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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十四話 山頂にて

山の頂上にはちょっとした広場があって、そこからはマテウス王国は見渡せるのは勿論の事、小国の獣人の国であるハディン共和国の姿も見る事が出来る。


「おいっあんまりそっち側を見るなよ、勘違いされたら面倒だからな」


 俺は初めて見るハディン共和国を見ていたら中尉に言われてしまった。

 俺が見ていた先の麓にはハディン共和国の村があるだろうし、仮にそこから俺の姿を見られたらスパイ行為だと疑われても致し方あるまい。

 

 この山は中立地帯と一応はなっているが、言い換えればお互いの国の法律が適用されない危険地域でもあるのだ。


「静かにして、誰かが登って来るよ」


 ディアナが誰かの足音に気が付くと、確かに数人が此処の頂上を目指して登って来るような足音が聞こえる。

 中尉は俺達の側に来て足音が聞こえてくる方向に注目していると、頂上に姿を見せたのは魔族でも魔獣でもなく、猿人型の獣人族が俺達と同じような簡単な荷物だけを持って姿を見せた。


「おやおやこれは珍しいな、こんな山の上で人間と出くわすとは思ってもみなかったよ。私はビテックだ。よろしくな」


 最初に到着した猿人型の男が笑顔を見せながら中尉に手を差し伸べて来た。


「私はヴィーランドだ。こんな何もない山の頂上で獣人族の方と会うとは私も思わなかったよ」


 中尉も手を伸ばして差しさわりの無い挨拶を交わしたが、ビテックと言った獣人の後ろには敵か味方かを推し量っているような獣人達が俺達の事を観察している。


「アル、亜人なんて生まれて初めて見たよ」


 ディアナが俺だけに聞こえる声で言ってきたのだったが、その声は獣人族達にはしっかりと聞こえていたようで、ヤンチョウの空気が剣呑なものへと変化する。


「君はその言葉が私達にとって差別用語だと知らないで言ったのかな、それとも理解した上で喧嘩を売りたいのか、どっちだね」


「すみません、そんな風に思われるなんて知りませんでした」


 泣きそうな顔で頭を下げるディアナであったが、ビテックはその言葉を信じていない様だ。


「申し訳ない。こいつらは王都の中で隔離された学校生活を送っているんだ。まだ学生だからこの世界の常識に疎いんだよ」


「そうかあのエリート学校か」


 ビテックやその他の獣人は中尉の説明で納得してくれたのか、もう俺達の事を睨むのは止め、その代わりに呆れたような表情になった。

 王都の学校と言うだけで理解するとは、どれだけこの方達は情報を掴んでいるのだろうか。


「お嬢ちゃん、さっきの言葉は君が思っている以上に最悪な言葉なんだ。温厚な私達でさえ怒りを覚えてしまうくらいにね、だから獣人族の前では二度と言ってはいけないよ、私達の国で言ったら殺されてしまうかも知れないし、その言葉がきっかけで敵国になるかも知れないんだよ」


 深々とディアナが頭を下げると、そこでようやく許してくれたようで空気が元に戻って行ったように感じる。


「私からも謝罪するよ、この事をもっと早く教えない教育が悪いんだから」


「私達と会う機会なんて子供には無いだろうからな。それにしても私達より軽装備でこの山の頂上辿り着くなんて凄いよな君らは、それはスキルの力なのかな」


「勿論そうだよ、私達はスキルが無ければ君達には敵わないからね」


 獣人族にはスキルの恩恵が無いので、俺達がどんなスキルでこの山を攻略したのか知りたいようだったが、一切詮索してこなかった。

 どうせ教えてくれない事は理解しているのだろう。


 人間はスキルの恩恵があるのが羨ましいと言ってきたが、彼等の身体能力は人間夜遥かに上で、仮に人間にスキルの恩恵が無ければ獣人族と対等の立場に立つ事は出来なかっただろう。


 その後は少しだけ話した後で、彼等は自分の国に下山して行った。

 彼等を見送ると中尉は大きく息を吐きながらディアナを睨みつける。


「お前、亜人なんて言うなよな、それ位は子供でも知っている事だろ。いいか彼等は決して一般人じゃ無いからな。あのまま戦闘になっていたらどうなったのか分からないぞ、全く嫌な汗をかかせるなよ」


「すみません、思わず口走ってしまいました。あの言葉は自然と飛び交っているので、あそこまでの反応を示す言葉だと知りませんでした」


 特権階級の意識が強い貴族の世界では、獣人族の事をまとめて亜人というのは珍しい事では無かったので子供の頃から聞かされて育ったディアナには仕方の無い事だった。


「ヴィーランド中尉、彼等は一般の方では無いのですか、違うとなると何者ですか」


 俺はただ彼等の存在が気になってしまう。

 そもそも近づいて来たのはビテックだけで、残りの獣人は距離を置いて此方を観察しているだけだった。


「詮索したところで分かるはずもないさ、あまり気にするな。その内に友好国になるかも知れないんだからな」


 俺達の国は六つの国に囲まれていて、マテウス王国と同じように魔国と隣接している二つの国とは友好関係を結んでいる。

 先程の国は友好国でも敵国でもないが、魔国を含む残りの国とはあまりいい関係とは言えない。


 だから先程の獣人族があからさまなスパイ行動を見せない限り、下手に詮索をして友好国になる障害にはなって欲しくなかった。


 ヴィーランド中尉が見せたかった景色は確かに綺麗ではあったが、これならルーサーから見た景色の方が上だと思うがそれは心にしまって置く。


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