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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第三十八話 飛竜登場

久しぶりに教室の中でテオと話していると、何故か不機嫌そうな二十代の屈強な男が入ってきて教壇の上から俺達四人を見渡し始めた。


「君らは何で平然と座っていられるんだ。ここに立っているという事はどういう事なのか分からないのかね」


 冷静な口調で怒られてしまったので、俺達は急いで立ち上がってきちんとした礼をした。


「それでいいんだ。君達はこれから何処に向かうのか知らないが、学校から離れると目上の人達で溢れているからな、礼儀は忘れるなよ」


 何が行なわれるのか分からないが、授業が開始の時間になってもレオニダスが現れないというのは彼がその役目をするのだろう。

 あえて質問はしないで、黙って話の続きを待っている。


「無駄な事を言ってこないのは言い心掛けだな。私はレオニダス様の代わりとして来たヴィーランド中尉だ。とは言っても家庭教師のようになってしまうが」


 そう言いながら何かが書かれた紙を俺以外の三人に手渡した。


(うわぁ、また実習が始まるじゃない。みんなは何処になってる)


 グレタがスキルでみんなに話し掛ける。


「よさないか、何の話をしようとしているか知らないが、秘密の話をされるは気分がいい物じゃない」


 スキルで話し掛けたグレタは立ち上がり、直ぐに誤った。


「全く話が先に進まないじゃないか、いいかい君達はそこに書かれている場所に向かって貰う。今回は課ごとでは無く合同だからレオニダス様の顔は潰さないように行動しなさい。それでは各自支度にとりかかってくれ」


 テオ達は俺の方を見ながら教室を出て行った。

 出来れば何処に行くのかと聞きたかったが、そんな時間は与えては貰えなかった。

 またみんなと会えるのは最終学年になった時になってしまうだろう。


「あの、私は紙を渡されていないのですが、何処に実習に行けばいいのですか」


「君は実習に行く必要は無い。三日後に俺と一緒にバジヤマレ山に行くんだ。それまで君は一人で座学の補習をしてもらう。私はねぇ、君専属の教師にさせられたんだよ」


 ヴィーランド中尉は盛大に溜息を吐きながら椅子に腰を下ろした。

 

 マテウス王国の一番北にあるバジヤマレ山は山の半分が我が国の領土であるが、もう半分はミロイ国の領土となっている。

 数年前までは魔国と同じようにいざこざが絶えなかったが、つい最近になって停戦が結ばれた国だ。

 山頂を越えなければ何も問題はないが、そのそもあの山は気候変動が激しくて、とても快適に過ごせるとは思えない。


「何であんな場所まで行くのでしょうか、訓練ならもっと近場でもいいと思うのですが」


「私も本当にそう思うよ、ただな、レオニダス様の指示なのだから従うしかあるまい。それに君のする事を知られたくないんじゃないのか」


 座学の補修と言っても教えてくれるわけでは無く、ただひたすら自分で教科書を読んで一人だけで勉強している。

 休憩時間に入ると、テオが教室に姿を見せた。


「なぁなぁ聞いてくれよ、俺が実習に行くところは何処だと思う」


 テオは何故か興奮しているが、俺にはテオの実習先など想像もつかない。


「分からないよ、話したいなら早く教えろよ」


「何だよつまらないな、いいか、俺がこれから向かうのは第一王子の近衛兵の隊だってよ、俺がしっかり実習で成果を上げれば近衛兵になれるかも知れないな」


 確かにフィンレイ王子の近衛兵はテオのスキルと似たような人がいるのは知っているので、フィンレイ王子はそのようなスキルの持ち主が好みなんだろう。

 まぁテオが想像している近衛兵とは違うように思えるが、何しろ第一王子の元に行くんだから俺よりは良いに決まっている。


「まぁ良かったじゃないか、フィンレイ王子によろしくな、この間は有難うございましたと伝えてくれ」


「そんな事を軽々しく言える訳ないだろ、おいっ押すなって」


 まだ話たいらしかったが、俺は授業開始時間が始まりそうなのでテオを追い出した。俺には自慢話を聞いている暇はない。


 ようやく三日が過ぎて自習から解放され、ヴィーランド中尉に指定された屋上に向かって行く。

 何故、正門では無くて屋上が集合場所なのかは知らないが、どうせここにもレオニダスが絡んでいるかも知れないので深く考えない事にした。

 どんなに理不尽な事でも従うしか選択肢はない。


 この学校には約六年いるのだが、そういえば屋上に上がるのは初めての事だ。

 俺は重たい扉を開けて屋上に出て見ると、そこは今まで見た事がない位の綺麗な庭園に躍り出た。


「こっちだこっち、早く出発しようじゃないか」


 声の出所を見ると、ヴィーランド中尉の隣には中型の竜が大人しく座っている。 

 俺も少しだけ憧れてしまう、国王軍の中でも特別な者だけが扱える飛竜がそこにいるでは無いか、俺は興奮しながら飛竜の側に走って行く。


「飛竜じゃないですか、これで行くのですか、俺は生まれて初めてこんな近くで見ましたよ」


「まぁ落ち着けよ、いいかこいつの名前はルーサーって言うんだ。触ってもいいが顎の下だけは決して触るなよ、いくらお前でも簡単に殺されてしまうぞ」


 中型の飛竜とはいえ、頭の先から尾の先までゆうに十五mを越えている。

 それに加えて強烈なブレスを吐くというのだから、いくら鈍感な俺でもわざと怒らせるような真似はしたくない。


「山まで二週間はかかってしまうと思いましたが、飛竜だと直ぐにつきますよね、本当に嬉しすぎる体験が出来そうです」


 俺が興奮して話す度に何故かヴィーランド中尉の顔が曇って行くように見える。

 何か気に障る事を言ってしまったのだろうか。


「最初に言っておくが、これは私が考えたことじゃないからな、いくらなんでも止めた方がいいと言ったんだが、君の為だとレオニダス様が言い張るんだよ」


 ヴーランドはそう言いながら縄で俺の身体を縛り上げて行く。

 これから俺の待ち受けている運命が何となく理解出来てきて、俺の感情はどんどんと消えていくのが分かった。

 「苦痛」を貯め込む為だと思うが、このやり方hが余りにも酷い。


「悪いな、向こうに着いたらちゃんと乗せてあげるからな」


 一瞬でルーサーは空高く上昇して、俺はその下で縄で吊り下げられている。

 上を見上げると飛竜の胴体が見え、俺は腕も縄に巻き込まれてしまっているので全く身動きが取れない。


 レオニダスの言いたい事も分かるが、此処迄しなくてはいけない事なのだろうか。

 どうせ帰りも帰り道も同じ運命が待っていると思うと、景色をゆっくりと眺めている精神状態にはなれなかった。




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