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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十六話 二人だけで

 朝を迎えると小屋の前には既にルーサーが現れていた。

 どうやってルーサーを呼び寄せたのか中尉に尋ねたが、ドラゴンライダーにならないと教えてはくれないそうだ。

 早速、背中に乗り込もうとしたが、またしてもディアナが文句を言って来る。


「私は嫌だからね、時間が掛かっても乗りませんから、それ……」


 ディアナの抗議にうんざりしているのか、中尉は目にも止まらぬ速さでまたしても顎を撃ち抜き気絶させてしまう。

 一応目の前には結婚を決意した相手がいるのだから、せめて説得する時間が欲しかった。


 気絶したディアナを抱えて背中に乗り込むと、ルーサーはあっという間に上空高く舞い上がって行く。

 このままディアナの両親がいるエイマーズ領まで飛んで行くと思われたが、その手前の街に寄るらしく街の端にルーサーは舞い降りた。


「どうしたのですか、何かこの街に用事でもあるのですか」


「あのなぁ、お前は自分の恰好を見て見ろよ、そんな恰好で行ったら直ぐに追い返されるぞ、ただでさえお前は歓迎される訳は無いんだからな、いいから早くディアナを起こせよ」


 何だか酷い言われようだが、俺は言われるがままにディアナの頬を軽く叩いて意識を覚醒させていく。

 意識を取り戻したディアナは目を覚ますといきなり俺の頬に平手打ちをしてきた。


「いくらなんでもあんなやり方は無いでしょ、よく婚約者になろうとしている男がそんな真似出来るよね、いい、次やったら婚約何てしないからね」


 気絶させたのは完全に俺だと思っているらしく、それから暫く罵声が続けられた。


「ディアナももういいんじゃないか、この俺が二度とあんな真似をしないように強く言っておきからさ」


「ちょっと…………」


「俺は教師だ」


 余りの理不尽な物言いに抗議をしようとしたが、たったの一言で俺は何も行く事が出来なくなってしまった。

 教師だからと言って言って良い事と悪い事があると思うが、中尉には有無を言わせない迫力がある。


 辿り着いた店の中でディアナが選んだ服を着せられ、会計は全て中尉が払ってくれた。

 先程のお詫びだと思うので遠慮なく受け取り、再びルーサーに乗り込もうとしたところで、お約束のようにディアナが抵抗を始める。


「ここからは実家までは近いので乗らなくてもいいですよね」


「そうだけど、馬なんかで行ったら夜遅くになってしまうぞ、そんな時間にアルと一緒に行ったら心象が悪くならないか」


 既に夕方になってしまっているので、ルーサーなら直ぐにでも到着するが、馬ならそれは出来ない。


「大丈夫です。私達はこの街で一泊してから行きますので」


「まぁそれならいいか、じゃあ俺はレオニダス様の所に向かうからな、俺はいつまで教師をさせられるか知らんが、また会おうな」


 別れの挨拶を済ませたが、ディアナは立ち去ろうとする中尉を引き留めてお金を借りている。

 俺には当たり前のように野営をするのだと思っていたが、ディアナはいい加減それには耐えられなかったようだ。


 二人で街を歩きながら宿を探しているのだが、中々ディアナの希望に合う宿が見つからない。


「なぁ何処でもいいんじゃないか、たかが眠るだけだろ」


「絶対に嫌、もうかなり長い事お風呂に入っていないんだよ、魔法で身体は綺麗にしているけど、いい加減ゆっくりしたいの、それに折角お金を貰ったんだから」


「いやいや、そのお金は中尉に借りたんじゃ無いか、いつか返さなくてはいけないんだからな」


 俺のその言葉にディアナは寒気がするほどの冷たい笑顔を見せて来た。


「返す訳無いでしょ、あの人は私に借りがあるんだから、これぐらいじゃ足りない位だよ」


 アルには全くその意味が分からなかったが、ディアナは中尉が隠していた秘密の事を言っている。

 ディアナはようやくあの時の魔法が誘惑になってしまっていたことに気が付いた。


 中尉ほどの人がそれに気が付かない訳は無いと思っているので、ちゃんと説明をしてくれなかった事に怒っていた。

 だからと言ってアルに対して不満がある訳ではない。


 かなり宿探しに時間が掛かってしまったが、ようやくディアナが納得する宿を見つける事が出来た。

 ただ一つだけ問題があって、中尉が貸してくれた金は余り多くない事だった。


「食事をいつものようにすれば、二部屋取れるな」


「嫌よ、折角だからちゃんと食べようよ、別に今まで同じ小屋で暮らしていたんだから平気でしょ」


 ディアナはどんどん中に入って行き、一部屋だけを確保して手付金を支払っている。

 久しぶりの豪勢な食事を堪能してから部屋に入ると、大きいベッドが一つだけしか用意されていない。


「こうなってしまうよね、まぁいいわ、お風呂に浸かって来るけどあんたも一緒に入るかな」


「いいよ、俺は後で」


 ディアナの発言に緊張してしまうアルであったが、実はディアナは優位な立場になりたくて言っているだけで、本当は心の中で断ってくれる事を期待していた。

 その証拠にアルが気が変わっても入って来られないようにしっかりとロープでドアが開かないようにしている。


 二人とも風呂が入り終わった後は謎の沈黙部屋の中に流れている。

 長い間、小屋の中で寝ていたとはいえ、そこには中尉もいたので決して二人だけで眠る事は無かった。


「もう寝よ……」


 密かにディアナはアルに快眠の魔法を掛け、アルが寝静まったのを確認してからぐっすりと眠ろうとしたが、勢いでこの状況になってしまい、更には明日には更に話が進む事を考えると一睡も出来なかった。


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