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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第二十話 VSオークキング

 俺は必死に目の前のオークの足首を両手で掴み力を込める。

 その間にも幾度となくメイスで後頭部を叩かれるが気にしない。

 そしてオークの足首を持ちながら立ち上がると今度はオークが地面に仰向けになって倒れた。

 すぐさまそのオークに跨って何度も渾身の力で拳を顔目掛けて落としていった。


(テオ、そこから離れて、出てくるよ)


 洞窟から飛び出してきたオークはそれまでの変異種より更に大きく、そいつはテオと交戦していたオークに噛みついて咀嚼し始めた。

 余りにも異様な光景にテオは静かに後ずさりをしている。


 そのオークは顔から胸の部分までを食べ終わると、残忍な笑みを浮かべながらメイスを片手にアルの方を見た。

 アルは見られている事に気が付かないで未だに素手でオークを殴りつけている。


(アル、もうそいつはいいから前を見て)


 オークの息の根を止めているとグレタの声が届いたので顔を上げた。

 俺の数m先にはメイスを振りかぶっているオークの姿が見える。

 次の瞬間にはひりつくような感覚が襲って来たので慌てて両手を顔の前で交差して守るが、オークの投げたメイスは俺の顔では無く、みぞおちの辺りに綺麗にぶつかって俺の身体は後方に吹き飛ばされた。


 息を吸う事も出来ず、痛みと共に体の中にある全ての物を吐き出してしまい。身動き一つ動く事が出来ない。


(アル、避けて)


 聞こえてはいるのだが、顔しか上げる事の出来ない俺にそのオークは低い姿勢で体当たりをしてくる。

 俺の身体は重力が存在していないかのように弾き飛ばされ、背後にあった納屋に壁を突き破りながら入ってしまう。

 納屋の中央付近にある柱を折りながら俺の身体は止まったが、そこに屋根が崩れてきて身体の半分以上が瓦礫に埋もれてしまった。


 埃の先に見えるオークの顔は完全に楽しんでいるようで、俺の様子を笑いながら見ている。

 俺は力を振り絞って身体に纏わりついている瓦礫をどかし始めた。


(もう動かないでいいよ、今から助けに行くからそこに居て)


 その声に反発したのかテオが背後からオークに迫って行く。

 足音は全く聞こえていないし、完全にオークの死角に入っているはずなのだが、テオの攻撃が当たる瞬間に振り向いて、テオの頭を掴むと、力まかせに地面に叩きつけられる。

 更にオークはテオの頭を踏みつけようとするが転がるように躱しながら立ち上がった。


 しかし立ち上がるので精一杯だったテオは、その後のオークの蹴りには対処が出来ずに、俺の隣迄吹き飛んできた。


 運良くテオの身体で俺を押さえつけていた瓦礫が退かされ、ようやく俺の身体は自由を手に入れる事に成功する。

 確実に何処か怪我をしているが、痛みの感覚が消えた俺は立ち上がりオークに向かって走り出す、それと同時にオークは足元に落ちていた槍を拾い上げ、その手を大きく後ろへと逸らしていく。


 恐怖が身体を突き抜けると、ようやくこの前と同じように俺の中の部屋に入る事が出来た。

 直ぐに近くにあったレバーを持ち上げようとするが、何かで張り付いているのか、全く持ち上がる気配すらない。


「そこからは無理だよ、ちゃんと左から上げて行かないとね」


 その声はグレタの声と同じように頭の中に直接響いて来る。


(まてよ、頭の中に居る俺の頭の中に響くとは、一体此処は……いかん)


 思わず余計な事を考えてしまったが、頭を振って余計な考えを振り払いながら言われるがままにそのレバーを上げる。

 この前より少し重く感じ、もう一つのレバーも上げようとするもレバーはさらに重くなって中々上げる事が出来ない。


「無理だって、その段階じゃないからね」


「どういう事だ、ちゃんと説明してくれないか」


 俺の質問に答える気はないようで、そればかりか俺は部屋から追い出されたように感じ、現実の世界に戻って行くようだ。


「何でだよ」


 俺が思わず叫んでしまったとほぼ同時に視界は完全に元通りになって、頭の片隅に数字が浮かんでいる。


 四。


 オークから放たれた槍が俺を目掛けて迫って来る。

 この間とは感覚が違っていて、オークが投げた槍は一切スピードが遅くなっているように思えない。

 避ける事が出来ずにその槍は俺の右頬に当たったように思えるが、その槍は俺を頬を突き抜けるどころか、触れた部分から槍は崩れ去って行く。


 三。


 俺の身体はいつも以上に頑丈なっただけなのかも知れないが、そのままオークに向かって走り出した。

 オークは驚いたような顔をしたが、直ぐに口角の端を持ち上げて残忍な顔をしながら俺を迎え撃つようだ。


 オークの射程距離に入った途端にオークはその太すぎる腕を、俺の顔目掛けて振り下ろそうとする。

 俺は避ける事は諦め力まかせに殴ろうと腕を伸ばした。


 先にオークの拳が俺の顔に当たったが、その腕は波を打つように歪み始め、骨という骨が全て砕けてしまったようだ。


 二。


 俺の拳は下から突き上げるような形でオークの顎下に入ったが、何の抵抗も感じないまま吸いこまれて行くようにオークの顔を突き抜けていった。


 一。


 顔の半分以上を失ってしまったオークは大量の血を俺に浴びせながら寄りかかって来るように倒れてくる。

 思わず片手で払いのけようとしたが、その手はまたしてもオークの身体を突き抜けて手の形にえぐるようになってしまう。


 零。


 急に体の力が抜けてしまい両膝をついてしまうが、身体に痛みが走る訳でもなく、ただ動けなくなってしまっているだけだ。

 そのせいでずっとオークから流れてくる血を身体全体で受け止めているが、俺にはどうする事も出来ない。


「アル、大丈夫か……もう少しそのままでいてくれ」


 姿は見えないがテオが後ろから声を掛けて来た。

 このままで良い訳が無いのだから助けて欲しい。

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