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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十一話 帰還

 俺達の所にようやくマグロフ達がやって来た。


「大丈夫か、本当はもっと早く駆け付けたかったが、ユナ君にずっと止められていてな」


 テオは俺から離れマグロフ達の方へ向かってゆく。


「これで俺達の留年は無くなりましたよね」


「あぁそれどころか中間休みも貰えるんじゃないか、まぁ確かな事は言えないがな」


 何で俺の事を助けようともせずに和やかな雰囲気で話していられるんだろう、俺の鼻は匂いを感じてはいないので、もしかしたら強烈な匂いが漂っているのか、それにしてもこの状況はあんまりではないか。


「あの、俺は身体が言う事を効かないので助けて貰えないですか、せめてもう少し死体から離れたいのですが」


 俺は丁寧にお願いしているはずなのだが、一向に俺に近寄って来る事は無い。

 するとマグロフが哀れみの表情を浮かべながらほんの少しだけ寄って来た。


「もう危険は全く無いんだ。だからさぁディアナが降りてくるまで、もうちょっとだけ我慢してくれないかな」


「隊長、見つけてきました。彼の身体を綺麗にしたらこの服に着替えさせた方がいいですね」


 兵士のドナートが薄汚い服をマグロフに見せている。

 もしかしたらそんな服を俺に着させるつもりなのだろうか、そんな小汚い服は着たくはないので文句を言いたかったが、もう喉からはまともな声が出て来ない。


「うわぁ、何なのよこの匂いは」


 ユナが一番乗りで降りてきたが、俺の方を見るなり凄く汚らわしい物でも見るかのような嫌な視線を送って来る。

 その次に降りて来たグレタは俺に歩み寄ろうとは一度はしたもののそれ以上は近寄ってこない。


「ごめんね、もうすぐディアナが降りてくるからそのまま待っていて」


 オークに対する感情以上に怒りが沸いて来た。

 だがどうする事も出来ず、最後の綱であるディアナを待つが中々降りてこない。

 やはりユナ達とディアナでは基礎体力に差が出ているのだろう。


 暫く待っていると、息を切らしたディアナがようやく姿を見せてくれる。

 直ぐに俺の姿と遠巻きに見ているテオ達を見て怒りをあらわにしながら近づいて行った。


「ねぇ何してんの、アルをあのままにしていい訳無いでしょ、それにマグロフさん達も兵士のくせに何をしているんですか」


 ディアナはオークの死体を魔法で吹き飛ばし、俺の身体を魔法で洗い流してくれる。

 時間が経っていた為に返り血を洗い落とすのに時間は掛かったが、その全てをディアナが一人でやり、終わった後には回復魔法も掛けてくれ、ようやく一人で立ち上がる事が出来た。


 俺が回復するのと反比例してディアナは、息を切らし、大量の汗を流しながら膝をついてしまう。


「大丈夫かディアナ、ありがとうな、ディアナだけだよ助けてくれたのは」


「まぁそう嫌味を言うなよ、お前が腹をえぐるから凄まじい匂いが出たんじゃないか、悪いけどあんな匂いに耐えられる奴は中々いないよ、それにしても何をしたらこうなったんだ」


 テオは俺の肩を叩きながら言ってくるが、俺はまだムカついている。


「お前は見ていなかったのかよ」


「そんな訳ないだろ、何時でも助太刀出来るように準備はしていたさ」


 テオにとっては槍や腕は砕けるは、オークの顔は吹き飛んだりするのでその破壊力に驚いたらしい。

 何故いきなり強くなってのか分からずその理由が知りたかったようだ。   

 しかしバルテルはその話を遮るように言ってきた。


「まぁその話は此処を離れてからでいいじゃ無いか、それよりアル君はこれに着替えてくれよ」


 俺の服にはオークの血がしみ込んでいるので、乾いて来るとまたあの匂いが強くなるのが嫌だったのだろう。

 嫌がる俺を無視して誰か着たかも分からない服に着替えさせられてしまった。


 その服のセンスは誰が見ても盗賊の姿になってしまい。

 一人で歩いていたら要らぬ誤解を生んでしまいそうだ。


 山道を下り始めるとバルテルはテオに目配せをしたので、やはり先程の話の続きが知りたいのだろう。


「あれは俺のスキルの効果だよ、それでもずっと使える訳ではない様だし、まだ完全にスキルの秘密は知らないんだ」


 それしか言いようがない。

 スキルが話し掛けて来た事を思い出したのでバルテルに話すと、怪訝な表情を浮かべる。


「スキルと会話したのか、おいおい頭を強く打ったせいじゃないよな」


「知りませんよ、それに会話ではなくて一方的に向こうが話すだけです」


「そんな事は聞いたこともないな」


 その日もマグロフ達だけで野営の見張りをしてくれると言ってきたが、ユナ達はその申し出を断った。

 討伐に関しては何もしていないと思っているのだろう。

 俺もテオのそんな事は決して思ってはいなく、いいサポートをしてくれたと思っているのだが。


 結局、俺達も見張りをすることになり、俺と一緒に担当するのは見張り初体験のディアナだ。

 俺達は真夜中に順番が来て二人で周囲を警戒する。


 別に見張りなどはなんて事の無い作業の一つだが、魔法課のディアナにとっては初めての経験らしく、先程から聞こえる微かな音にも敏感に反応している。


「夜行性の魔獣は多いからね、けど奴らは火にはあまり寄って来ないからそこまで警戒しなくても平気だよ」


「それは分かっているんだけどさ、アルは怖くは無いの、それともスキルが作用しているの」


「どうだろうな、幼い頃に父親と森の中で過ごした事もあるからな、数少ない父との思いでだから、何か懐かしくていいんだよ」


 アルの口から初めて父親である勇者ベンノの話が出たので、もっと聞きたくなってしまったが、あまり深入りしてはいけない様な気がして軽く聞き流す事をディアナは選んだ。


「それなら、怖くないかもね」


 無難な返事だと信じて立ち上がる。

 ディアナは横目でアルの表情を見たが、その顔は寂しそうに見えるがそれが本当なのかは判断がつかない。

 そんなアルの表情に胸が少し騒めいた。


 翌朝になりムスタホ村までの道のりは順調そのもので、まるで散歩でもしているかのような感覚に陥るが、村の外観が見えた時にユナが震えだす。


「何かおかしいです。殺気とは違いますが村に危険を感じるよ」


 マグロフ達は一斉に剣を抜きゆっくりと進んで行くと、確かにいるはずの門番の姿が見えない。

 慎重に村の中に入って行くと、道の向こうから機嫌がすこぶる悪そうなレオニダスが歩いて来る。


「君達は何をやっているんだ。ゆっくり歩いて帰って来ていいかは分からないのかな。マグロフ、君達もだよ、これは訓練だと言ったはずなんだがね」


 ユナのスキルはやはり正常に働いていた。

 だがディアナには伝わっていなく普通にレオニダスに話し掛けてしまった。


「先生、無事に討伐は終わりますので、中間休みを貰ってもいいですよね」


 一年で僅か二回しかない実家に帰るチャンスなので、どうしてもディアナは逃したくは無いようだが、レオニダスは怖い笑みを浮かべながら答える。


「内容次第に決まっているだろう」

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