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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第三章 マテウス王立上級学校最終学年
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第五十話 屋上にて

 他の学年は既に新学期が始まっているが、最終学年に上がった俺達は実習のおかげで少し遅れて始まることになる。

 

 まだ俺の授業が始まるまでには日数があるが、余裕をもって学校の宿舎に入る事にした。


 エントランスを潜り抜けると、俺に何故か視線が注がれているような気がするが、式典の時と視線と種類が違っているようで意味が分からない。

 腑に落ちない物を抱えながら自室に入って行くとテオが既に戻っていたようだ。


「よう、久し振りだな、近衛兵の実習はどうだった」


 俺の姿を見たテオはベッドから降りて駆け寄って来る。

 そんなに俺と再会した事が嬉しかったのだろうか。


「どうでもいいよそんな事、それよりお前はディアナと宿に泊まったらしいじゃ無いか、もうお前らの事は学校中の噂になっているぞ。あまりいい関係とは言えない家同士なのに凄いってな」


 俺とディアナが揃って宿から出て行くところを、かなりの人数に見られていたらしい。

 まさかあの街に実習を終えた奴らが大勢いたなんて俺達には知る由が無い。


「それなんだけど、実は問題があってな」


「まてまて、ここで話すな、あいつらも気になっているんだよ」


 屋上に連れていかれ、その場で待たされているとテオはやはり、ユナとグレタを連れて来た。

 ジョンソはいつの間にかに学校を辞めてしまったらしいのでこれで特色課が全員揃った事になる。


 俺は本当の実習の内容を聞きたかったのだが、そんな俺の気持ちとは裏腹に俺がディアナとの間に起こった事をすべて白状させられた。


「あんたは一体何を考えているの、魔王の事はこの際置いておくけど、余りにもディアナが可哀そうじゃない。もう学校中に知れ渡っているんだよ、いい加減にしなよ」


 魔王が死んでいない事よりも、ユナとグレタにとってはディアナの事の方が大事らしかった。

 その考えはある意味恐ろしが、そんな事を口走ってしまったら俺はどんな目に合うのか想像が出来るので黙っておく。


「あのね、アルはちゃんと考えないで話すからこうなるんだよ、結婚なんて軽々しく口にするからいけないんだよ、いい、ちゃんとしないようなら私達はアルはもう居ないと思うからね、テオも簡単に許すなら同罪だから」


 グレタは何故かテオを睨みつけ。テオは俺に対して目で謝ってきので俺の味方にはなってくれないようだ。

 その時、ユナが突然走り出し柵に身を預けながら下を見ている。


「やはり変な感じがしたと思ったらディアナだよ、ほらアルも見てごらん、今は変な目でディアナを見ていないけど、この中途半端な状態が知れ渡ったらディアナは可哀そうな目で見られるんだからね」


「俺もちゃんと話たいんだが、会ってもくれないんだ」


「だったら私に任せてよ」


 グレタがディアナの姿を目で捉えると、急に走り出したので、どうやらスキルの力で操っている様だ。

 全く免疫の無いディアナを操る事など、今のグレタにとっては簡単な事なのだろう。


「俺達は隠れて見ているからな」


 テオは二人の手を掴むとこの場から姿を消してしまった。

 何処に隠れたのか分からないが、心臓の鼓動が高まる中でディアナが勢いよく扉を開けて姿を現し、そこでようやく自分の身体を取り戻したようだ。


「あんた、何かした」


「悪い、俺がグレタにお願いをして此処に来てもらったんだ」


 ディアナが俺を見る目はかなり剣呑なものになっている。


「随分と嫌なやり方をするね、あのね、私はあんたなんかに話は無いの、勝手に復讐に行けば良いでしょ」

 

 ディアナは踵を返し下に降りようとするが、俺は回り込んで扉の前に立ちはだかる。


「本当に悪かった。あの時は復讐する事を思い出してそれが正しいと思ったけど、それが間違った考えだった事に気が付いたんだ。だから許して欲しい」


「ベンノ様の敵を討ちたい気持ちは分かるけどさ、あんたは生きているんだよ、理解出来てるかな」


「あぁ、復讐だけを考えても父は喜ばない事を理解したんだ」


 この気持ちは俺の本心で、母が言うには父は俺に「勇者」のスキルなんて望んでいなくて、ただ平和な世界で生きて行って欲しかったそうだ。

 俺が無謀な真似をして死んでしまったら、あの世で父に合わせる顔はないし、例え魔王を倒したとしても父は決して俺を誇らしくは思ってくれないだろう。


 もしこの先に魔王と戦う事があるとすれば私欲だけでは駄目なんだ。


「で、どうするの」


「どうするとは」


 何をいきなり言ってくるのか、これでディアナは俺を許してくれればこの話は終わりのはずではないか。

  

 ただ時間が過ぎて行き、額には汗が滲み始めてきたが、俺は何を言えば正解なのかを真剣に考えている。

 その考えを妨害するように、俺の背後からイーゴリが飛び出してきたので俺は弾き飛ばされ、そのままディアナに抱きついてしまった。


「お前、話が違うじゃねーかよ。やはりディアナを狙っていたんじゃないか」


「ちょっと何いきなり出てくんのよ、大事な話をしているんだから邪魔なんだけど」


 ディアナに睨まれたイーゴリは何かを言いたげだったが、黙って下に降りて行こうとするが、降りる前にはしっかりと俺を睨んでいる。


 何を話して良いのか分からないので、このまま強くディアナを抱きしめるとディアナは何も抵抗する事なく俺を受け入れている。

 勢いに身を任せてキスをしようとするが、嫌な事が脳裏によぎった。


 この屋上の何処かでテオ達が見ている事を思い出したからだ。


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