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勇者の系譜~俺に勇者のスキルがなくとも~  作者: アオト
第二章 マテウス王立上級学校六学年
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第十四話 帰還

 テオ達は、自分の目の前で起こった事が理解出来ずに茫然としてしまったが、何とか気持ちを持ち直し、倒れているアルとレオニダスの元へ駆け寄って行く。


「ねぇ今のは一体何だったの」


 走りながらユナはテオに聞くが、テオも困惑している。


「知るかよ、俺だって教えて欲しいよ。それより二人は生きているのか」


 ユナがレオニダスを揺さぶるとレオニダスはゆっくりと目を開け始めた。

レオニダスは身体の何処にも痛みを感じず、全てが幻覚であったのかと疑ったが、服にこびり付いた血の塊が幻覚では無かった事を証明していた。


「どうして私は生きているんだ。それに奴らは何処に行ったんだ」


「多分、アルが魔人を全て倒したんだと思います。それに先生も……」


 ユナの視線の先にはテオとグレタがアルの身体に回復薬を必死に掛けている。


「駄目だ、全然目を覚まさないじゃないか、グレタ、飲ましてみろよ」


 アルの服を脱がせながら回復薬を掛けていたテオが頭に回復薬を掛けているグレタに言った。

直ぐにグレタは回復薬を飲ませようとするが、意識が無いためなのか口の端から漏れてしまう。


「口移しで飲ませるんだよ」


 テオが言い、グレタは直ぐに回復薬を口に含むが少しだけ躊躇してしまう。


「もういい、貸しなさい」


 レオニダスはグレタから回復薬を奪い、口移しでアルに飲ませると顔色は徐々に良くなっていき、苦しそうだった顔も今では気持ちよさそうに眠っている様だ。


「可哀そうにな、グレタだったら目が覚めたら喜んでくれると思ったんだがな」


「こんな時にあんたは一体何を考えているの」


 思わずテオは呟いてしまった為に、聞かれてしまったテオはグレタから平手を食らってしまった。

ユナは呆れたようにテオを見たが、じっとアルの様子を見ていたレオニダスは怒鳴った。


「こんな時にいい加減にしなさい。私が倒されてから一体何があったのかちゃんと説明しなさい」


 ユナとグレタはテオを睨みつけたが、テオをその視線を無視しながらレオニダスに説明をするのだが、要領よく話す事が出来ない。


 テオが知っているのは、アルがいきなり立ち上がったと思ったら、次の瞬間にはハーピーやオーガがやられていった事だけだ。

たまにアルの姿が見えるので、これをやっているのはアルだという事は理解出来るのだが、余りにもアルの動きが速すぎて本当にアルなのかは確信が持てなかった。


 グレタも同じように思っていたが、ユナには二人よりも目で追う事が出来た様で、少しだけ補足しながらレオニダスに報告をした。

報告の最後にはアルの動きは同じ人間がした事とは思えず、魔人でさえ何も出来なかったと付け加えた。


 レオニダスは寝ているアルを見ながら考え始めた。

ランベルトが現役の勇者だった頃、ごくたまに自分の身体を加速させるようにしたが、「勇者」のスキルを持たないアルにそのような動きが出来るのか不思議で仕方が無かった。

「俊足」のスキルを持つ者でさえランベルトの速さにはほど遠いものだった。


 ここで考えてもどうしようもないので、一先ずこの訓練塔から降りようとしたが、誰もがジョンソの事を忘れていた。


「おい、ジョンソは何処にいるんだ。誰か知らないのか」


 テオは動き出す前はジョンソの側に居たが、そこの場所にジョンソの姿は見えなくなっていた。

ユナと顔を見合わせたが首を振るだけだ。その時、何処からか鼻をすすっているような音が聞こえて来た。


 テオは瓦礫の奥から聞こえている様な気がしたので近づこうとしたが、レオニダスに肩を掴まれた。真顔になっているレオニダスは一人だけで瓦礫の奥に進んで行くと、そこにジョンソは膝を抱えながら蹲っていた。

そっとレオニダスがジョンソに触れると一度だけ大きな叫び声をあげ、レオニダスの顔を見た後で気が狂ったかのように泣き始めた。


「もう大丈夫だよ。本当にすまない事をしたな、私があんな風に現れたのに簡単にやられてしまったのだからな、折角、助かったと思ったのに直ぐに絶望が襲って来たんだろう。だがな、騎士を目指すのであればこれを乗り越えないといけないよ」


 レオニダスはその場にジョンソを残しアルの方へ戻って行く。

心配になって代わりにジョンソに寄り添うつもりで駆け出したグレタの腕を掴んだ。


「暫く一人にしてあげなさい。騎士を目指すのであれば一人で乗り越えなくてはいけないんだ。それよりも君達も自分の行動が本当に正しかったのかよく考えるんだ」


 テオ達は何も言葉を発する事が出来なかった。

三人は魔人に対して何も出来なかった事を十分に理解していた。

アルがやられていた時でさえ助けようともせずに、ただ震えながら見ていた。


「先生、俺、もっと何か出来たはずなのに全てをアルや先生に任せてしまいました」


 テオは段々と自分の行動が悔しくなって下を向きながら大粒の涙を流し始めた。

つい先程までは助かった事に喜び浮かれていたが、時間が経つにつれ冷静に考える事が出来るようになると、自分の不甲斐なさが悔しくてたまらなくなった。


「君がどこの配属を希望するのか分からないが、今日の悔しさを励みにもっと鍛えるんだ。どんなに優秀な騎士でさえ最初に魔人と戦う時は恐怖を覚えるんだ。まだ学生の君が何も出来なくても仕方が無いんだよ」


「でもアルは最初から魔人に話し掛けたり、攻撃もしたんですよ、それに魔人を倒したのはアルです。俺とそんなに実力が離れているとは思わなかったのに」


 レオニダスは一瞬だけ視線をアルに送った。


「それが出来たのはスキルの影響もあるのかも知れないが、彼は幼いころから父親の意思を継ぐために鍛えたからな、魔人に対して敵愾心が人一倍強いのだろう」


「そんな、先生、意思を継ぐと言っても魔王はベンノ様が相打ちで倒したのではないですか、アルは魔族の全てを滅ぼしたいと思っているのですか」


 グレタはアルを抱き起こしながらレオニダスに尋ねるが、レオニダスは黙って首を振るだけだった。


 アルは未だ意識を回復せず、ジョンソも放心状態になってしまったが、四人で瓦礫を片付けた後で王都へと帰還した。



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