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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十八話 実家に向けて

朝になり窓を開けると、すがすがしい風が舞い込んできた。

 暑さもさほどないせいか走って帰るには絶好の天気だ。


 荷物を背負ってマグロフ小隊長の元を訪ねる。


「お世話になりました。今度こそ無事に学校に戻りたいと思います」


「あぁそれだがな、君の向かう先は学校では無くて実家に向かえとの指示がレオニダス様からきたぞ」


 もう中間休みは終わっているので不思議に思っていると、マグロフが理由を話してくれた。

 近々、王宮にて侯爵家になる事を正式発表する式典が催されるらしい。  


 別に祖父だけで勝手にやってくれればいいと思うのだが、名誉ある事らしいので俺も強制参加が決定したそうだ。


「まぁそんな訳だから、ここに食料と水を用意させたから持っていくんだ。明日の夕方までに到着するようにだってよ」


「そんな、それは酷くないですか}


「ランベルト様がおっしゃった事に俺が意見を言えると思うか」


 祖父からの直々の連絡があったそうだ。

 元総司令官でもあり、まだ勇者のスキルを持つ祖父はこの国ではやりたい放題のようだ。


「分かりました。では早速帰ります」


 挨拶もそこそこに隊舎を駆け抜け、そのままの勢いで村を出て行く。途中でこの村にいる全ての兵士にすれ違う事が出来たので、走りながらではあったがお礼を言う事が出来た。


 誰も彼もが優しく挨拶を返してくれ、誰が俺の事を悪いように思っていたかは判断がつかなかった。

 バルテルの思い違いでは無いかとも考えたが、流石にそれは無いと思う。


 最初合った悪感情も知らず知らずのうちに軽減されたのだろう。

 この先も勇者の家系に生まれたことで色々な感情を向けられると思うと胸がざわつくが、スキルのおかげで冷静に考えられる。


 村を駆け抜けてから暫くして汗がかなり目に入り始めた頃、途中にある村の側を流れる川のほとりで水遊びをしている家族の姿が見えた。


 その家族の姿に昔の俺を投影させてると、上流から何かが忍び寄って来るのが見える。

 俺の場所からだと黒い影が見えるのだが、その家族には見えていない様で逃げる様子が全くない。


「そこの人達危ないぞ、上流から何かが迫って来るから、早く川から上がるんだ」


 俺はその家族に向かって大声を張り上げながら駆け寄って行く。最初はいぶかしんだが俺が焦っている様子を見て、ようやく感じ取ってくれたのか川から上がり始めてくれた。

 しかしその影も子供に狙いを定めた様で川から丘に上がって来る。


 姿をようやく見せた魔物は体長が十五mほどの緑蛇で毒を吐きかけるタイプの魔物だ。

 一人の子供が転んでしまい、運悪く緑蛇の方へ行ってしまう。緑蛇は鎌首を持ち上げ子供に向けて毒を吐く体勢になったが、俺は何とか子供を抱きかかえ、父親に向かって子供を投げる。


「早く此処から逃げるんだ」


 泣き出した子供を抱えながら父親は走り出す。

 俺は緑蛇を討伐する為に振り返ると、全身に緑色の毒を浴びてしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 俺の姿を見たであろう父親が此方に近づいてくるのが背中に感じられるが、逃げてもらわないと俺が対応している意味はない。


「いいから貴方は家族と共に逃げて下さい、俺の事は気にしないで」


 かなり強力な毒らしく、身体が重くなってしまっているが部屋に入ろうと意識を集中した途端に目の前が暗くなった。


「いやぁぁああああ」


 あの家族の叫び声が薄っすらと聞こえてくる。

 俺の身体は何かぬめぬめとした物で覆われている様な感覚があるので、どうやら俺を丸呑みにしようとしているのだろう。


 部屋に入り一つだけレバーを上げる。



 俺の身体に力がみなぎって来るので剣を振り回す。

 直ぐに視界が明るくなり、頭の中の数字が「1」になった途端にレバーを元に戻した。


 目の前には頭部が半分程切れている緑蛇がのたうち回っている。

 俺はとどめを刺す為に何度も突き刺して完全に動きを止めると、その緑蛇の腹の部分がやけに膨らんでいるように見えた。


(これは俺の前に丸呑みされた人間なのか)


 腹を切り裂いた方がいいのかも知れないが、見ない事を選択し、川で汚れた身体を洗おうとすると、その膨らんでいる部分が蠢いているのが見えた。


「えっ生きているのか」


 緑蛇を解体した事など無いので慎重に小刀で斬り込みを入れて行くと、その腹の中でその人は暴れている様だ。


「今助けるから、あまり動かないでくれ」


 薄皮一枚ぐらいになったところで、そこから飛び出してきたのは、数えきれないほどの子供の緑蛇だった。


「ぐぅわ、気持ち悪っ」


 一m程の緑蛇が身体から大量に飛び出してきた光景は思い出したくもない程おぞましく、半分程の子供の蛇は川に向かって行ったが、残りは俺の身体に巻き付いてきたり、噛みついてきたりしている。


 始めは振り払っていたが、余りにも大量に俺に纏わりついているので、俺はそのまま走り出した。

 気持ち悪いという感情は消え失せたので、それならばただ走るよりも苦痛が溜まりやすいと判断したからだ。


「君、落ち着いて止まるんだ、今度は私が君を助ける番だ」


 片目しか開いていないが、その目には先程の父親が大人を連れて俺の前に立ちはだかり、蛇を剥がそうとしている。

 俺はその手を躱し始める。


「あぁ気にしないで下さい。これも訓練の一つ何で大丈夫ですから、それよりこれと同じぐらいの数が川に向かったので早めに駆除した方がいいですよ」


 何とも言えない表情を浮かべた村人を後にして俺は先を急いだ。

 食料や水の入った袋はどうなってしまっているのか確認できない程、蛇に巻き付かれているので補給する事が出来ない。


(まぁこの蛇の子供を食べれば栄養補給になるか)





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