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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十七話 ムスタホ村、再び

 グレタは急いで村に舞い戻り、その日の門番をしていたライルに助けを求めた。


「助けて下さい。アルがゴブリンと戦って怪我をしてしまいました」


 ゴブリンと聞いてそんな訳は無いと疑ったが、後ろにいるアルの様子が尋常では無く、只事でないと判断してグレタを馬から降ろし、自分が馬に跨った。


「君は俺の代わりにここに居ろ、アルを届けたら直ぐに戻って来るから心配するな」


 話しながら馬で駆け出して行った。

 グレタはその間にも何度もアルに声を届けたが。

 アルからの返事は一度も帰って来なかった。


 隊舎の辿り着いたライルは急いで回復薬を掛け、呼吸が落ち着いたと確認すると、マグロフ小隊長に報告をしてからグレタの所に戻って行く。


 俺が目を覚ますと、グレタが椅子に座ったまま眠っているのが見えた。


「グレタ……ぐがっ」


 俺の額に強烈な一撃が飛んでくる。

 久し振りに感じる殴られた痛みだ。


「君は約束を破ったようだね、どこまでレバーを上げたんだ」


 いつの間にか現れたレオニダスが俺に拳を落としたようだ。

 もう一度殴られ、痛みで涙を浮かべながら正直に俺がした事を話した。 

 俺がレオニダスに報告をしているとグレタも目を覚まし、俺の話に補足を付け加えてくれた。


「君は五日間眠り続けていたが、身体の具合はどうなんだ」


「軽く痛みがありますね、スキルが作用していない証拠だと思いますが」


「そうか、これから私達は学校に戻るが、君はスキルが正常に戻る迄は此処に居なさい。いいかね、全速力で走って帰って来れる状態になるまで休むんよ」


 ひと睨みを俺にいた後でレオニダスはグレタを連れて部屋から出て行った。


(ごめんね、看病したかったけど先に帰っているね、もう無理しちゃ駄目だよ)


(心配かけてすまなかったな、助けてくれてありがとう、また学校で)


 二人の姿が完全に消えた後で自分のスキルについて真剣に考えてみた。まず一つ目は強化で間違いは無いだろう。

 それに二つ目は剣の間合いの伸ばすだけか、もしかしたら練習をすれば斬撃を飛ばせる可能性もある。

 そしてレバーの三つ目と四つ目が治癒と加速だと推測する。


 頭に浮かんだ数字については一つ目は使用回数で間違いは無いと思うが、二つ目の意味が分からない。

 結局完全に理解出来たのは一つ目だけしか判明していない事になる。

 考えているとバルテルが部屋の中に入って来た。


「お前な、自分の身体を少しは気にしろよ」


 今度は脳天に拳を振り下ろしてきた。

 やはりスキルは作用せずにその重い痛みが脳天から降りててくる。

 普段は痛みを感じない為、余計痛みを強く感じてしまう。


「すみませんでした。ただ今だと殴られる痛みを感じてしまうので、また今度にして欲しいのですが」


「知っているから殴ったんだよ、お前は自分のスキルに固執しすぎだ。まだ授かってから半年ぐらいだろ、慌てても仕方がないだろうが、慎重にやらないともっと酷い事になってしまうぞ」


 更にもう一発くらってしまい。目の端から涙がこぼれてくる。


「慎重にしたいのですが、スキルのせいか恐怖心が俺には無いんですよ、だから自分のスキルの限界を気にしなくなってしまうんですよね」


「魔法使いは自分の魔力の限界は感覚で分かるらしいが、お前のスキルだと意外と難儀だな、そこまで分かっているなら余計に慎重にならないと駄目じゃ無いか。いいか貯め込んだ苦痛を使うたびに使い切って動けなくなるようじゃ。何時か死んでしまうぞ」


 その言葉は今の俺の心臓を冷たくするには十分だった。

 俺は今までに何回か力を使い切って動けなくなってしまったが、その時はいつも誰かが近くに居てくれた。

 もし仮に一人だけの時に力を使い切ってしまったら俺はどうなってしまうのか、簡単に想像をする事が出来た。


 俺はレバーの秘密ばかりに気を取られていたが、頭に浮かぶ数字の秘密も並行して突き止めていかないといけないと思う。


「何だか自分のスキルが怖くなってきましたよ」


「それは良い事だぞ、だったらスキルが元に戻ってもその感情は忘れないようにしろよ」


 それから一週間程休んでいると、痛みは全く感じなくなってきたので、ホッとする反面なんとも言えない感情が蠢いている様な気がするが、それは頭の中の想像でしか無いのかも知れない。


 マグロフ小隊長にスキルが完全に戻った事を報告してから、お世話になった部屋を片付けているとそこにバルテルが入って来た。


「もう明日帰るんだってな、その前にちょっと話せるか」


「勿論、大丈夫ですが」


 珍しく真顔なバルテルに連れられて村の外れに向かって行く。

 人目を避けるようなので何を言われるのか気になるが、黙ってバルテルの後ろに付いて行った。


 暫く進むと椅子のような切り株に座らされバルテルはようやく重い口を開いた。


「この前は二人で話す暇が無かったからな、本当は一つだけ注意したい事があったんだ」


 バルテルの話は、俺のスキルは世間一般的には期待外れのスキルだと思われていて、それなのに祖父や有力者であるレオニダスにも優遇されているように見えるらしく、妬んでいる者がいるという事だ。


 実際にこの村の兵士の間にもその事は俺が来る前に話題に上がったらしいのだが、マグロフはそのことを口にする事は一切許さず、勿論、俺の耳には届いていない。


 ただし俺が変異種のオークを倒した事を聞いて、妬んでいた兵士もその事を口にすることはしなくなったらしい。


 この先も祖父やレオニダスは俺の為に権力を使う可能性があるとすれば、それなりの悪意を向けられる可能性がある事を覚えていて欲しいとの事だった。


「まぁ大丈夫ですよ、どんなに悪意を向けられたとしても、僕の心には届きませんから」


「そういやそうか」


 バルテルは、俺の答えが面白かったのか、腹を抱えて笑い出した。

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