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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第六十一話 侯爵の思い

ルトロのスキルは身体全体がオリハルコンのようになると言う物で、他の人間が俺達を殴ったら手を痛めるのはルトロを殴った方になる。

 俺を良く殴ってくれたイーゴリの話だと、俺の身体の感触は密度の高い肉の塊らしい。


 単純な攻防だけならルトロの全身がオリハルコン化の方が上だと思う。


「馬鹿な事をやっていないで家に入ろうよ」


「馬鹿じゃないぞ、私は彼の緊張をほぐしてやったんだ。あの家の中には嫌な空気が流れているからな」


 俺があの部屋の窓に視線を送ると、此方の様子を伺っているパトリスの姿が見えるので、よほど俺の事が気になるのだろう。


 部屋の中に戻って行くと、テーブルには人数分のお茶が用意されていて、先程よりは少しはましになったという事か。


「お前は気が済んだのか、ディアナの相手は強い奴じゃ無いと嫌なんだろ、だからお前はトシュテンを認めなかったんだからな」


「兄上には悪いけど、元からあいつは認める気はないよ、あれのどこを気に入れと言うんだい」


「もうよさないか、お前たちの中の悪さを広めなくてもいいだろう。それよりもアル君の話が聞きたいのだが」


 いきなり俺に視線が集中してくると、俺の隣に座ったディアナが手を握って来るがその感触は無くなっているので、この部屋の中は俺にとって苦痛なのだろう。


「この前はいきなり帰ってしまい申し訳ありませんでした。侯爵から聞かされた話に動揺してしまいましたが、あれから祖父や色々な方達と話してようやく私の間違っている所に気が付きました。私は過去に囚われるのは止めようと思います」


「威勢の良い事を言うが、君は魔剣に心を囚われたのであろう、だったらそう簡単に考えが変わるとは思わないのだが」


 上手く言葉を返せずに戸惑っていると、ルトロが助け船を出してくれる。


「父上、魔剣の事をもちだすのはどうかと思いますが」


「黙れ、お前に……」


 パトリスが口を挟んできたが、侯爵が睨みを利かせるとそれ以上言葉を話す事は無くなった。


「いいですか、魔剣を使ったものは心の闇を増幅させてしまうではありませんか、勇者以外に魔剣の力に対抗出来る者などいるはずはありません」


 侯爵は目を瞑り、ルトロの言葉を深く考えている様だ。


「確かにお前の言う通りだな、勇者出ない君に魔剣を普通の剣と同じように扱えるはずはないのだからな、ただ一つ気になるのだが、君が背負っているハルバートは魔剣ではないのかね」


 パトリスはハルバートを見ると、あからさまに汚らわしい物を見るかのように眉をひそめた。


「確かに同じものですが、祖父が何処かに改良を依頼いたしまして、魔の部分は封印したそうです。その証拠に色が変化しました」


 今まで存在を消していた夫人が立ち上がって、俺の背からハルバートを取りじっくりと観察している。

 貴婦人には似合わない光景だが、誰も夫人を止めず、その行動を見守っている。


「確かにこれは魔剣では無くて、ただのハルバートでしょう。ただこの鎖で魔を封印している様なので外してしまったら元に戻ってしまいそうですが」


 夫人の言葉に誰もが信じている様なので、これはスキルの力でハルバートを観察したのだろう。

 

「父上、ハルバートの話はこれで終わりにしませんか、それとも他の誰かにも鑑定させますか」


「いや、そこれで十分だろう」


 本当は普通のハルバートではなく、自動修復機能がついた優れものだが、その説明はしなくてもいいだろう。


「ガンっ」


 ディアナが俺の脚を蹴って来る。

 俺が余計な事を考えているのに気が付いたようだ。


「それでは君はこの先どうするんだ、近衛兵かそれとも領主見習いにでもなるのかね」


「いえ、私はこのまま騎士を目指します。魔族に囚われる事なくこの国を守って行こうと思います。それに卒業したら国王様に国境警備隊に行くように言われております」


 ルトロは笑顔を浮かべて俺の肩を叩いて来るが、侯爵は表情を全く変えない。


「志は立派だよ、流石ランベルト様の孫であり、ベンノの息子だな。君の事は執政官として誇りに思うし、同じ国に仕える者として敬意を払うよ。但し一人の親としてなら君には絶対に娘はやらん」


 前半は良い感じだったが、最後の最後で一気にひっくり返されてしまった。

 そんなにベンノの息子と言うのが嫌いなのか。


「お父様それは酷くありませんか、アルは家柄は申し分ないのに、何故御認めにならないのです、そんなに政略結婚させたいのですか」


「そうではない。国境警備隊に赴任するとルトロみたいに滅多に帰って来れ無いんだぞ、そんなに離れているとだな、こいつみたいに婚約者がいるくせに浮気しまくってこの家の立場を危うくさせるんだ」


 今度の視線の矛先はルトロの番になったようだ。

 ディアナはルトロのせいで話がこじれて来たと感じて飲んでいたコップを投げつけ、椅子迄も振り上げている。


「何で父上はその事を知っているのですか」


「お前の婚約者の家から相談があったんだよ、そうでもなければお前を呼び寄せたりはしない。お前はあの家をどれだけ汚せばいいと思っているんだ」


 ルトロは部屋から逃げ出してしまい、ディアナは不審の目で俺を見ている。


「いやいや、俺はちゃんと責任はとるから大丈夫だ」


 ディアナは俺の答えに納得していない様で不機嫌な顔を崩そうとはしない。


 ルトロはこれまで俺の味方でいてくれたのは有り難いが、これで全て帳消しになったと言ってもいいだろう。

 

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