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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十二話 やってはいけない魔法

 山に籠るようになってから早くも一ヶ月が経過した。

 今ではこの山の中腹に小さいながらも小屋を建てて、そこを拠点としている。


 勿論、この小屋は元からあった物ではなく、小屋の作り方なんて知らなかったが、中尉の指導でひたすらハルバートで木を切り倒して、そして組み上げていった。


 完成した途端に俺は眠り続け三日間は目を覚ます事は無かったが、そのおかげで人並の生活を送る事が出来ている。

 山に入った最初の一週間は雪に穴を掘っただけの場所で眠っていたので、ディアナの機嫌はすこぶる悪かったが、今では何とか機嫌を持ち直してくれている。


 俺の訓練は午前中はただひたすら中尉と実戦形式で戦っているが、一ヶ月経つ今も掠り傷すら負わす事が出来ない。

 斧の部分には皮袋で殺傷力が無いようにしていて、そして何かの為にディアナが近くで見ていてくれるので手加減など一切していないが、これがドラゴンライダーとの実力の違いだろう。


 どうしてこれほどの実力者である中尉が、此処で俺達の指導者として数ヶ月もいる羽目になっているのか不思議でならない。


 午後になると中尉はディアナの魔法の訓練をするので、俺は一人でひたすら山を駆け巡り食事にする為の魔獣を狩りまくる。

 最初は動きの速い魔獣だと逃げられてしまう事も多かったが、今では小屋の周りには肉の塊が沢山雪の中に埋まっている。


 ディアナは生活魔法に改良を加え、もっと実戦でも使えるように指導を受けているが中々上手くいかない様だ。

 スキル名が「癒しを与える者」なので、人を傷つけることは出来ないのでは無いかと、最近は落ち込み始めている。


 俺はこの日は全く成果が無かったが、山に陽が落ちる前に小屋に戻ると、その中にはディアナだけがいた。


「あれっ、ヴィーランド中尉はいないのか」


「中尉は沢に魚を釣りに行ったよ、毎日肉だけだと辛くなってきたってさ」


 小屋の近くには野草が生えているので、肉だけでは無くちゃんと野菜も食べているのだが、それでも中尉は飽きて来てしまった様だ。


「ディアナも気分転換で行けばよかったのに」


 俺はディアナが煮詰まってしまっていると思って声を掛けたのだが、何故かディアナは怪しい笑みを浮かべて俺を見ている。


「ずっと落ち込んでいたんじゃないよ、最近は私のスキルの可能性を探していたんだよ」


「意味が分からないが、どういう事なんだ」


 俺もそうだが、俺達みたいな曖昧なスキル名だと、自分でも気が付かない力の使い方があると信じてずっと魔法書を読んでいたらしい。


「ちょっと試してみたい事があるんだけどいいかな」


 ディアナにとっては俺はたとえどんな魔法でもいい実験体になるのだろう。


「いいぞ、遠慮なくやってくれ」


 ディアナは魔法書に書かれている文字を読み上げながら、真剣な表情になって俺を見つめた後で、言ってきた。


「私の事だけを考えなさい。心の解放、チャーム」


 何を意味の分からない事を言っているのだろうと思っていたが、目の前のディアナを見ていると胸が熱くなってきた。

 こんなにも苦しい思いはした事が無いし、なんだか胸が高まって来るように感じるのでこれは苦痛とは違うのかも知れない。


 俺はどうしていいのか分からず、感情の思いのままにディアナに抱きついた。


「ちょっと、何してんのよ、離れてってば」


「離す訳ないだろう、こうすると落ち着くよ」


 ディアナは何故か暴れ出したので、俺はディアナに無理やりキスをする。

 そうすれば落ち着くと思ったが、益々ディアナが暴れ出すが俺の力に敵う訳は無く、俺の感情はどんどん高まって来る。


「もういいよな」


 ディアナは何故か驚愕の表情を浮かべたが、それは了承の合図なのだろう。


「ごめん、私が悪かったから落ち着いてよ」


「ありがとうディアナ」


 俺はディアナの胸の辺りに手を掛けると、一気に服を剥ぎ取った。


「止めてよ、中~尉~」


 ほぼ全裸になっているディアナの身体は美しく、抵抗しているのも全て演技なのだろう。

 俺はそのまま覆いかぶさると、突然扉が開き中尉の姿が見えたが、気にせずにディアナの胸に顔を埋めた所で意識が消えていった。


 頭の中が何だかもやもやしている中で目を覚ますと、胡坐をしている中尉の前でディアナが涙を流しながら座っている。

 どんな状況なのか分からないが、後頭部を押さえながら声を掛けた。


「あのっ何かあったのですか」


 俺の言葉にディアナは何故か自分の身体を抱えながら俺から離れて行く。


「お前は俺がいない間にディアナを襲ったんだよ」


 全く身に覚えが無いが、ディアナを見ているともしかしたら本当に俺がしてしまったのかと思ってしまう。

 気が付かない内に俺のスキルの暴走かも知れないと思ったら、全ての原因はディアナにあった。


「それだったら、俺は被害者じゃないか」


「あんたが私を裸にして襲って来たのは事実でしょ、無理やりあんなことをしようとするなんて信じられない」


 ディアナは小屋の中にある物を手当たり次第俺に投げてくるが、そもそもディアナがそんな魔法を掛けたのが原因で、俺は襲いたくて襲った訳では無い。


「もう止めなさい。これで分かっただろ、チャームの魔法は遊び半分で使ったら駄目なんだ。それに対象を自分にするからこんな目に合うんだぞ」


 ディアナは中尉には謝っているが、俺に対しては謝るどころかずっと睨みつけている。


 この事件があってから二ヶ月は経過したが、未だにディアナはまともに俺に口を開いてはくれず、それどころか汚らわしいようなものでも見るような目で俺を見る。


 一度だけ普通に話す機会があった時に、記憶はあるのと聞かれたので、全て思い出したと正直に言ってしまってから再び態度が硬化してしまった。


 ちゃんと綺麗な身体をしていると褒めたのに理不尽だ。

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