしても仕方がないのではありませんか。そもそも私があの学校に入ったのは自分の力で生きて行く為であって、いい家に嫁ぐ為ではありません」


「そんな……」


 夫人が何かを言いかけたが、それをラウレンス侯爵て手で制し、話させるのを拒んだ。


「君の考え……ディアナもそうか……、私にはどうも甘い考えにしか聞こえないが、致し方ないのかも知れないな」


「そうですよ父上、その考えだと私も早死にしてしまうのではにですか、父上はディアナを心配しすぎなんですよ」


「お前に説教されたくない。お前はとっとと誠心誠意あちらさんに誤って来い」


 ルトロは苦笑いを浮かべながら俺の肩を叩いてから去って行った。

 何処の家に行くのか知らないが、これからはルトロの修羅場が待っているのだろう。


「お父様、では婚約を認めてくれるのですね」


「それはまだ無理だな、せめて彼が国境警備隊で手柄を立てるか、少しでも出世をしてからだ。その間に次兄のような問題を起こしたら絶対に許さん」


 言葉とは裏腹に一応これで前に進む事は出来たので仮の婚約といったところではないかと思う。

 この勢いで俺は今夜は此処で泊まる事が許されるのかと思ったら、夫人とパトリスは許してくれず、俺は宿舎に戻る事にした。


 別れ際、ディアナが今迄見た事が無いような笑顔を俺に見せてくれたのでこれで良しとしよう。


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