第五十五話 戦いの終わり
俺は地竜の脚にハルバートを振り下ろすが、薄皮一枚を斬るのがやっとでそれ以上のダメージを負わす事が出来ずにいる。
俺に対しても鉤爪で俺を弾き飛ばすが、思った以上の強さは無いのか痛みは全く感じない。
違和感を感じ、地竜の懐深く入りながら攻撃を繰り返していると、ようやく俺が感じた違和感の正体が判明した。
地竜の胸の辺りには傷がつけられた後があり、多分そのせいでブレスによる攻撃をして来ないのだと思う。
ブレスが撃てないなら、そこまで地竜に恐れる事は無い。
「メノン、いい加減に目を覚ませよ、こいつはどうやらブレスを放てないぞ、しっかりと攻撃を避ければ二人でも倒せるはずだ」
起き上がって来たメノンと供に攻撃を繰り返すが、俺は鉤爪による攻撃を何度も食らってしまい、身体にその跡を刻みつけながら弾き飛ばされてしまう。
十回以上飛ばされて徐々に体が傷だらけになって行くが、メノンは全ての鉤爪の攻撃を避けている。
次第に地竜にも傷を与える事が出来始めて、勝機が見えたと思ったのだが、地竜の尾による攻撃でメノンはあっさりと戦線を離脱してしまった。
「悪い、俺は諦めるよ、後はお前に任せた」
「ふざけろよ、もっと弱らせればお前のスキルが効くかも知れないだろ」
俺の叫は届かずに気絶してしまったメノンは、待機している兵士によって運ばれて行ってしまう。
「アルどうするんだ、お前も棄権するか」
「しませんよ、どうせこいつの攻撃は大して効かないんです。一人でも倒して見せますよ」
俺が少尉と話していると、この戦いで初めて全身に震えが襲ってくる。
「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉ」
地竜の咆哮と共に地竜のブレスが俺の身体に向かって放たれた。
どうやらブレスは撃てないのではなくて、ただ撃たなかったらしい。
「いやぁぁぁぁぁ」
子供達の悲鳴に交じって、ディアナの叫びが俺の耳に届くが、その時には既に部屋の中に逃げ込んでいる。
部屋の中に居るからと言って、時間が止まる訳ではなく、ただ俺の思考回路が早くなっているか、それとも時間が遅くなっているかだと思う。
その証拠として部屋の外にはブレスの壁が徐々に迫って来ているのが見えている。
「なぁ一つ上げるだけで平気かな」
「早くしないと死ぬよ」
俺のスキルは緑色の人型のようになっている。
何処から声を出しているのか分からないが、初めて会話が成立したようなのでほんの少しだけ嬉しくなった。
しかし、もう眼前にまでブレスが迫っているので急いでレバーを三つ上げて現実の世界に戻って行く。
戻った途端に顔が焼けるような痛みが走ったが、両手を顔の前で交差すると痛みも熱さも消えて行った。
ただ、ブレスが収まる気配はなく、頭の中に浮かんでくる数字がどんどんと減っていく。
百二十六
四百近くあった数字がブレスが終わった頃には半分以上、減ってしまっている。
(アル、大丈夫、生きているの)
グレタの声が頭に響き、俺はハルバートを持った手を頭上高く上げると、その動きに呼応したように観客席から興奮した歓声が起こっている。
完全に調子に乗った俺は更にポーズを変えると、地竜の鉤爪によって闘技場の端迄吹き飛ばされてしまうが、何のダメージも負っていない俺はハルバートを握り絞めながら走り出す。
スキルの力で身体の大きな傷は癒してあるが、火傷などの大したことの無い傷はそのままにしてある。
痛みの無い俺にはそんな傷など全く影響しない。
地竜はもう一度ブレスを吐くために身体を反らせるが、俺はその無防備な胴体にハルバートを渾身の力で振り下ろす。
スキルのおかげでしかないが、地竜の身体は全く抵抗もなく切り裂く事が出来、今までの苦労を思い出すと思わず笑いが込み上げてくる。
地竜がブレスを吐く事に失敗し口から黒煙が立ち上がっているのを見ると、俺は益々可笑しくなってしまい、にやけながらハルバートを振り回している。
何度も何度も斬りつけ、数字が百を切った頃にようやく地竜の首を落とす事が出来、まだ数字が減り続けているので部屋の戻ってレバーを下ろす。
「うっしゃーーーー」
両手で地竜の首を持ち上げ勝利の雄叫びを上げるが、何故か歓声は俺の耳に届いてこないのだが、もしかしたら余りの見事な戦いで言葉が出ないのだろう。
俺は地竜の身体から出ている物を避けながらその背中に乗って、再び首を高く持ち上げて叫んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」
その時に少尉だけが俺の側にやって来る。
「興奮しているのはよく分かるがな、お前は周りの様子と自分の姿をよく見て見ろよ」
俺の目に映ったのは、低学年は恐怖のせいなのか泣いている子供もいて、兵士や学友達は複雑な表情をしている。
レオニダスに至ってはどうやら怒っているようで、俺を睨みつけている。
俺の姿は服は全て燃え尽きてしまっているようだが、自分の血や、地竜から流れ出た血を全身に浴びてしまっているので赤黒く染まっている。
何と言っても折角生えそろった毛が全て燃えてしまっていた。
「俺の髪がなくなっているじゃ無いですか」
「そこじゃねーよ」
他の兵士がマントを持ってきてくれ、俺は包まれながら地竜から降ろされた。
「お前は何で笑いながら切り刻んだんだ。それに俺はお前がわざと血を被っているように見えたぞ」
少尉は何を言っているのか知らないが、俺は地竜を倒した、それだけだ。