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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第十七話 ムスタホ村に到着

 街道をこのまま進んで行けばナワーフ村に辿り着き、その中で一晩過ごす事が出来たら此処に比べればかなり快適だが、レオニダスがその事を知ってしまったらどんな罰を与えてくるのか分からない。

 村に入る事を諦め比較的広い場所で休息をとる事にした。

 

 俺とグレタが近くの小川で水を汲んで帰って来る僅かな時間に、ユナとテオのコンビは早くも狩りを終えて解体作業をしていた。


「アル、随分と遅いじゃないか、寝てばかりいてかなり身体がなまっているようだな」


「いやいや、お前らのその狩りの早さが異常だろ、何をしたらそうなるんだ」


「お前がいない間は、俺達にも色々あったんだよ」


 ユナもグレタも思い出してしまったようで一回だけ身体を震わせた。

 俺がいない間にレオニダスは何をしたのだろうか。


「ねぇ、薪は無いのかな」


 ディアナはグレタのスキルで体調を悪くしてしまっていたのだが、ようやく元に戻ったらしくワゴンの中から出て来た。

 薪をディアナの前に並べると簡単に魔法で火をつける。

 やはり魔法というのは便利なものだ。


「ユナのスキルも攻撃に使えたりするのかな」


 ディアナは小さく切った肉を口に運びながらユナに聞いている。

 グレタのスキルに意外性があったので、ユナにも期待したのだろう。


「無いんだよこれが、私は完全にサポート役でしかないよ、ただ様々な異変に対応しているから不便ではないけどね、ちなみに天候もだよ」


 ユナに感心したディアナは次にテオに興味を持ったのだが、テオにははぐらかされてしまった。

 スキルの特性を全て話さない者は別に珍しくは無いのでそれ以上の詮索をディアナは諦めた。


(テオはね、音を全くたてないで動く事が出来るようになったよ。まだ今はそれしか出来ないから言いたくないだけだよ)


 グレタの声が頭の中に聞こえて来た。

 俺はグレタに視線を合わせないようにして頷いた。

 ディアナは食事が終わったらこの場所で睡眠がとれると思っていたらしく見張りの順番を決めようとしたが、残念ながら特色課にはその考えはない。

 半年もたってしまうとユナでさえ出発の準備を始めている。


「ちょっとこんな時間に移動するのは危険じゃ無いの、せめて道が明るくなるまでここに居た方がいいでしょ」


 まだ郊外活動をしていない魔法課のディアナには信じられないのだろうが、俺は少しでも早く目的地であるムスタホ村に着きたいのでディアナにお願いをする。


「ディアナには悪いんだけどさ、馬に回復魔法を掛けてくれないかな、それさえしてくれればもう寝ていてもいいよ」


「馬に回復魔法なんてした事ないけど、効くのかなぁ」


 戸惑いながらもディアナが馬に回復魔法を掛けると、馬の目に力がみなぎっている様な気がする。

 鼻息も荒くなってきたので走りたくてたまらなくなっているようだ。


 馬とは反比例したかのようにディアナは体調が悪くなってしまい一人では立てなくなってしまった。

 俺はディアナを抱えながらワゴンの中に連れて行った。


「馬に魔法を掛けると必要以上に魔力を使うって事が分かったわよ」


 悪いとは思ったのだが、ディアナにはその後も二度の休憩の度に馬に回復魔法を掛けてもらい、そのおかげで夕方にはムスタホ村に到着する事が出来た。


 ムスタホ村は木の柵に囲まれているだけの小さな村なのだが、村の正門には門番が立っていて村に出入りする人間を一応調べている様だ。


「すみません。マテウス王立上級学校の者ですが小隊長のマグロフさんはどちらにいらっしゃいますでしょうか」


 門番をしている兵士は俺達の顔を見ると明らかに可哀そうな物を見るような視線を投げかけてくる。


「話は聞いているよ、君達がレオニダス様の生徒なんだな、あの人はまだ学生の君達に無茶な事をさせるよ、まぁとりあえず俺のついてきな」


「お気持ちは嬉しいのですが、ここから離れてしまって大丈夫なのですか」


「気にするな、この辺りを根城にしていた盗賊はもういないからな」


 その言葉に違和感を感じながらついて行くと、この貧祖な村の中にあるとは思えない程の立派な二階建ての隊舎に案内された。

 この隊舎の中では七人の兵士が在中しているそうだ。


 俺達は奥の部屋に案内され、その中には書類に埋もれている武骨な男が壁際にある机の後ろに座っている。

 テオがその男に手紙を渡すと、何度も読み返した後でようやく俺達の方を見た。


「私が此処の小隊長をしているマグロフだ。連絡を受けた時は冗談だと思ったがこの手紙を読んで諦める事にしたよ。君達はこの事についてどう思うんだ」


 俺と目が合ってしまったので、代表して答える事にする。


「私達は研修としか聞いておりません。研修なので兵士の方々の手伝いだと思うのですが」


 俺の答えにテオ達も頷いているが、額に汗を流し始めている。

 俺も何故だか喉が渇いている様な錯覚を覚えた。


「普通はそうだよな、学生はこれからの道を決めるために地味だと思える仕事から学ぶんだ。けどランベルト様とレオニダス様にはその考えは持ち合わせていない様だな、君達はこの辺りの盗賊を襲ったオーク退治が研修の内容になっている」


 この季節はオークが繁殖期を迎えるので気性が荒くなっている。

 普段なら森の奥にいるのでこの時期でも影響は余りないが、今回は盗賊がオークの縄張りの中にアジトを作ってしまったので争いが起こってしまったそうだ。

 逃げてきた盗賊によると殆どが殺されてしまったらしい。

 オークは人間の味を覚えると再び人間を襲う事があるので討伐をしなければならない。


 この事は当然ここに居る兵士が対応しなければならないのだが、それを聞きつけたレオニダスが祖父と相談したうえで俺達の訓練にあてたようだ。


「君がランベルト様の孫なのだろ、大変だよな君は、それに巻き込まれる君達も」


 俺をマグロフは見てからテオ達にも視線を向ける。

 俺の身体にはいくつもの視線が刺さっている様に思え、一瞬だけ冷や汗をかきそうになったが今はもう冷静になっている。


 「苦痛変換」のスキルは有能だ。

 この仲間から受ける恨みのような視線にも耐える事が出来るのだから。

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