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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第三十三話 式典

城の中に入って行くと既に大勢の兵士が忙しそうに動いているが、祖父の姿を見る度にその動きを休めて、ちゃんと挨拶をしてくる。

 顎しか下げない祖父を見ていると、改めてこの国の有力者なのだと改めて感じてしまう。


 貴賓室に案内されたが、祖父は直ぐに国王様の元に向かい、部屋の中には母と俺だけで昼食をとることになった。


「式典が終わったら、学校に戻ってもいいのですかね」


 その後に控えている晩餐会には参加したくないので、僅かな希望を込めて尋ねてみる。


「それは無理だと思うな、夜はある意味、貴方も主役なんだから」


 その言葉で俺は、侯爵家の跡取りとして巻き込まれる事が決定した。

 しかし、ダンスの時間になったら、むやみに女性の誘いには乗ってはいけないらしい。

 面倒な事にそこで家同士の戦いが繰り広げられるそうだ。


 俺は結婚の事など全く考えてもいないので、今日の夜の事を考えただけで憂鬱になってくるが、考えれば考える程、どうでもよくなっていく。これもスキルのおかげだろう。


 暫くすると正装に着替えさせられ王の間が見える二階へと移動することになった。

 眼下には幹部騎士や上級貴族が式典が始まるのを待っていて、壁沿いには近衛兵が整列している。

 下にいる人は多いのだが殆ど声は聞こえず、緊張感のある静けさが漂っている。


 突然音楽が鳴り響き、奥の扉から国王様が登場すると、一斉に下にいる者は膝をついた。


「何してんの、貴方も頭を下げなさい」


 母に無理やり頭を下げさせられてしまう。

 この辺りのしきたりはいまいちよく分からない。

 再び音楽が流れ始め、いよいよ祖父が羨望の眼差しを一身に浴びながら国王様の前まで堂々と歩いて行く。


 祝辞が次々と語られ、最後に国王様が祖父が侯爵の地位に上がる事と、宰相となって国王様の右腕になる事が宣言された。


 歓声が巻き起こり、殆どの者が祝福の拍手をしていたが、中には苦笑いだけを浮かべている者や、あからさまに敵意を浮かべている者もいる。

 下にいたら此処迄はっきりとは分からなかったが、この場所からだと一目瞭然だ。


「よく見ておきなさい、この様子を見る為に此処に座っているのですよ」


 俺がその人達を記憶していくと、一人だけどっちとも言えない態度をしている者がいた。

 その者はディアナの父だった。ディアナにはこの前救われたし、関係性は良いと思えるのだが、父親は何を考えているのかは分からない。


「内政官貴族が多いですね、おじい様も気が付いているのでしょうか」


「勿論知っいるわよ、あの中には二種類いて、やっかみを持つ者と口を干渉して欲しく無い者の別れているわね」


「宰相になるとその者と付き合わなくてはいけないでは無いですか、よくそんな面倒な事に首を突っ込む気になりましたね」


 領主の仕事すら放棄しがちな祖父が権力争いに参加するとは、意外な一面を見た気がした。


「その対処は我々がやるのですよ、ランベルト様は宰相の地位という称号を貰ったに過ぎません」


 溜息交じりに隣に立っているクレイグが耳打ちしてきた。

 更にはこの俺も学校を卒業したら同じ近衛兵に入れるように推薦するそうだ。


「それはお断りしたいですね、私は討伐隊にしか興味はありませんので」


「そうか、まだアル君は知らなかったか、残念だけど討伐隊は最近になって解体されてしまったよ」


 クレイグから聞かされた衝撃の事実に、思わず意識が飛びそうになってしまった。

 クレイグによると、父と魔王が相打ちになってから、魔国はそれまでの好戦的な行動は鳴りを潜め、現在はそのような揉め事は殆ど無くなっている。


 そうなってしまうと、あえて魔国を刺激するのは良くないと考える者が増え、攻めでは無くて防衛に力を入れる事に移行していった。

 そしてこの平和が続いているのでとうとう討伐隊の解散が決定されたようだ。

 敵が魔国だけでは無い事も理由の一つであるそうだ。


「魔族をそのままにすると言うのですか」


「攻めて来ない限りはね、考えてもごらんよ、ベンノ様と魔王が相打ちになってから、この国は随分と豊かな国になったと思わないか、それはベンノ様が好戦的な魔王を倒してくれたおかげで、今の魔国も大人しくなったと考えているんだ。お互いに他国の事では無く自分の国の事を考え始めたから裕福になったんだよ、多分、魔国もそうだと思うんだ。だから今の平和があると思っている」


 祖父が総司令官を辞めたのはこれが原因なのかも知れない。

 魔族と戦わなくなったこの国の軍に興味が無くなったのだと思う。

 宰相にさせられたのは祖父にとっては迷惑でしか無いのだろう。


 平和を否定はしないが、俺達も最近魔族に襲われたし、魔族は人間を食料としか思っていないはずなので、この平和は決して長く続かない。

 祖父もその事は知っているはずなのだが、何故、みすみすと解散させてしまったのだろうか、このままではいつかこの国はこの事を後悔する日が来るだろう。


「分かりました。それでは俺は国境警備隊に志願します」


 俺の進路はそこにしか無いと思う。

 討伐隊のように率先して魔族と戦う事はないが、そこの部隊ならば魔族と戦う事があるだろう。

 俺は絶対に魔人や魔王を許さない。



「晩餐会を始めようではないか」


 俺が思考の沼に入っていると、国王様の声が王の間に響き渡った。


「それではクリスタ様、アル様ご案内いたします。お二人は王族を同じ席になりますので早く移動しましょう」


 そんな事になっているの何て初耳で、たかが新参の侯爵家が王族と同じ席に着いても良いのかと思ってしまうが、俺が何を言っても変わらないだろう。


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