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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十九話 大失態

 ディアナは自分の身体より遥かに長い槍で俺の後頭部を叩いて来た。


「ちょっと何で帰るのよ、あんたいい加減にしなさいよ」


「悪かった。俺は結婚なんて出来る人間じゃ無かったって事を思い出したんだ。俺は父の代わりに魔王を倒す為に生きて来たんだから」


 ディアナは槍を俺の肩に振り下ろしてくる。

 どんどん俺の中のディアナが変化していくようだが、涙を流しながら槍を振り下ろしているディアナを見ていると何も言えなくなってしまう。


「ベンノ様もレオニダス様が倒せなかった魔王を倒す為に頑張ったのだと思うけど、ベンノ様だって幸せになりたくて結婚したんでしょ、だからあんたが生まれたんじゃない」


「そのせいで母は若くして不幸になったんじゃないか」


「勝手に決めつけないでくれる」


 その声が聞こえたので振り返ると、初めて見る怒りに満ちた表情の母が立っていた。

 その隣にいる祖父も本気で怒っているようで、今までに感じたことがない程に俺の背中が騒めいている。


「この馬鹿もんが」


 最後に俺が見た光景は祖父の拳が右頬に当たる瞬間で、そこからの記憶は一切ない。

 俺が目を覚ますと、治療を全くしてくれなかったせいで顔の半分が大きく腫れあがっていて、叫びたくなってしまう程の痛みを感じる。


 暫く深呼吸を続けると、徐々に痛みが引いて行くが、治った訳では無くて、ただスキルが作用しているだけだろう。


 俺はどうやら実家の自室に運ばれたようで、懐かし気もあったが、それより俺のせいで泣かせてしまったディアナの事を思い出すと胸が苦しい。

 これに関しては何故かスキルが働いてくれないが、この苦しみは我慢しようと思う。


「目を覚ましたみたいだね、あんた一体何をしたのよ、ラン爺ちゃんの機嫌が悪すぎて内の旦那が八つ当たりをされているんだけど」


 部屋の扉の前には、ソヒョン姉とまだ不機嫌な顔をしている母が立っている。

 俺は領主館を飛び出してからの事を話したが、それだけでは理解されず、結局、バジヤマレ山での訓練の時からの事を長い時間をかけて話した。


「凄いじゃない。気になる事はあるけど、結婚を申し込む何て上出来だよ。けど最後が全てを台無しにするほど最悪だけどね」


「どうしてだ、俺は父の代わりに魔王を倒したいんだ」


「馬鹿じゃ無いの、ベンノ君はそんな事を頼んでもいないし、私はベンノ君が早く死んでしまったからと言っても不幸じゃないから」


 そこから母は再び怒りが戻ってきたようで俺を怒鳴り散らし、それに呼応したソヒョン姉からも散々怒られるという散々な日を迎えてしまう。


 その説教の中で少し理解した事は、決して父は死ぬつもりで魔王と戦った訳では無いという事だ。


 ラウレンス侯爵はただ父が祖父を越えたいがために魔王に執着し命を犠牲にして、魔王を封印したと言ってきたが、事実は少し違う。


 母によると、身体の限界は知っていたが母の回復魔法で症状は押さえられていたし、魔王を倒すにはどうしても先延ばしする訳にはいかなかったそうだ。


 ただ結果として魔王が想像を超えた強さであった為に封印する事しか出来なかったし、母も父が死んだからと言って不幸を背負って生きている訳では無かった。


 母も侯爵も現場にいた訳ではないのでどちらが事実なのか本当の事は分からないが、視点が違うと大分話が違って聞こえる。


「おいっこの馬鹿の説教は終わったのか」


 またしても不機嫌な顔をした祖父が部屋の中に入って来る。

 

「お前が魔王に恨みを抱くのは強くなるためには良いと思っていたが、どうやら私は間違えてしまったようだ。お前のその力は魔王を倒す為だけにあるんじゃないというのが分からんのか」


 俺は無理やり裏山へ連れていかれて祖父と立ち合う事になってしまった。

 訓練で俺は更なる強さを得たと思っていたが、祖父にはまるで歯が立たなかった。


 俺はレバーを上げていないが、祖父も勇者特有のスキルの効果を一切使用していない。

 殴られながら父は決して祖父を越えたいがために魔王を倒したかったのではなく、魔王の侵攻によって国が滅んでしまうのを防ぐ為に戦ったのだと説教を受けた。


「すみませんでした」


「ちゃんと分かったのだろうな、もう二度とあんなことを口にするなよ」


「はい。ところでなんであの時あそこにいたのですか」


「ある奴から連絡が来たんだよ、お前がラウレンス侯爵の家に向かっているから面倒な事になるかもってな、本当は一人で行こうと思ったがクリスタも買い物があったらしくて二人で行ったんだ」


「あの、ディアナは何と言っていましたか」


「私達に挨拶をした後で直ぐに戻って言ったぞ、お前な、よりによってエイマーズ家はないだろう。それにバーリ家との婚姻に割り込むなんてな、何でそんな真似が出来るのに魔王が絡むとそれだけになってしまうかな」


「すみませんでした。いきなり全てを直す事は出来ませんが、復讐に拘るのは止めようと思います」


 何も言わず祖父は俺の肩を叩いて来た。

 俺は言葉に出したように頭では理解する事が出来たが、本当の心の中はまでそう思い直したのかはまだ分からない。


 仮に目の前に魔王がいたとしたら俺は自制出来るのだろうか。


 翌日から何度もエイマーズ領に入り、ディアナに会うために訪れたのだが玄関に近づく事すら許されず、休みの間は一度もディアナに会う事は無かった。


 そして、いよいよ最終学年が始まってしまう。

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