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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第三十五話 大臣の息子

 ディアナに連れ出されホールの端を歩いて外に向かっているのだが、数々の視線が俺達の様子を見ているのが感じられる。


「ディアナは人気者なんだな、さっきから煩わしい程の視線を感じるんだけど」


「私じゃないわよ、侯爵家の跡取りのあんたの動向が気になっているに決まっているじゃない」

 

 先程まで王妃と母に妨害されてしまったとはいえ、少なからずとも女性の方から誘いを受けた事を思い出して、若干にやけてしまう。


「あんたもそんな顔をするんだね、気持ち悪いよ、けどね、あんたは本来ならもっと誘いが無くてはおかしいんだよ、それに上級貴族の女性が一切あんたに近づいて来なかった意味を良く考えてごらん」


「全く、意味が分からないんだけど」


 確かにあまり聞いたことがないような家名の女性ばかりの様だったような気もするが、そもそも貴族の世界には疎いし、上級貴族の女性なら男の俺の方が誘うのが礼儀のように思える。


「あのね、今日はあんたの家がこの晩餐会の主役なんだよ、それなら跡取りのあんたに挨拶程度に来るのは当たり前でしょ」


「新参の侯爵家なんだぜ、行くとすれば俺からじゃ無いのか」


「一体この国に侯爵家がどれだけあると思ってるのよ、馬鹿じゃないの」


 そんな貴族の常識は知らないが、そもそもが俺の普段の行動とスキルのせいで人気がないらしい。

 周りの貴族は俺のスキルだと出世は見込めないと思っているようで、そのくせ魔族との戦いに拘る俺の評価はかなり低いそうだ。


「少しは理解できたかな、可哀そうだけどマイヤー家はあんたしか跡取りがいないんだから、安泰な道を選んで領主になった方がいいんじゃないの」


「祖父や母は気にしないだろうな、俺は暫く甘えさせてもらってやりたい事をやるよ」


「あんたらしいね」


 パーティ会場の方を見ると誰もが楽しそうにしているが、騎士はともかく貴族は何を考えながらここに居るのだろう。

 俺は出来る事ならばそんな煩わしい事に巻き込まれないで、過ごしていきたいと本気で考え出した。


「ディアナさん、私と一曲踊りませんか」


 でっぷりとした男が俺達の進路を塞ぐように立ちながら俺の事は無視して、ディアナだけに話し掛けて来た。

 男の後ろには護衛らしき屈強な三人の男が少しだけ距離を開けて見ている。


「これはイフナース様ではありませんか、申し訳ありませんが、私は学友と込み入った話をしておりますので、またの機会にお願い致します」


「どうでもよかろう、その男は侯爵家の跡取りとはいえ、いつまで侯爵家でいられるか分からないのだぞ、それに君の父上がその男といる事をお許しになるはずがない」


 完全にこの男は俺の事を見下している。

 「勇者」のスキルを授からなかったこの俺では、侯爵の称号は貰えないと確信しているのだろう。


「それは余りにも彼に対して失礼な言い方ではないのかね、君は彼の何を知っているというのだ」


 俺達の背後から、数人の女性を引き連れた第一王子であるフィンレイが現れてイフナースを咎め始めた。

 流石にこの男も王子が現れた途端にひれ伏し、汚らしい脂汗を流し始めている。


「申し訳ありませんフィンレイ様、ただこの男が立場をわきまえずディアナ嬢をたぶらかしているので咎めようと致しました」


「彼は宰相の孫なのだぞ、それなのに立場が低いと申すのか、別に無理やり連れまわしている訳ではあるまい。君ごときがでしゃばる必要はないのではないか」


 王子の言う事は正論で、家名的にも地位的にも何の問題は無い。

 ただそれでもイフナースは納得がいかない様だった。


「ランベルト様は勇者であられますが、彼自身にはその力はありません。それなのに勇者様の力を自分の物と過信して行動する姿は目に余ります」


 こいつはただ自分がディアナに近づきたいだけなのに、何時の間にか俺を悪者のように仕立て上げようとしている。

 大体、いつ俺が祖父の権力を使ってディアナを連れ出したというのだろうか。

 

「それなら君にはその力があるというのだね、ならば決闘をしたらいいだろう。後日場所を設けるがそれでいいかな」


「フィンレイ様に申し上げますが、私の力は頭に中にあります。戦いなどの力は護衛が担当しておりますので、代理を立ててもよろしいでしょうか」


 イフナースはどうやら自分が戦う事を避けようとして必死になっている。

 味方であるはずの護衛ですら後ろでうすら笑いを噛み殺しているのに気が付いていない。

 主人を馬鹿にしているのか、それとも俺を痛みつける事が公認となる事で嬉しいのかどちらかだろう。


「そうなってしまうだろうな、君のその身体で戦えるとは思っていないよ、どうだねアル君はそれでいいかな」


 もう決闘をするのが決まっているようだ。

 何だか楽しそうな王子の表情を見ていると、俺の実力がどの程度なのか興味があるらしい。


「私は構いませんが、ただ一つだけ提案がありますがよろしいでしょうか」


「何だね言って見なさい。まさかと思うが君も代理を立てる訳じゃ無いだろうね」


「いえ、そうではありません。ただ私の力を見てから判断をして欲しいのです。むやみに怪我をさせたくはありませんので」


 俺は急いで部屋に入り、レバーを一つだけ上げてから現実の世界に戻って来る。

 

12。


 やはり悪意に満ちたここは思ったより俺に苦痛を与えてくれたようだ。


 俺は直ぐ近くにあった石像に近づいて行き、誰もが俺の行動に注目している中で力一杯素手で、石像に殴りかかった。


11。


 石像は破裂するように砕け散り、その様子を見ていた護衛達は薄ら笑いをやめ、顔は青ざめている様だ。


 俺は直ぐにレバーを下げてから元に戻る。


「これでも私に勝てるとでも」


 イフナースは護衛をけしかけるが、護衛達は完全に戦意を喪失してしまったようで首を横に振るだけだ。

 王子は最初驚いていたが、直ぐに冷静な態度に戻る。


「イフナースはもう下がりたまえ、君の護衛はやる気はなさそうだぞ」


 王子が諭すように言うと、イフナースは一人で会場に向かって歩き出した。


「ただアルよ、この石像を壊した事は問題になってしまうかもよ」


 そういえばこの石像が何なのかを気にしていなかった。


 

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