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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十四話 煮詰まるグレタ

 一日の訓練が終わるたびに反省会を開いて対策を練るが、それでも進展しているとは到底思えない。

 魔獣を倒すどころか傷一つ負わす事が出来ていない。


「レオニダス様はかなり難しい事を要求しているな、ずっと見てきたがこのままでは駄目だと思う。どうせアルには何も効かないのだから防御は捨てて倒す事に専念したらどうだ」


 帰り道に小隊長のマグロフはとうとう俺の身を心配する事を止めた様だ。


「そうすると楽にはなるのですが、どう指示をしたらアルが早く動いてくれるのでしょうか」


 グレタも俺の事を人形だと思い始めているらしい。


「そうだな、だったら攻撃のパターンを絞ればいいんじゃないか、そうだよ、振り下ろすだけにしよう。それだったら反応が悪いアルも早く動くんじゃないか」


 どうやら魔獣に攻撃が当たらないのが俺のせいになっているらしい。

 これがグレタではなくテオであったのなら殴ってやりたいが、今は我慢するしかない。


 翌日の狩りの対象はビッグボアになりそうだ。

 運良くその群れが水辺に集まっている。

 ビッグボアは四足歩行のしっかりとした牙を持った魔獣でその牙を攻撃に使ってくるのが特徴だ。


 奴らの攻撃の仕方は単調なので振り下ろすだけで何とかなりそうな気がする。

 マグロフが見守る中で俺は準備を始めた。


(真っすぐに進んで……止まって)


 今では歩くだけならスムーズに移動する事が出来る様にはなっている。


(構えて、三頭来るよ)


 ビックボアが走って来る音がどんどん近づいてくる。


(正面)


 言葉と同時に剣を振り下ろすが、それでも駄目だったようで俺の腹に衝撃を感じて後方に弾き飛ばされてしまう。

 急いで立ち上がろうとするが各方向から体当たりを食らってしまい、まともに起き上がる事すら出来ずにいる。

 このままでは何も変わらないが何とかしたいと、強く願った途端に俺は部屋の中に居た。


 部屋の中では勿論目隠しをしている訳では無いので、置かれている現状をようやく理解する事が出来た。

 既にビッグボアは三頭だけではなくてすっかりと群れの中に入っていて、囲まれてしまっている。


「ねぇ早く上げたら」


 例の声が聞こえてくるが、今日の俺はスキルを使う訳にはいかない。


「しょうがないんだよ、元の世界にこのまま戻してくれないか」


 すると目の前が暗くなってきた。

 どうやら現実の世界に戻されたようだ。

 俺が何かを強く願うと部屋に入れるのかも知れないと思い、もう一度願うが部屋の中に戻る事は無かった。


(今なら立ち上がれそうだよ)


 グレタの声に答えるように立ち上がり、大きく手を振った。


(じゃあ、そのまま後ろに全力で走って、もう一度立て直したいんだ)


 俺は剣を滅茶苦茶に振りながら駆け出した。

 何度か体当たりを食らったようだが、いつの間にか群れの中から脱出する事に成功したようだ。


(止まったら直ぐに振り向いて)


 またしても足音が近寄って来る。


(今)


 力まかせに剣を振り下ろすとようやくまともな手ごたえを感じる事が出来た。

 それからもビッグボアの攻撃を食らってしまったが、奴らが諦めて退散するまでに二体を仕留める事に成功した。


 この調子ならその内に無傷で魔獣を倒す事が出来るかもと思われたが、無傷となると中々上手くいかないまま日数だけが過ぎていく。


「何だかな、お前らは凄い事をしていると思うが、課題の合格には遠いな、これは本当に出来るのか」


 この日の付き添いで来てくれたマグロフは遠慮の無い意見を言ってくる。

 薄々気が付いてはいるのだが、このままで本当に課題をクリアする事は出来るのだろうか。

 俺以外の人間を操り人形の様にしたら命がいくつあっても足りない。


「この訓練は一体何の意味があるんですかね、全て言葉通りに動かなくてもいいと思うのですが」


 実際に目が見えている状態ならば死角に入らない限り自分で判断して行動すると思う。

 何もかもグレタの指示に従うとどうしてもこうなってしまうのは避けられない様な気がしてきた。

 グレタもそれを感じているの項垂れてしまっている。


 いつも以上に深刻な雰囲気になってしまって、マグロフは耐え切れなくなったのか無理やり笑顔を浮かべ、陽気なふりをしてきた。


「レオニダス様にはちゃんと考えがあると思うぞ、それにな今やっている事は無駄にはならないんじゃないか、もう一つだけ言うとこの課題がクリア出来なくても学校の中間休みが終わるころには戻るように言われているんだ。まぁ休みが消えてしまうのは学生のお前らには可哀そうだが、終わりが決まっているんだからもうひと踏ん張りしてみろよ」


 終わりが決まっている事は知らなかったが、だからと言ってこのまま時間を無駄にしていい訳は無かった。

 尚更この課題を成功させて学校に戻りたいとグレタは目に涙をためながら言ってきたので、俺はその気持ちに答えようと必死に二人で話し合った。


 だが事はそんなに上手くいくはずもなく、何の対応も思いつかないまま翌日を迎えてしまう。


 その日、いつもの場所に姿を見せたのは四体のオークだった。

 この間のような変異種ではないので別に恐れる必要は全く無いのだが、どうやらグレタは必要以上に緊張しているようだ。


「大丈夫か、そんなに緊張しなくても平気だよ、あいつらは普通のオークなんだ。いい練習台になって貰おうぜ」


 俺は布でいつものように準備を始める。

 グレタの異様な緊張に気が付いたバルテルはグレタの肩をそっと叩いた。


「あいつらは倒しても食べられないからって遠慮はするなよ、野放しには出来ないからな」


(真っすぐ進んで)


 足を大きく上げながら真っすぐにオークに向かって行く。

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