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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十八話 秘密

案の定、俺の顔目掛けて花瓶が夫人の手から飛んできたので、俺は躱す事はなく、甘んじて食らっている。


「結婚前の娘に何て事をしてくれたの」


「止めないか、ディアナは訓練で山に籠っていたんだ、そこは仕方がないだろう。ディアナが紛らわしい事を言うからいけないんだ」


 ラウレンス侯爵の情報網は流石で、ちゃんとした情報を掴んでいるようだが、どうやら昨日の宿の事はまだ伝わっていないらしい。

 それが分かってしまったら、今以上に面倒な事になってしまうだろう。


「そんな事より、トシュテン様との婚約の申し込みはお断りをしたはずなのですが」


 そのディアナの発言に、またしてもパトリスが怒鳴り声をあげる。


「お前にそんな権利があると思うのか、素直に嫁げばいいんだよ」


「静かにしないか、お前のせいで話が進まないのだが」


 ラウレンス侯爵は怒鳴る事は無く、淡々とパトリスを咎める。

 俺は怒鳴り声には慣れているが、この状況で冷静を装うラウレンス侯爵が何を考えているのか分からず苦手意識が芽生えてくる。


「ディアナは本当にそれでいいと思っているのか、彼と結婚しても幸せな未来など見える訳は無いだろう」


「そんな事は分からないじゃ無いですか、トシュテン様なんて、ただ出世に憑りつかれた男ではないですか」


「出世目当てだろうが、復讐に憑りつかれている奴よりましだろ」


 ラウレンス侯爵は目の前の机を叩き、とうとう声を荒げ俺を睨みつけている。


「復讐って何なの、アルは誰に復讐をするつもりなの」


「ディアナは彼の事を知らないじゃ無いか、それなのによく結婚などと口にしたものだな」


「ディアナは何も悪くありません。私が調子に乗ってしまっただけです」


 何処まで侯爵が知っているのか分からないが、そんな事よりも俺は自分がやらなくてはいけない事を思い出してしまった。

 俺は項垂れるようにラウンジから出て行くと、その手をディアナは掴んでくるが俺には謝る事しか出来なかった。


「待ちたまえ、本当だったら君の事などどうでもいいのだが、昔の親友の子として少しだけ話をしようではないか、ディアナも来なさい」


 俺とディアナは侯爵に連れられて二階にある書斎に入って行く。

 夫人とパトリスも付いて来ようとしたが、侯爵はそれを許さなかった。


 侯爵は奥の椅子に深く腰を掛けゆっくりと長い話を話し始めた。


 侯爵は元親友で、しかも一緒に戦った事もある人なので父上は本当は相打ちなどではなく、魔王を石碑に封印する事が精一杯で、そのまま命の火が消えてしまった事を知っていた。


 祖父が前に話してくれた、本当の事実を知っている数人の中の一人なのだろう。


 俺が知らない事実として、あの頃の父の身体はスキルの影響でまともに戦える状態ではなく、その状態で戦えば死んでしまうと告げていた事だった。


 父は責任感なのか、それとも祖父ですら追い払うのがやっとだった魔王を倒すチャンスだと思ったのかは知らないが、侯爵の意見を無視して戦いに行ってしまったそうだ。


「あいつも憑りつかれていたんだ。勇者のスキルにな。あの時のあいつは私が何を言っても聞き入れてくれなかった」


「その時の父の身体はそんなに酷かったのですか」


 侯爵のスキルは「治療師」でいつも父の身体のケアをしていたのだが、ある日を境にして身体がスキルの強さに耐えられなくなり、一切の回復が出来なくなってしまったそうだ。


 それを治療するには休息をするしかなく、とてもではないが魔王と戦える状態では無かったそうだ。


「力が大きいスキルには代償があるんだ。レオニダス様も何年も前から同じ症状でずっと入院していたというのに、君は覚えていないのか」


「そう言えば、私が小さい頃は祖父と過ごした記憶はありません。祖父との思い出は父の葬儀の時からのような気がします」


 ずっとここまで黙って聞いていたディアナであったが、とうとう耐え切れなくなり話に割り込んでくる。


「ベンノ様と魔王の事は分かりましたが、それがどうだというのですか」


「分からないのか、相打ちなのではなく魔王はただ封印されただけなんだ。そしてその石碑を魔族に持ち去られてしまったんだ。奴らは魔王の封印を解くのに必死なのだろうよ、いいか魔王が復活するという事はベンノが失敗した事がバレてしまうんだ」


「そんな嘘を発表するからいけないんでしょう、それに勇者の封印なんだから簡単には解ける訳無いでしょ」


「いや、祖父が言うには何もしなくても魔王の魔力で二十年後には封印が解けるらしいんだ。だから俺はその時の為に勇者を越える力を身に付けなければいけないんだ」


 俺は子供の頃に立てた目標をしっかりと思い出した。

 ディアナの事は好きだが、それよりもやらなければいけない事がある。


「ディアナ、彼は自分の力だけで勇者のように倒したいと思っているんだよ、いいかい私達はね例え勇者のスキルを持つ者が現れなくても力を合わせて魔王を倒そうとしているのに、彼は違うんだ。幼いころから自分の限界を超えるような訓練をしたのだろうし、魔王に対する思いも相当なものだと思う。だから彼には苦痛を無くしてくれるスキルが与えられたんじゃないかと私は思っているんだ。そんな君が結婚だと、いい加減にしたまえ」


 何もかも言い当てられてしまった。

 まだ侯爵には父の事を聞きたかったが、それよりもほんの少しでもうつつを抜かしていた自分が恥ずかしいし、ディアナにも迷惑を掛けてしまった事が申しわけなくて、思わず領主館を飛び出した。


 外に出て領主館の方を振り返り深々と頭を下げると、後頭部にかなりの衝撃を食らい、そのまま前に倒れ込んでしまう。


 俺が見上げると、ディアナが今迄以上の怒りの顔で立っていた。

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