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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第十八話 ヤジて山へ

 実は盗賊を襲ったオークは普通のオークでは無く、変異種のようで体長が一回り以上大きく三mを越えている。

 若干ながら知恵もあるらしくて、霧雨が降る日に棍棒を持って盗賊のアジトを襲撃したそうだ。

 ただ軍勢という程では無くて、そこは普通のオークと同じように十体以下で行動をしていたらしい。


 顔色が青白く変化したグレタは震える声を発した。


「そんなオークを私達だけで討伐しろと言うのですか」


 マグロフは頭を掻きながら哀れみを浮かべた表情をしてくる。


「残念ながら戦うのはアル君とテオ君だけでやらせろとの指示だ。残りの三人はサポートに徹するんだ。君達サポート組の護衛として俺ともう二人が一緒に行くよ」


「そんなっ、変異種を俺とアルだけで討伐するのですか」


 テオは思わず立ち上がりマグロフに詰め寄ろうとしたのが、俺はテオの肩を押さえて進めないようにした。


「勿論私はレオニダス様にそう言ったよ、普通のオークで全員でやらした方がいいのでは無いですかってな」


「そうしたら先生は何と答えたのですか」


 テオはまだ興奮しているせいか声を張り上げている。


「ランベルト様の指示だ。君は逆らえるのか、だとさ」


 その言葉で俺は全てを理解してしまった。

 もうこれは決定事項であって、何を言っても変わらないし、本当だったら俺一人でやらせたかったのだろうがテオは単なる巻き添えに過ぎない。


「ごめんなテオ、諦めて戦うしかないよ」


 テオはあからさまに項垂れている。

 そんなテオを見て同情したのかマグロフは俺達に飲み物を用意して一人一人に渡し始めた。


「まぁあれだな、護衛に付く私達なら変異種とはいえ討伐は出来るから、君達に危険があるようなら直ぐに助太刀に行くよ。ただ私達が手助けをしてしまうと君達全員を留年させるつもりらしいが」


 今まで他人事のように聞いていたディアナはその言葉に動揺してしまう。


「留年って特色課の生徒だけですよね」


「五人ともと聞いているから全員じゃないか」


 今度はディアナまでも項垂れてしまった。

 いきなりこんな事に参加させられ、関係ないのに連帯責任を負わされてしまうディアナには同情してしまう。


 その日は部屋を与えられ、各自は色んな思いを胸に抱えながら眠りについた。

 テオは緊張の為か眠れないらしく身体を何度も体勢を変えていたが、俺は身体が睡眠を求めていたようで気が付くと朝を迎えていた。


 討伐に付き合ってくれる兵士はマグロフ小隊長、バルテル副官、新人のドナートだ。

 彼等は自分達で討伐にいくのであれば緊張などはしないのだが、学生でしかも二人だけで戦わせようとする指示に対してかなりの不安を抱えている。


 それでも俺達に変異種がいるヤジテ山の地形や盗賊のアジトがあった場所を真剣に教えてくれている。

 アジトの周りには生活をするには環境が恵まれているのでオークもそこにいる可能性が高いそうだ。


「これで基礎知識は教えたぞ、これからは君達が考えて行動するんだ。俺達は余程の事がないと口を挟んではいけないんだ。いきなり大変だとは思うが、あの二人が言い出したことだから決して不可能では無いと思うぞ」


 感覚で過ごしているあの二人には深い考えなどある訳はないのだが、俺達は諦めてヤジテ山に入って行く。

 先頭からテオ、ユナ、グレタ、ディアナ、俺の順で列を作り、マグロフ達は少し後ろを付いて来る。

 山に入るとディアナは振り返って来た。


「ねぇ二人だけで本当に大丈夫なの、私は留年の巻き添えは嫌だけど、だからって無理して大怪我されるよりはマシなんだからね」


「ありがとう、それでも限界まで頑張ってみるよ」


(静かに、この先から何かが来るみたい。姿勢を低くして) 


 グレタの声が頭の中に聞こえてくる。

 テオは姿勢を低くしたまま森の中に消えて行った。

 テオは木などに普通に触っているが、不思議な事に音は一切聞こえてこない。


「変異種と同じ大きさ位の二角熊がこの先にいるけどどうする、迂回するかそれとも倒すかだな」


「ちょっと俺が一人で行っていいか、練習台になって欲しいんだ」


 俺のスキルが完全に元に戻っているのか試してみたいのでやらせて貰うことにした。

 ユナによるとそれ以外の異変は感じられないそうなので、俺ユナ達にその場に残って貰い、テオに案内してもらって近づいた。


 二角熊は食事中のようで何かの死体に一心不乱でかぶりついている。

 俺は剣を構えながら進んで行くが恐怖心が鎌首を持ち上げる事は一切ない。

 その事で気が緩んでしまったのか。枯れ枝を思いきり踏んでしまった。


 音が鳴ったと同時に襲ってきて、二角熊の強烈は張り手が俺の頬に当たって来る。

 そのまま吹き飛ばされて近くにあった大木に叩きつけられてしまった。      

 この一撃で勝利を確信した二角熊はよだれを垂らしながら大きく口を開けて噛みついてこようとした。


 俺はその口の中に目掛けて剣を突き刺した。

 両手が口の奥にまですっぽりと埋まってしまう程深く突き刺せたのだが、二角熊の突貫してくる動きは治まらず俺が背にした大木もろとも押し倒してしまう。


「テオ、近くにいるか、ちょっと手が動かせないんだ手伝ってくれよ」


 俺と二角熊は大木に押しつぶされ、しかも両手は口の中に埋まったままなのでどうにも一人では動く事が出来ない。


「何だよお前の戦い方は、普通なら躱したりするだろう」


 俺を巨木の下から引きずり出しながら文句を言ってくる。


「わざとに決まっているだろう。そのおかげでスキルが完全に戻った事が確認出来たよ」


 二角熊の血を浴びてしまった事はちょっと気になってしまったが、それよりもあの部屋に入ろうとしてもその気配すら感じられなかった事の方が心に引っかかる。


 密かに戦いを見守っていた兵士達は今見た光景が信じられなかった。


「隊長、あの子の戦い方は狂ってますよ。なんで避けようともしないんですかね、そんなに自分のスキルを信じられるものなんですか」


「そりゃあ、あのお方の孫だからな、勇者では無いにしろ普通じゃ無いんだろ。俺達の出番はないかもな」

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