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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第五十九話 最後のレバー

 エイマーズ領に向かう前に祖父にスキルを見て貰うことになったので、そこで今まで一度も上げなかった最後のレバーを上げようと思う。

 どのぐらい苦痛が溜まっているのか分からないが、少しの間なら使用できるのではないかと思っている。


「アルよ、折角だからコルタカ砂丘に行こうではないか、あそこにワームが生まれたらしいからな、きっと楽しいぞ」


「巨大なワームが楽しいとは思いませんが、あそこに行くには急いでも四,五日掛かってしまうではないですか、私にはその時間はないですよ」


 祖父は薄笑いを浮かべながら俺の手を取り納屋へ連れて行くと、そこには鳥と獣が合わさったグリフォンが繋がれていた。


「どうじゃ驚いただろ、国王達が余りにもしつこく言うから国を飛び出してやろうとしてな、その時に偶然こいつを捕まえる事が出来たんだよ、ただ手なずけるにはクレイグに手伝ってもらわんといかんから戻って来たんだ」


「グリフォンってなつくものなのですか」


「儂に命乞いの仕草を見せたぐらいだから知恵はちゃんとあるぞ、まぁ思い通りに動かせるには時間が掛かってしまったがの」


 飛竜が移動手段としてある位だからグリフォンでもおかしく無いのかも知れないが、祖父が国を出ようとしたことがクレイグが降格になってしまった原因なのではないかと思う。


「さぁ乗るんだ、早速行こうではないか」


「仕事はしなくてもいいのですか」


「儂がいないとなったら、秘書か内政官が何とかやるだろう。そんな些細な事は心配せんでもよろしい」


 祖父の腰に手を回すと、グリフォンはいきなり走り出し助走をつけて大空へと登って行ったが、やはりグリフォンは乗り物には向かないと思う。


 飛竜と違い快適さは無く、風の影響をもろにうけてしまうので、前に吊るされて飛ばされた状況とあまり大差はない。


 しかし祖父は全く風の影響を気にしていない所を見ると俺のスキルの力より遥かに耐久力が上なのだろう。

 そんな祖父を見ていると全盛期を過ぎたのに全く勝てる自信がなくなって来た。


 一度だけ野営をした翌日には早くも眼下にはコルカタ砂丘が見えてくる。

 砂丘にはうねりのような跡が上からでも確認出来るのでかなり大きなワームが生息しているのが分かるので、早めに対処しなければ此処には誰も寄り付かなくなってしまうだろう。


「兵士は退治しに来ないのでしょうか」


「ここは元から人の出入りが少ないからな、後回しになっているんだろう。まぁそのおかげで良い訓練になるぞ」


 グリフォンは上空を旋回しながら先程捕まえた二匹のゴブリンを砂丘の上に落とす。

 ゴブリンはよろよろと立ち上がり砂丘から抜け出そうとするが、その時に地面が競り上がってきて巨大なワームがゴブリンを飲み込んだ。


「中々の大物ですね、作戦は如何しましょうか」


「スキルを解放して斬り殺せばいいだけだろ、ほらっ行ってきなさい」


 腰に回していた俺の手を掴みそのまま砂丘に突き落とされる。

 さっきゴブリンを落とした時より高度を上げて待機していたのにこの仕打ちは余りにも酷すぎる。

 

 俺は真っすぐ砂丘に激突して、砂煙を上げながらそこそこの穴を開けてしまった。

 急いで穴から這い上がろうとすると、早くも目の前にワームの口が見えたので慌てて部屋の中に入って行き、一つずつレバーを上げるのだが、四つ目を上げる時には少しだけ緊張してきた。


 しかし、目的はあくまでも五つ目のレバーなので、最後のレバーに手を掛ける。


「ねぇ、たかがあれを倒す為に本当にそれを上げるの」


「どんな効果があるのか教えてくれたら止めてもいいけどな」


「………………」


 今回は黒い人影になっている俺のスキルはやはり答えてくれないので仕方なく最後のレバーを上に持ち上げた。


「馬鹿だね、早く下げないと失うよ」


 すると視界が元に戻り身体全体に力が溢れ出て来るが、数字は浮かんでこないし、何故だかとてつもなく危険を感じたので急いで部屋に戻り、全てのレバーを下ろした。


「やはりまだ無理だね、まぁあれを上げるには君には何もかもが足らないよ、触らない方が無難だね」


 俺の目の前にはワームの口が迫って来るのが良くみえるので、このままだとあのゴブリンと同様に飲み込まれてしまうだけなので、レバーを一つだけ上げようとしたが固まってしまっているようでびくともしない。


「ほらっ余計な事をするからだよ」


「何でだよ、俺は外で何もしていないぞ」


 俺の叫びは届かず現実の世界に戻され、ワームの口の中に飲み込まれようとしたとき、祖父の火球がワームを襲って、その身体は半分を失ってしまった。


「どうしたんだ、何故動かんのだ」


 祖父の言葉に反応する事は出来ず、俺は意識を手放してしまった。


 目を開けると俺は空を飛んでいた。

 と言うより、ただグリフォンに身体を掴まれている。


「おじい様聞こえますか、もう目が覚めましたので普通の状態にして欲しいのですが」


 丘の上におろされるとあの時何故俺が動けなかったのか説明をしたが、やはり明確な答えは出て来ない。


 ただ俺に対して凄まじい程の力をほんお一瞬だけ感じ、直ぐに消え去ってしまったそうだ。


 異変を感じた祖父は直ぐにワームを仕留めてくれたが、もし動いてくれなかったら今頃はあのゴブリンと同様になってしまっただろう。


 最後のレバーは強力なのは分かったが、暫くは触らない方が良さそうだ。

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