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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第四十一話 山の入口

 ディアナの荷物を運び易いようにまとめていると、背中にディアナの蹴りが入る。

 折角ディアナの為にしてあげているのに酷い仕打ちだ。


「俺に当たるなよ、もう諦めろって」


「あのねぇ、特色課のせいで私の予定は狂うのはこれで二回目だよ、本当にいい加減にしてよね、私はなんだかあんたの事が嫌いになりそうだよ」


 今度は俺に前蹴りをすると、俺がまとめてあげた荷物を抱えて中尉の方に走って行ってしまった。

 前回も今回も別に俺が決めた訳では無いのだから、八つ当たりだけは止めて欲しい。


「じゃあ、出発するか、その前にディアナにはプレゼントしないとな」


 中尉はそう言いながら掌をディアナに向ける。

 その瞬間に効果が現れた様でディアナは自分の身体をしきりと動かしている。


「凄い、身体は軽いし、荷物の重さも感じられないよ」


「今日一日はそのままだと思うが、もし効果が切れたら言ってくれ、それならどんなに山が険しくてもたいして疲れないだろう」


 中尉のスキルの効果が面白いらしく、ディアナは興奮しながら山に向かって走り出してしまっている。

 次は俺の番かと思い、身構えているのだが、中尉はディアナを追いかけるように歩き出してしまった。


「ちょっと待って下さい、僕はまだ掛けられていないのですが」


 俺の言葉が耳に届いて中尉は振り返ってくれたが、その目は何故か蔑んだような冷たい目を俺に向けてくる。


「お前は普通に歩けよ、身体を鍛えるのが目的なのに楽してどうするんだ。どうせなら俺の荷物も持つか」


 背中にはハルバートがある為、自分の荷物と中尉の荷物を抱えるようにしながら持っている。

 雪山を登るのに両手が塞がっているなんてどうかしている。


「ヴィーランド中~尉~。もう出てきました~」


 かなり軽快なステップで、相当先を歩いていたはずのディアナが勢いよく此方に向かって走って来る。

 その後ろには雪煙が二本の線のようにディアナを追っているので、早速何かに出くわしてしまったようだ。


「アル、好きに倒して来いよ」


 通り抜けようとしたディアナの腕を掴んだ中尉は、そのまま背中にディアナを隠し、もう一つの手で俺の荷物を奪った。

 これで何も制限される事はなく、戦いに集中が出来る。


「いいか、お前の隠し玉は使うなよ、素のままで戦って来い」」


 スキルを使うなと言う指示だろう。

 言われるまでもなく俺は使うつもりはないし、そもそもまともに使える程苦痛はあまり溜まっていない。


 雪煙はどんどん近づいて来て、俺の手前まで来ると雪の中から二匹の魔獣が飛び出して来た。

 その魔獣はスノーフォックスを言う魔獣で見た目は可愛らしいが、性格は獰猛で勿論肉食である。


 最初に飛び掛かって来た奴の鼻先を殴りつけたが、もう一匹は俺の首筋に噛みついて来た。

 俺は噛みつかせたまま最初の一匹に向かって、ハルバートを思いきり振り降ろすが、簡単に躱されてしまう。


 やはりハルバートが多少重たいので、剣に比べて遅いからだ。

 一旦目の前の奴は置いておいて、噛みついている奴の喉を片手で柄んでそのまま喉を握り潰した。

 息も絶え絶えになった奴に、ハルバートの穂先で突き刺してとどめを刺した。

 その様子を見ていたもう一匹は、俺の周りをウロチョロしながらどうやら攻撃のチャンスをうかがっている様だ。

 

 一度距離が離れてしまったが、その距離はじりじりと近づいて来る。

 まともに振り回したのであれば、またもや躱されてしまうので短く持って少しでもスピードが上がるように構えた。


 スノーフォックスは、俺の攻撃を躱せると思っているのか、左右に身体を動かしながら迫って来ている。

 俺はあえて自分からは動かず、飛び掛かって来るその時を待っている。


 俺の脚に噛みついて来ようとしたときに、俺は斧部を振り上げると見せかけ、反対の部分でその顎に当てた。

 奴はその勢いで俺の目の高さまで飛んできたので、ハルバートをそのまま回転させ今度は斧部で身体を引き裂いた。


「上出来じゃないか、それだけ主張している斧部が付いているのだから、それに拘ってしまうかと危惧したが、ちゃんと考えたな」


 中尉からお褒めの言葉を貰ったと思い油断をしていたら、俺の脳転に拳を落とされてしまった。


「だがな、最初は良くないな、上から振り下ろすのでは無くて横薙ぎに払っておけば、首に噛みつかれなくて済んだんじゃないか」


「あれはわざとですよ、少しは攻撃を貰わないと苦痛が貯められませんから」


 俺の言葉に中尉は呆れた様な表情をしている。


「そういえばそうだったな、何だかお前のスキルはややこしいな」


 本当だったら暫く攻撃を無防備で受け続けようと思ったが、噛みつかれた程度ではあまり意味がないと思って早めに倒す事にした。


「これはいい夕飯になりますよね」


 何か言いたげな二人を横目にしながら俺は二匹の解体を始め、肉の部分だけを雪で綺麗にしてから袋の中にしまった。


「私は何の為にいるのかしら」


 再び歩き始めると直ぐにディアナが不満を言ってくるが、俺は聞こえない振りをして、違う話に話題をすり替える。


「ディアナは色々魔法を使えるが、どんなスキルなんだ」


「癒しを与える者だよ、補助や回復がメインの中途半端なスキルだよ」


 火や水も出せる万能なスキルのように思っていたが、あくまでも生活魔法のレベルでしか無く、ディアナにとってはそれが悩みの種だった。



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