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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第五十六話 戦いの後で

 俺は闘技場の中にある浴場で身体を洗っている。

 身体にこびり付いてしまった血はどちらの物かなのか分からないが、完全に落とすまでかなりの時間が掛かってしまったが、汚れを流し終わると、火傷の跡も綺麗になっていた。


「早くしろ、レオニダス様が待っているぞ」


 浴室の中に少尉が入ってきて、せかされるように着替えを澄ますと直ぐ近くの部屋に連れていかれた。

 中にはレオニダスが座っていてその顔は真顔の俺を見つめている。


「君はあの時何を考えていたのかね」


 レオニダスの静かな声が俺の身体を包み込んでいるように聞こえてくる。


「正直にいうとよく分かりませんが、高揚感はかなりあったと思います」


「傷は無くなっているようだが、自分で治したのか」


 余り感覚は覚えてはいないが、意識しなくても傷が塞がって行くのを感じていたので、加速と思って上げた三つ目のレバーは治癒の力だと思う。


「三つ目の力のおかげです」


「となると君の言う四つ目までは判明したことになるな、まぁそれはいいとしてあの振る舞いは何なのだ、それもスキルのせいなのか」


 かなり地竜を切り刻んで行くのが楽しく思えたのだが、あれがスキルのせいだとはどうも思えない。

 そうとは言っても確証がある訳ではないので言葉では説明のしようがない。


「そうかもしれませんし、違うかも知れません」


「レオニダス様、あそこまで人格に影響するスキル何て聞いた事が無いのですが」


 暫く目を瞑って考え込んでいたレオニダスは、不意に目を開いた。


「君のハルバートを持ってきなさい」


 ハルバートはまだ手入れをしていないので、この場で見せるにはあまりふさわしく無いと思ったが、浴室の中にあるハルバートはいつの間にか銀色に輝いている。

 誰かが手入れをしてくれたのか分からないが、それをレオニダスの元に持っていくと、ハルバートを手にしたレオニダスは脂汗を流し始めた。


「これは、まさかな……」


 レオニダスは何やら独り言を呟きながら、いろんな角度からハルバートを眺めている。


「一見、普通のハルバートに見えるが、これはまるで魔剣そのものじゃないか、こんなもので魔獣を攻撃したら精神を乗っ取られてしまうぞ、何でこんな物を持っているんだ」


 レオニダスが余りにも驚きを隠さないので、俺は正直に話すしかない。

 勿論、父の聖剣を溶かして材料の一部にしてしまった事も。


「あのなぁ、ベンノ君の剣は聖剣と言われているが、本来は魔剣だよ。あの剣は魔物の血を求めて使用者の心を蝕むんだ。勇者のスキルを持つ者しか制御できる訳無いだろう」


 そんな事は祖父からは一切聞いたことが無いのでどう答えたらいいのか分からない。


「レオニダス様、ランベルト様はその事を知らなかったのでしょうか」


「忘れているか、魔剣なんて信じていないんじゃ無いか、ランベルト様の持っている剣も魔剣だし、当の本人は切れ味のいい剣ぐらいにしか思っていないのだろうな。勇者のスキルは聖なるものだから魔剣の闇程度では干渉できないんだよ。ベンノ君なら絶対に魔剣は君に渡さないと思うが、ランベルト様だからな」


 初めてハルバートを目にしたとき、何だかしっくりきたのは父の聖剣だからだと思っていたが、もしかしたら俺の心の闇に呼応したのかも知れない。


「悪いが、このハルバートを君に使わせる訳にはいかない。私が預かってランベルト様の元に届けるよ、それにしても国王様から譲り受けた剣を勝手に溶かしてしまうなんて信じられないな」


 レオニダスは直ぐに立ち上がりこの部屋から出て行ってしまった。

 俺はハルバートのせいで常軌を逸した行動をしてしまった事より、たかが魔剣すら制御出来ない事の方が悔しくてたまらない。


 俺のスキルは、悪いどころか有能なスキルだと思い始めていたが、やはり勇者と比べてしまうと遥かにその違いが出て来てしまう。

 こんな時こそスキルの力で心の痛みを無くしてしまって欲しいのだが、俺の心は苦しさで溢れかえっている。


「アル、そんな顔をするな、俺はお前のあの行動が魔剣のせいだと分かって安心したぞ」


「それはそんなんですが、なんて言ったらいいにか分かりません」


 俺は目から涙が出て来そうなのを必死に堪えるので精一杯だ。


「気にするな、考えても仕方の無い事なんだよ」


 落ち込んでいる俺を少尉は宿舎まで送ってくれたのだが、俺達二人の姿を見ると先程まで談笑していた声が消え去り。俺の事を注目しているのが肌で感じる。


「俺が怖いのですかね」


「それもあるかもな、ただほぼ一人で地竜を倒したわけだから尊敬や憧れの方が多いと思うぞ」


 少尉はそう判断したが、実際は恐怖を持った者が大部分だったと思う。

 何せこの事がきっかけで「血みどろの死神」や「笑う死神」と陰で言われるようになってしまったからだ。


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