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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十五話 グレタ覚醒

 ゆっくりと進んで行くと、いきなりグレタの叫んでいる様な声が響いて来た。


(アル、逃げて)


 その声を聞いた途端に俺は走り出す。

 少ししてから走るのを止めて目隠しを外すと、そこにはグレタの背中をさすっているバルテルがいた。


「アル、グレタの勘違いだよ、グレタには変異種の様に見えてしまったようだが、あそこにいるのは普通のオークでしかない」


 オークは俺の行動に全く気が付いていないようで、水を飲み終わると去って行ってしまった。


「ごめんなさい。少し動揺してしまいました」


 グレタは四体のオークの他に岩陰から現れた少しだけ身体の大きなオークを見て、あの時の事を思い出してしまったらしい。

 余程あの時の匂いが嫌だったのだろうか。


「それにしても勢いよく帰って来たものだな、お前こそ何かあったのか」


「よく分からないんですが、グレタの声が聞こえた瞬間に俺の意思とは関係なく走り出したような気がします」


 バルテルは俺の言葉を聞くと何かを考え込んでいる。

 そしてグレタが落ち着きを取り戻すと、グレタに真顔で話し掛けた。


「さっきの声は俺には届かなかったんだが、その時の状況を思い出してごらん。いつもと違う感覚は無かったかい」


 グレタは暫く考え込んでいるようだが、どうやらピンと来ていない様だ。


「やはり、さっきはただアルに逃げて欲しいと強く思っただけの様に思います」


「そうか、なら今から俺がアルに攻撃をするから避けさせることだけを強く思うんだ」


 俺はまたしても目隠しをされ、ただ立たされた。


「グレタいいかい、俺は本気でアルに打ち込むからね、この前の最後の変異種よりも強く打ち込むから、避けさせないとアルは怪我をしてしまうぞ」


 俺の意思はここには無い。

 完全に人形の役目をさせるようだ。怪我はしたくないがグレタの為に諦めるしかない。


「行くぞ」


 少し離れた場所からバルテルの声が聞こえて来たので、間合いをとってから打ち込んでくるようだ。

 本気と言うのは嘘であって欲しい。


「右……」


 一言目が聞こえて来たと同時に俺の身体は動いた。ただ変な感じなのは勝手に動かされている。

 その後も右や左に俺の身体は動くが特に衝撃を感じないので、上手い事避けているのだろう。

 たまに頬に剣の風圧を感じるのでバルテルは一切の手加減をしていないのが分かる。


「いいよ、目隠しを外しても」


 俺の目の前には地面に膝をついて息を切らしているバルテルがいて、グレタは少し離れたここから出も分かる位に目を大きく開けて驚いているようだ。


「どうかしましたか、これは成功なのですかね」


 バルテルは何も言わず、ただ顎でグレタを指した。


「凄いよ、アルが私のイメージ通りに動くんだよ、私が言葉にしていないのにだよ」


 グレタは最初、相手の動きを見てから言葉にしていた。

 その内に相手の動きを予測してから言葉に出すようにしたのだが、それでも遅くなってしまうので攻撃を避ける事は出来なかったのだが、今はまるで本当に操り人形のように俺を動かす事が出来たらしい。


 調子に乗ったグレタは直ぐに俺を動かそうとするが、俺は全く反応しなかった。

 再び目隠しをして俺を歩かせようとしたらしいのだが、俺の身体は全く反応しない。


「ただイメージするだけでは動かせない様だな、グレタはさっきの感覚を思い出しながらやってみようか、ほらっあそこを見てごらん、丁度いい具合にポイズンウルフが出て来たぞ、アルに毒が効くのか知らないが、もし効いたら死んでしまうかもな」


 痺れる程度の毒なら試したので効かない事は証明済みだが、普通の人が死んでしまうような毒は試したことが無い。

 バルテルは一体何を考えているか分からないが、俺を人間扱いしていないのは確かだ。


 俺に恐怖心がまだあるのなら文句の一つでも言うのだが、今は俺の心は落ち着いてしまっている。

 普通の人間ではない様な気がして悲しくなってくる。


 俺の気持ちや考えはどうせ聞いてくれないので、再び目隠しをする。ただ何も考えないでいると俺の身体は動き出し、横薙ぎに剣を払ったようで感触だけが伝わって来る。

 直ぐに後ろに振り向いて今度は斜め上から剣を振り下ろしたり、まるで踊っているかのように身体が動き出す。


 何とも言えない感覚だが、少しだけ抵抗したらどうなるか試したくなった。

 すると身体は動く事を止めて、肩口に生臭い息が漂ってくる。どうやら一匹が俺の肩に噛みついている様だ。


(どうしたの、動かなくなっちゃたんだけど、壊れたのかな)


(俺はおもちゃじゃないんだけどな)


(ごめんなさい、思わず言っちゃった)


(………………)


 俺もグレタも思わず考えが止まってしまった。

 俺の考えたことにグレタが反応したからだ。

 今迄ならグレタの声は聞こえるが、此方の声はグレタのには聞こえない。


(グレタ聞こえるかい)


(………………)


 反応はしない。



(ねぇさっきのは凄くない、会話が出来たんだよ)


(どう、今は聞こえているか)


(もちろんだよ、良く聞こえるよ)


(その前に声を掛けたが、その時は答えなかったんだよな、何にか条件がありそうだな)


(それよりも、早く退治しないと不味いんじゃないの)


 再び俺は抵抗することを止め、グレタの思うように身体を操らせた。

 すっかり毒の事を忘れていたが、多少身体の中に痺れは感じるが、どうやら致死量の毒でも俺の身体にはその程度しか効かないらしい。 


 それから一週間ほどは兵士達にも協力してもらってグレタに身体を操らせてもらった。

 そこで分かった事は操れれると分かっていると、グレタのスキルは作用しないが、意識していなければ少しの動作なら操れる事ができた。最も操られるのを前提とするのであればいくらでもグレタの思いのままだ。


「最初は便利だと思ったけど、いまいちだね、心も読めるようになったかと思ったけど、私の質問の答えしか聞こえないしさ、つまんないな」


 グレタはこのスキルの効果に不満のようだが、使い方によってはかなり有効なスキルだと思う。




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