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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第五十二話 対人戦開始

 歓迎会などという呼び名にはなっているが、パーティのような物がある訳ではなく、三年生の低学年までが集められてこの学校の特色を分かりやすく教えて行く。


 現在は最上級生によるスキルのお披露目がなされていて、魔法課の一人が火炎で作った鳥や牛が闘技場を走り回っている。


「魔法のスキルは派手でいいよな、ああいうのを見せられると最初は魔法課に憧れを持つようになるんだよな」


 テオは昔の自分を思い出したか、懐かしむ目を浮かべながら火炎の鳥を目で追っているが、隣にいるユナは冷静に言ってくる。


「あれが何回も出す事が出来れば騎士は魔法使いだらけになるんだけどね、結局は後方支援に回されるじゃない」


 攻撃魔法を放てる者が第一線で活躍できるのはこの国ではほんの一握りしかいない。

 殆どの者が後方支援か魔道具制作の為に研究室へ行くことになる。


「ほらっ二人ともそろそろ行った方がいいんじゃないの、私達はここで応援しているから」


 グレタにせかされるようにして俺達は席を立つが、テオは急に真剣な表情になってユナの前に立った。


「あのさ、俺が最後まで勝ち残ったらもう一度考えてくれないか」


「そんな事気にしている場合じゃ無いでしょ、いいから死なない程度に頑張るんだよ、ここで見ているから」


 ユナに背中を押されたテオは走り出して先に行ってしまった。

 ユナもグレタも呆れたようにテオの背中を見ている。


「どうした、あいつらしくていいじゃないか、ユナももう一度考えたらどうだ」


「あのねぇ、この学校を卒業したら直ぐに結婚なんてする訳ないでしょ、私は貴族じゃないんだから家にお金を入れなくてはいけないの。例え直ぐに結婚しないとしてもこの国の何処に行かされるか分からないんだよ、簡単に会える訳ないでしょ」


 俺もテオも現実が余り分かっていなかったようだ。

 ここは単なる学校では無く、幹部騎士を目指している者が集まる学校だという事を思い出した。


 そうなってしまうとディアナは何でこの学校に入ったのだろうか、家は婚姻を進めていたし、ディアナ自体も騎士に拘っていないように思える。


 考え込んでいると、何故か俺の身体は集合場所にいた。


(いいから試合に集中しなよ、ユナの考えが全てでは無いんだから深く考えないの)


 頭の中にグレタの声が届いてきたので、この場所まで俺の身体を移動させたのはグレタの仕業に違いないが、スキルを切ってしまったようで返事は返ってこなかった。


「お前ら今から中に入るから付いて来るんだ」


 モルテン先生が先頭になって歩き出すと、緊張感が高まってきて誰もが顔が強張ってしまっている。


「テオ、大丈夫か、たかが二回だけ戦うだけじゃないか」


「お前な、この状況で緊張しない奴なんてお前だけだよ」


 あのイーゴリですら緊張しているようで、俺の事などまるで見えていない様だ。

 暗い通路を潜り抜けると眩いばかりの光と共に闘技場の中に入って行き、興奮した低学年の声援が飛び交っている。


 この広い会場の中での僅かな人数でしかないのだが、それでも俺達には割れんばかりの声援に聞こえてしまうから不思議だ。

 観客席の中央にはレオニダスが立っていて、俺達の姿を見ると大声を張り上げた。


「今からこの者達による対人、対魔獣の戦いが行われる。スキルを身に付けるとどのような戦いになるのかよく見て置くように、憧れを抱くのならばいいが、恐怖を感じるのであれば学校から去りなさい」


 低学年に言うセリフでは無いような気がするが、毎年必ず卒業生が一ヶ月持たないで一人は死んでしまうそうなので、どうしても厳しく言いたくなるのだろう。


 俺達は闘技場の端に座らされ試合をここで見物することになる。

 試合会場はこの広い闘技場の中ならどこで戦ってもいいそうだ。


 そうなってしまうと遠距離も可能なので魔法課が有利のように思える。


 モルテン先生が中央に立ってテオとアーダルを呼び寄せた。


「今から一回戦を始める。特色課テオ、スキルは隠密行動。魔法課アーダル、スキルは雷属性魔法。では始め」


 テオもアーダルも距離をとる為にお互い後ろ向きに走っている。

 アーダルは走りながらその手に光を集め、光の玉が完成するとその玉をテオに向かって投げつけた。


 光の玉は徐々に線のように細くなっていき、いまや動きを止めてしまっているテオの身体を貫いた。

 低学年の悲鳴が巻き起こるが、テオは一切動かない。

 

 光の線が今度は鞭のように変化して何度もテオの身体を打ち付けるが、それでもテオは動かないどころかその鞭はテオの身体をすり抜けてしまっていた。

 その異様な光景に誰もが固唾を飲んで見守っている。

 そこにテオがいるのだが、テオには一切のダメージがあるように思えない。


「何だよ、もうどうなっても知らないぞ」


 アーダルは両手を上にしながら詠唱を始め、腕を振り下ろすと同時にテオに向かって光の束が落ちて来た。

 地面には大きな穴が開いて、焼き焦げた匂いが漂ってくる。


「勝者、テオ、治療班は早くアーダルを見てやってくれ」


 誰もがアーダルの魔法の行く末を見ていたのだが、アーダルはいきなり現れたテオによって木剣を後頭部に貰ってしまい意識を失っていた。

 涼しい顔をしたテオが俺に近寄って来る。


「何をしたんだ」


「あれは幻影だよ、先輩方はあれを動かす事も出来るんだぜ」


 テオにとってはいい実習先だったようだ。 

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