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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十七話 エイマーズ領へ

 どうやらいつの間にかぐっすりと眠ってしまったようで、朝日が登ると同時に目を覚ましたので朝風呂を浴びることにした。

 

 スキルの事をもっと調べなくてはいけないのだが、ハルバートを扱う訓練に時間をかなり使ってしまい全然成長が出来ていないように思えてしまう。


「ねぇまだ入ってるの、私も入りたいんだけど」


「あぁ直ぐに出るよ」


 何気ない会話なのだが、少しだけ鼓動が早くなってしまう。

 どうやら過剰な意識をしてしまっているようだ。


 ディアナが風呂から出て来た後で、下のレストランで朝食を済ませて馬を一頭だけ借りることにした。


 二頭分を借りる金はまだ残っているのだが、ディアナは一頭で十分だと言って、俺に手綱を任せてディアナは眠ってしまっている。

 昨日はお互い早く眠りについたと思うのだが、既に夢の中とは余程山での生活が辛かったのかも知れない。


 暫く街道を進んで行くと、エイマーズ領の一つの街が見えてきた。

 高台から見下ろしているので街の様子は良く見えるが、この街は農業が盛んな街のようで、広大できちんと整備された風景が広がっている。


 農道まであそこまで整備されているとは、正直に言って驚きだ。

 この街を通過して向かえば早く進めるのだが、余りにも気持ちよさそうに眠っているディアナを見ると起こしたくは無いので迂回して領主館のある街に向かう事にした。


 眠ってしまっているディアナを馬から落とさないようにするためには、どうしてもディアナを抱きしめなくてはいけない。

 別に今迄だったら何とも思わなかったが、何故か今は変に緊張して、薄っすらと掌に汗をかいてしまっている。


 それでもこの穏やかな時間が流れているのは随分と心地よく感じる。

 仮に俺が領主になる為の道を選ぶのであれば、このような穏やかな日々が続いてたまに王都に行くだけで済むのかも知れない。


 ただ、俺がいきなりその道を選ぶ事は決して無いが。


「うーん、良く寝た。ねぇここはどこ」


 馬の上で器用に身体を伸ばしながら辺りを見回している。

 自分の家の領地だけあり、直ぐに何処を馬が走っているのか理解したようだ。


「ねぇ何でこの街道を通っているわけ、街を通過した方が早いのに」


「ディアナが寝たままでは通過できないだろ、たかが検問の度に起こすのは可哀そうだからな」


「ふーん」


 ディアナはもう目が覚めたにも関わらず、俺に体重を預けたまま街道の説明を話し出した。

 この辺りの街道は本道だけではなく、その周りの木も多く切り取られている為、いち早く隠れている盗賊を発見する事が出来るので、この辺りを根城にする盗賊は今はいないそうだ。


 それなりの費用は掛かってしまうが、その費用は国に頼る事は無く、ラウレンス侯爵が全て捻出したらしい。


 のんびりと馬を走らせていくとディアナの実家がある街に到着し、街の入口ではディアナは顔を見せるだけで通過を許可してくれるが俺はそうはいかないどころか、俺にいぶかしんだ視線を無遠慮にぶつけてくる。


「俺は何か悪い事でもしたのかな、色んな奴が睨んでくるんだけど」


「そんな事ないでしょ、気のせいだよ」


 ディアナは全く分かっていなかった。

 自分がこの街ではどれ程人気があるという事と、何処の馬の骨かも知らない奴に対して憎しみの目をアルに向けられているという事を。


 街の中心にある領主館は俺の想像より遥かに質素な建物だった。

 この街の中では立派な建物ではあるが、領主と執政官を兼任している者が住むにしては小さいのでは無いかと思えてしまう。

 

「どう、普通の家で驚いたかな、家族以外は住まわせたくないからこの家の大きさで十分なんだってさ」


「そうか、ただ庭はよく手入れをされていてかなり広いじゃないか」


「無理に褒めるところを探さなくていいよ、それより中に入ろうよ」


 そのまま入口を通り抜けようとすると、長槍を持った兵士が槍を構えて俺の進路を妨害し始める。


「お嬢様お帰りなさいませ、ただ申し訳ないのですがその男は誰なのでしょうか、身分証の提示をお願いします」


「その必要はありません。彼は私の婚約者になる者です。それでいいではありませんか」


 驚いている衛兵に馬を預け、ディアナは真っすぐ玄関い向かって歩き出した。

 俺は堂々とした態度のディアナに圧倒されただ黙って付いて行く。


 玄関に辿り着くと同時に扉が執事により開かれた。

 領主館の中で済んでいないという事は何処からか通っているのだろう。

 そんな彼に同情してしまうが、その執事はディアナには優しい目を向けるが、俺に対しては敵意がありありと見える。


 執事に案内されたラウンジに入ると、その中にはラウレンス侯爵とその妻であるピエリーナ夫人、長兄であるパトリス待ち構えていた。

 もう一人兄がいるはずなのだがここには姿を見せていない。


 ラウレンス侯爵は俺には一切目もくれずに、ディオナだけを見て話し始めた。


「お帰りディアナ、お前達が一緒にいる事は今朝方聞いたが、まさか本当だったとはね、お前の婚約者になるトシュテン君に失礼だとは思わないのかね」


「いい加減にしろよな、男といる事がトシュテンの耳に入ったらどうするんだ」


「黙りなさい。私が話しているんだ」


 パトリスが文句を言ってきたが、直ぐに咎められてしまった。


「勝手にトシュテン様を婚約者扱いしないで貰えますか、単なる兄上の親友なだけでしょ」


「そうでは無いだろう、お前にはちゃんと話したはずだ。それに立派な侯爵家の跡継ぎなんだぞ、そこの魔王に憑りつかれている男とは訳が違う」


 完全に俺の事が嫌いなのだろう、もの凄い言われようだ。

 かなりムカつくように思えるが、こんな時だからこそ俺のスキルは活躍してくれて、俺は何事も無かったかのように聞いていられる。


「そんな言い方をしないで貰えますか、私はアルと結婚致します。それに此処に来る前は何ヶ月の同じ部屋で過ごしていたのですから」


 言っていることに間違いは無いと思うが、もう少し言い方ってものがあるように思う。

 その証拠にこの部屋の中に居る誰もが俺に殺気を向けてしまっている。

 

 夫人なんていつの間にか花瓶を握り絞め、いつ飛んでくるのか分からない。


 ディアナが物を直ぐ投げるのは母親譲りなのだろう。




  

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