第五十四話 VS地竜
モルテン先生による勝者の発表を聞きながら、テオは何故かすがすがしい表情を浮かべながら戻って来た。
「お疲れ、自分で歩いて大丈夫なのか」
「あぁ治してもらったしな、それまでは全身の骨が砕けてしまったようでかなり痛かったがな、お前の戦いを見届けたらもう一度ちゃんと見て貰うよ」
「イーゴリってあんなに強かったっけ」
「強くなったんだろ」
テオは素直にイーゴリの力を認め俺の隣に座った。
直ぐに対魔獣の試合が始まるのかと思ったら、兵士達が闘技場に降りてきて観客席に向かって物理障壁を唱え始めた。
生徒たちに被害を出さない為の処置だが、一体どんな魔獣を連れてくるのかと周囲を見渡すと、偶然にレオニダスと目が合い、その顔は笑っていた。
「選手以外は全員観客席に移るんだ。巻き添えをくうぞ」
モルテン先生は救護班すら闘技場から締め出しにかかっている。
「アル、端の方で戦えば直ぐに治してあげるからね、ねぇ勝ったらご褒美あげようか」
いきなり現れたディアナを見ると、なんだか照れ臭くなってしまう。
ご褒美とは一体何をくれるのだろうか。
「お前らさ、俺の前で止めてくれないか」
テオが不貞腐れながらも俺達に文句を言っていると、そのテオの後頭部にモルテン先生の拳が落ちてきた。
「話を聞いていないのか、早く移動しろ」
ディアナはその瞬間に逃げてしまい、テオは恨めしそうに俺を見るが俺は如何しようもできない。
すると生徒達が何やら興奮しながら空を指さしている。
見上げると四体の飛竜が光の箱のような物を吊るしながら飛んでいた。
闘技場の中央にルーサーが舞い降りてきて、その背に乗ったヴィーランド少尉が声を張り上げた。
「今から対魔獣戦を行う。今回は各課の代表が協力して地竜と戦うことになる。残念ながら内政課は辞退してしまったので、三人で戦って貰おう。いいか、まず特色課アル、スキルは苦痛変換。戦術家メノン、スキルは獣を操る者。魔法課ヤーヒム、スキルは風を生み出すものだ。さぁ遠慮なく戦ってくれ」
観客席からは歓声と、それと同様に悲鳴の声も聞こえてくる。
一体で小さな村なら簡単に滅ぼしてしまう地竜がもうすぐ光の中から現れるのだからその反応は間違っていないだろう。
これから一緒に戦うはずのヤーヒムですら顔色が真っ青になって光の箱を凝視している。
「ふざけろよ、地竜何て三人で戦っていい相手じゃないだろう。騎士が十人位でやっとじゃ無いか、こんな連携もとれるか分からない俺達には無理だって」
「心配するなよ、俺が地竜の脳を支配してしまえばそれで終わりだ。いきなり使いたくは無かったが出し惜しみしている場合じゃないからな、お前らの出番は奪ってしまうが怪我をするよりましだろ」
自信ありげにメノンは言ってきたが、本当にそれで終わるのだろうか、わざわざ俺のスキルを破る魔獣を用意したくらいだ。
メノンのスキル対策などしているに違いないし、そうなるとレオニダス達は一体何を考えているのか。
子供の地竜かと思ったが、闘技場の端には先程の兵士が真剣な表情をしているし、少尉も未だ中央に立っている。
そうなるとやはり大人の地竜なのかも知れない。
「さぁもう到着するぞ、ちゃんと倒すんだぞ」
少尉が叫びながら移動を開始すると、地竜が閉じ込められている光の箱が空から降って来た。
その衝撃で多少でも地竜にダメージはあるのではと、少しだけ期待してしまうが光の箱は全く壊れてはいなかった。
段々と光は薄くなってきて地竜の姿が見えてくる。
地竜はルーサーより一回り大きくて全体的に太くて背中には飛ぶことが出来ないのに翼がちゃんと生ている。
「お前らは後ろに下がってていいぞ」
メノンは前に躍り出て両手を地竜の方に向けると、地竜は動き出さないのだが、メノンの指示を完全に従う様子もない。
徐々にメノンの顔が赤みを差してきて、そのうちに鼻血を出して倒れてしまった。
そんなメノンに向けて地竜は尻を高く上げてメノンを潰そうとする。
俺は急いで飛び出してメノンを何とか突き飛ばすが、地竜の尻尾はそのまま俺に振り落とされ俺は潰されてしまっている。
尻尾の攻撃によるダメージはほぼ無いが、それでもなんども地竜の攻撃を受けているので煩わしくなってくる。
俺が攻撃を受けている間にヤーヒムが風刃を飛ばしているが、地竜には全く効いていない様だ。
俺は隙を見つけハルバートを抱えながら地竜に攻撃を仕掛けようとするが、その前に煩わしくなった地竜が鉤爪でヤーヒムは弾き飛ばし、ヤーヒムはその攻撃で戦線を離脱する事になった。
俺が強く弾き飛ばしてしまったせいか、未だ意識の戻らないメノンと二人だけになってしまう。