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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第六十話 次兄

数日後、エイマーズ領に一人でグリフォンに跨って向かって行く中でずっとあの時の事を思い出していた。

 部屋に戻った時には使用できる程の苦痛は溜まっていないと言われてしまったのだが、それなら何故レバーを上げる事が出来たのか、それに使い切ってしまったのなら何故今の俺の身体が普通に動けるのかが分からない。


 考えている内に眼下にディオナの家が見えてきたのでグリフォンに効果の指示を出す、乗り心地はあまり良くはないが、馬より扱いやすく俺の指示通りに門の前に舞い降りた。


「何なんだ、誰か来てくれ」


 門番はグリフォンを見た途端に槍を此方に向けて屋敷に向かって叫び始め、その声を聞きつけた衛兵が俺とグリフォンを取り囲んで説明を求めるが、一斉に話始めるので何を言っているのか分からない。


「みんな、武器を納めて大丈夫だよ、彼は妹の婚約者候補なんだ」


 騎士の制服を着ている俺の身体より一回り大きい男が衛兵をかき分けながら近寄って来る。


「そうだろ、君があのアル君だよね」


「はい、私がアル=マイヤーです」


「やはりね、私はこの家の次男のルトロメウスだ。ルトロでいいからね、それよりそのグリフォンはどうしたんだい」


「こいつは祖父のペットです。馬より早く行けるので祖父が使用するように言ってきました」


「ランベルト様らしいな、ただね、普通はグリフォンをそんな風に使う人はいないんだよ、近所の人間が見たら怖がってしまうだろ、どうにかならないか」


 グリフォンに合図を送ると、大きく雄叫びを上げた後でマイヤー領に向かって羽ばたいて行った。

 俺にとってはかなり恰好がいいと思ってしまうが、近所の人間は魔獣が急襲してきたと思ったのか武器を構えて家から飛び出してきた。


「参ったね、カスパル達は彼等に適当に誤魔化してくれないか、私達は中に入ろうか」


 ルトロに促されて領主館に入って行くが、カスパルと呼ばれた門番にも駆けつけて来た衛兵にも俺は睨まれている。

 

 祖父はグリフォンで行けば誰もが喜んでくれると言っていたが、誰も喜んでいる様子は無い。


 領主館の前に案内された部屋の中に今回も連れていかれると、その中にディアナの姿は無く、そこにいる人達の目は決して俺を歓迎していない様だった。


「君は何を考えているのかね、グリフォンの姿を見たらああなってしまうのは想像出来ないのか」


 ラウレンス侯爵は挨拶よりも先に冷たい口調で話し掛けてきて、その隣にいる夫人も跡継ぎであるパトリスもそしてその奥に控えている執事達でさえ俺に蔑んだ視線を浴びせてくるので、この人たちはやはり俺を歓迎していないのだろう。


「まぁ父上も嫌味を言わなくてもいいでは無いですか、ランベルト様が言い出した事らしいので彼にはどうしようもないと思いますよ」


「それでも無礼では無いかと言っているんだ。こいつのせいで俺はトシュテンに合わせる顔が無くなったのだぞ」


「兄上、それはまた別の話じゃないですか、もういい加減にして下さいよ」


 パトリスは口からつばを吐きながら怒鳴っていた。

 政略結婚に自分の友達を選んだこの男を俺は好きになれないが、彼も俺の事が嫌いだと思っている様なのでお互い様だ。


「グリフォンの事は申し訳ありませんでした。マイヤー領では誰も気にしていなかったので此方に対して配慮が疎かになってしまいました事を謝罪します」


「そんなに気にするなよ、ディアナはもうすぐ街から戻って来るからそれまで中庭で訓練しようぜ、この雰囲気だと此処で待っているよりかマシだろ」


 ルトロは俺の肩を叩いて部屋の外に連れ出してくれる。

 侯爵は何か言いたげだったので本当に行ってしまっていいのかと思ったが、この場の空気にこれ以上触れたくないのでルトロの後を付いて行く。


「木剣がないから素手でいいかな」


「えっ、これから何をするのですか」


「君は騎士を目指しているんだろ、だったら組手をやるのは当たり前じゃないか」


 どうやら彼は侯爵やパトリスと違って武闘派のようだ。

 外見が外見だけに薄々気が付いていたが。訓練とはいえ、いきなり組手をするとは中々面白い考え方で俺にとっては好きなタイプだ。


 ルトロは腰に付けた剣を置き、更に上半身を裸になって身体をほぐし始めている。


「早く君も準備しなよ、俺のスキルと似ている様だから面白い組手になると思うぞ」


「どのようなスキルなのですか」


「いいから、いいから、そんなのは直ぐに分かるはずだよ」


 俺も上半身裸になると、ルトロはいきなり顔面を殴ってきて更に俺の顔を何度も何度も遠慮なく殴って来る。


 一度後ろに下がり体勢をを整えようとするが、簡単に距離をとらしてくれないので、全力でルトロの顔に肘を撃ち込むと。まるで凄く硬い岩がそこにあるようだ。


 そのまま防御もせずに交互に拳を叩き込んで行くが、お互いにダメージを与えられず特に進展はない。


「ただの殴り合いになってしまうとつまらないな、次は避けながら攻撃するようにしようか」


 ルトロの意見に従い、攻撃を避けながら戦うが、少し経つと再び殴り合いが始まってしまう。


「お兄様、何をなさっているのですか」


 ディアナが帰ってくるなり、慌てた様子で俺達を止めに入るが、別に憎くて殴っている訳ではないので直ぐに俺達はその手を止めた。


「アル君と遊んでいただけだよ、もう少し面白くなると思ったが駄目だな、君もそう思うだろ」


「そうですね、ルトロさんのスキルも似ている様なんですね」


「まぁ君程ややこしいスキルでは無いけどな、俺のスキルはオリハルコンだよ」


 初めて聞くスキルの持ち主が目の前に現れた。

 

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