第十九話 VS変異種オーク
俺達は再び山道を進んで行く、盗賊が今迄使っていたせいか意外としっかりした道になっていて、山の中とは思えない程歩きやすくなっている。
「ねぇ、本当にどこも怪我していないの、遠慮なんかしなくていいんだからね」
先程の返り血の中に俺自身の血が混ざっていると思っているのか、ディアナがしきりと心配してくる。
「テオに身体の隅々まで確認してもらったから大丈夫だよ」
見えない所の怪我は痛みを感じない俺にとっては危険な事なので、時間をかけてテオに診て貰ったのでその心配はない。
盗賊の元アジトまではまだ時間が掛かってしまう為、暗くなる前に野営をすることにした。
「じゃあ、俺とユナで何か捕まえてくるよ、その間に準備しておいてくれよ」
早速二人は森の中に消えて行った。
その後ろ姿を見送りながらディアナはそっとグレタに近づいた。
「ねぇ、あの二人は良い感じじゃない。もしかして付き合っているのかな」
「スキルの相性がいいだけだよ、テオはユナに気があるけど、ユナはそうでもないからね」
「えっそうなのか」
俺はテオの気持ちを知っているので、前から応援していたがユナにその気が無い事は気づかなかった。
「アルはまだまだお子様だね」
グレタは軽く笑い出した。ディアナも一緒になって笑っているが、突然その笑顔が消えた。
「そういえば小隊長達の姿が見えないんだけど、どうしたのかな、もしかして私達だけしかいないのかな」
「ちゃんと後ろにいるよ」
ユナがいつの間にかに戻ってきてディアナに答えた。
テオは相変わらず早くも獲物を捕らえたようで、その手にはリーフラビットが三羽ぶら下がっている。
素早くそれを調理して、食事を堪能していると久し振りにマグロフが近寄って来た。
「これから君達は見張りに立たなくていいから休みなさい。野営を手伝ってはいけないとは指示が出ていないから、これぐらいは大人の俺達にやらせてくれ」
「本当にいいのですか」
俺達は何が正解か分からずにいると、マグロフは笑顔を見せて来た。
「心配しなくても大丈夫だよ。しいて言えばこれは私からの命令だよ」
マグロフの命令に喜んで従い、見張りに立つ事はなく朝までゆっくり眠らせてもらった。
翌朝になると空一面にたそがれ色の雲が広がっていて何やら不気味な雰囲気が漂ってくる。
不安を感じながら進んで行くと、ユナが突然立ち止まった。
「みんな、一度集まってくれる」
ユナを中心とした円形になって集合すると、ユナから緊張が伝わってくるようだ。
「この先に確実にいるよ、だから二手に別れたいけどいいかな」
ユナ達サポート組は元アジトが見渡せる高台を目指してそこからグレタを通して指示を出す事にし、俺とテオはバレない距離まで森に隠れながら近づいて指示を待つことにした。
じりじりとした蒸し暑さを身体全体で感じながらテオの後ろを付いて行く。
テオは俺の為に道を作りながら進んでくれるので、俺達は音を立てずに元アジトの下に無事に辿り着く事が出来た。
(聞こえるかな、やはりオークはそこにいるよ、洞窟の中に五体とその前に三体でそれ以外は感じられないってさ)
グレタの声が頭に響き、俺とテオはグレタの指示に従って別れて突入する事が決まった。
目にしたオークはやはり変異種のようでどの個体も身体の大きさが通常よりも一回り以上大きい。
グレタの指示で周囲を警戒している一体にテオが後ろから近づいて心臓を一突きにした。
俺は木の影に隠れて、こちらに歩いて来るそいつを仕留める為に息をひそめている。
更にテオはもう一体に攻撃を仕掛けたようだが、そのオークは叫び声を上げてしまった。
(洞窟から出てくるから、アルは今すぐそいつを倒して)
グレタの声を聞きながら俺の近くまできていたオークの前に飛び出して直ぐに首を刎ねる。
(アルはテオの方へ)
血を流しながらもオークは棍棒を振り回し、それを必死にテオが躱しているのが見える。
俺は後ろからオークに剣を振り下ろして、その痛みでバランスを崩したオークにテオはとどめを刺した。
(洞窟から出てくるよ)
荒々しい息使いと共に洞窟の中から四体のオークが飛び出してくる。
俺はテオに合図をして真っすぐにオークに向かって行く。
その四体のオークは盗賊が使っていたと思われる両手剣やメイスを握っている。
手前のオークの剣を下に潜り込ようにして躱したが、そこにメイスが振りぬかれ俺の顔面を捉えた。
その衝撃で後方に一回転してしまうが、その力を利用して一体のオークを切り裂いた。
俺が正面から飛び込んだ隙にテオは一番後方にいたオークの背後から近づいて、延髄に剣を突き立てて殺した後、また森の中に隠れて行く。
俺の目の前にはメイスを持ったオークと槍を持ったオークがいて、まだ洞窟の中にはもう一体いるはずだ。
槍を持っているオークはテオが何処から来るのか気になる様で周囲に目を配りながらその場を動かないでいる。
俺に対してオークがメイスを振り下ろしてきたが、俺は判断を誤って剣で受けてしまった。
いとも簡単に折れの剣は砕けてしまい、そのまま脳天にメイスが振り降ろされ、俺は地面にうつ伏せに倒されてしまう。
そのまま俺の後頭部に執拗にメイスが振り降ろされると、頭上から誰かの悲鳴が聞こえて来た。
(二人とも、今助けにいくから)
「来なくていい}
俺とテオは偶然にも同時に答えた。
テオは槍をもったオークと対峙しているが武器の間合いが違う為か攻める事に難儀している。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
洞窟の奥から地面が振動で震えて来るほどの雄叫びが響き渡って来た。