第二十三話 グレタの訓練
レオニダスは馬に乗り俺達を先導している。
俺とグレタはいつものように走らされたいた。
(ごめんなさい。私のせいでアルまでこんな目に合わせてしまって)
グレタの声が頭の中に直接話し掛けてくる。
「気にしなくていいよ、どうせ実家に帰ったら面倒な事に巻き込まれそうだからな」
(元から伯爵家なんだから、そんなに変わらないんじゃないの、社交界に参加しても恥をかかないようにダンスを教えてあげようか)
「止めてくれよ、逃げ出したくなってくるよ」
レオニダスが急に馬を止めて振り返る。
「何だね、アルはここから逃げるつもりなのかな」
「違います。グレタとの会話の会話の流れですよ」
グレタは声に出すと疲れてしまうのでずっとスキルで話し掛けていたが、俺の声は聞こえない為、俺だけ声に出していたのが勘違いをうんだようだ。
グレタのせいでもあるのに当の本人は笑っている。
先程まで暗い顔をしていたのだが、今の様に笑っていて欲しい。
小高い丘の上が目的地だったようで、レオニダスは馬から降りて周囲を気にし始めた。
何を探しているのか分からなかったが、小川で水を飲んでいるリーフベアを発見するとレオニダスは笑顔を見せた。
「中々いい獲物がいたな、最初にしてはいいんじゃないか」
何の練習をするのか分からないが、グレタが相手をするには重荷のように思えてしまう。
「ああ見えて動きは速いから十分注意した方がいい。危なそうなら俺が助けにいくから落ち着くんだよ」
グレタは震えながらも必死に弓を握っている。
そんなに力んでしまったら目の前にいたとしても外してしまうだろう。
どうやってグレタを落ち着かせようと考えていると、レオニダスは俺に布を渡してきた。
「何を意味が分からんアドバイスをしているのだね、いいから君はさっさと目隠しをしなさい」
嫌な予感しかしないが、言われるがままに目隠しをすると、俺の予想は当たったようだ。
「さぁグレタはスキルを使ってアルを動かすんだ。私にも理解出来るように言葉を届けてくれよ」
俺の役目はグレタの護衛ではなくて操り人形になる事だったらしい。
確かに俺なら恐怖心はないし、あの程度の魔獣の攻撃は効かないからいいとは思うが、このやり方は人として間違っている様に思ってしまう。
(アル、真っすぐに進んで行って)
「いちいち名前を呼ばなくてよろしい。動かすのはアルしかいないんだから」
グレタの声にレオニダスが直ぐに反応して注意を促した。
俺は言われるがままに歩き始めるが、直ぐにくぼみに足を取られて転んでしまう。
(ごめん、それも伝えなければいけないんだよね)
「いちいち謝らなくてよろしい」
こんな事で本当に狩りが出来るのだろうか、それにこんな遅さでは水を飲み終えたリーフベアは何処かに行ってしまうと思う。
一歩ずつ進んで行くが全く視界が奪われている為に、何処まで近づいているのか分からない。
その時、何か首に掛けられた。
「すまん、これを忘れていたよ、これがないと意味が無いからな」
レオニダスの声がしたと思ったら直ぐに去って行ってしまったようだ。
首の周囲からは血なまぐさい匂いが漂ってきているので、レオニダスが俺の首に掛けたものはある程度想像する事が出来た。
本当に俺は人間扱いされていないようだ。
(正面から来るよ、構えて)
リーフベアの足音だろうか、思い音が前から迫って来るのが感じられる。指示通りに剣を構えるがこれで大丈夫なのだろうか。
(右、避けて)
指示通りに動いてみるが、その動いた方から衝撃が襲って来た。
直ぐに浮遊感が感じられ、俺の身体は回転している様に思える。
そして俺は頭から地面に叩きつけられたようだ。
(起き上がって剣を……)
起き上がろうとするがリーフベアは俺の首に後ろから噛みついてきたようで、何だか首か痒くなってきている。
その後もグレタの指示通りに動いたつもりだが、言葉を理解してから動くと当然ながら後手に回ってしまうのでいい所が一つもなくただただやられ放題だ。
何度噛みついてもリーフベアの歯は俺の身体に食い込む事は無く、何度張りてを食らわせても立ち上がってくる俺を不気味に感じたのか、リーフベアは俺をエサにする事を諦め去って行ってしまったようだ。
(もう目隠しを外してもいいって)
俺が目隠しを外すとグラスラビットの脚だけが首に掛けられていた。
この小さな獲物だけは食べる事が出来たのかその血は俺の身体に掛かってしまっている。
目の前にあり小川でそのこびり付いた血を落としてから戻ると、グレタはまたしても落ち込んでいる様だ。
「グレタ、何を落ち込んでいるんだよ、こんなの最初から上手くいく訳ないだろ。俺はこの通り無傷なんだから気にしなくていいよ」
「そうじゃ、だからアルという人形がいるのだからな」
とうとうレオニダスは聞きたくない事をあっさりと言ってくれた。
やはり俺の事を都合のいい人形扱いした事がよく分かった。
初めて会った時に感じた印象など全て忘れてしまいたい。
「いかね、このように魔獣を発見して狩りをするんだ。人形がアルじゃ無いとしても無傷で魔獣を狩れるようになるまで戻って来なくていいからね、君を守るために誰かが付き添ってくれるから君は人形を動かす事だけに集中するんだよ」
とうとう俺の事を人形だと言い切ったレオニダスは、馬に跨ってそのまま帰ってしまった。
一応俺は勇者の孫であり、勇者の子であり、宰相の孫という称号も加わったのはずなのだが、それに対する遠慮はレオニダスには全くないようだ。
次の日からはマグロフ達の中から誰か一人が付いて来てくれたのだが、一週間過ぎても俺の服がボロボロになるだけで、何も進展はしなかった。